第120話〜支配された異世界① 静寂な銀世界〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
冬真っ只中のある日。
この日は世界がかつてない程の静寂に満ちていた。早朝だからと言えばそれまでだが、それならばこの何とも表現し難い違和感の正体は何だろうか。辺り一帯が滅びたと言われたら信じてしまいそうだ。
「ん……」
そんな中、朝日に照らされる訳でもなく、自然と目覚めた私がやはり最初に気付いたのはその『違和感』だった。
「やけに静かだな……さむっ」
日差しの有無は曇りやら雨やらで説明がつく。しかし今は雨の音どころか、風の囁きすら聞こえてくる気配が無い。
「まぁ、いいや。よいしょっと」
兎にも角にも、まずはベッドから降りなければ一日は始まらない。なので――
「むぐ……」
と、コロリンを押しのけ
「ぐえ……」
と、ちょっぴりバランスを崩してレヴィナを踏んずけながらも床の上に立った。ちなみにフユナは降りる側とは反対側で寝ていたので被害はゼロ。
心做しかいつもより冷たく感じる床から一歩踏み出し、導かれるようにたどり着いたのは、すぐ横にある庭を一望できる窓。
「これって」
外の景色に目をやると、そこに広がっていたのは一切の色を失ったかのような真っ白な世界。その光景に込み上げる感情を抑えながら、私は目の前の窓を勢いよく開け放った。
瞬間。
「!?」
私は凍った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「わーーい、雪だーー!」
「ガウガウ!」
先程までの静けさはどこへやら。辺りに響くのはこの世界を祝福するようなフユナやグロッタの声。滅びたと勘違いしてしまう程の静寂の正体は、世界を支配する『雪』だった。
「ほっ」
「まったく。朝からなにシリアスを気取ってるんですか、あなたは」
とか何とか言いながら私の横に立つコロリンだが、顔は喜びで紅潮し、その足は我慢できないとばかりにザクザクと雪を踏み締めていた。
「コロリンこそほら。クールキャラ演じてないでフユナ達と一緒に駆け回ってきたら?」
「う……」
見れば目の前の草原――今となっては雪原だが、そこではフユナとグロッタが元気良く走り回って思い思いに雪と戯れていた。それはレヴィナも例外ではなく、雪でカマクラを造り、そこへ引き篭もって遊んで(?)いた。スフレベルグに至っては寒過ぎてツリーハウスで冬眠中らしい。
「ほら、楽しいぞぉ!」
「ひゃあーー!?」
いまいち煮え切らないコロリンが隙だらけだったので、とりあえず景気付けに雪でサンドイッチしてやった。この子はイタズラっ子のくせにリアクション芸人並の反応をするもんだから、こちらもついついイタズラをしたくなってしまう。
「なにをするんですかぁ!」
「ぶっ!?」
お礼の品として飛んできたのは拳大の雪玉だった。明らかに硬さが増しているのはお得意の『コンゴウセキ魔法』によるものだろう。
「ちょっと!? それチート!」
「ふふ。動かすなら手を動かした方がいいですよ! それ!」
「ぶっ!?」
「あ、楽しそう! フユナもやるーー!」
「ぶっ!?」
「む、それならわたくしもご一緒に! (ズドン)」
「ぐふっ!?」
「……(ヒュン!)」
「……ぶっ!?」
突然開始された家族達による総攻撃。コロリンは鈍器並の雪玉。フユナは標準的な雪玉。グロッタは口に含んだ雪玉を大砲の如く発射。レヴィナに至ってはスナイパー並の精度で遠距離から雪玉による狙撃と来たもんだ。これ、完全にリンチでしょ……
「てかストップストップ!? それもう攻撃だから!」
「「「アハハ、アハハハ♪」」」
「ひぇーー!?」
もはや家族達は何かに操られ本能剥き出しとなった人形だった。私はそんなに恨まれてたのだろうか?
「このら悪魔めっ!」
「ルノーー逃げちゃダメだよーー!」
「ゲラゲラ!」
「レヴィナ、チャンスですよ!」
「お任せ下さい……ふふふ!」
もう無理だこれ! やらなきゃやられる!?
「も、もう怒った! もう怒ったからね!? いいの!?」
「ふふ。ルノも随分とリアクション芸人が板についてきましたね。それ!」
「ぶっ!?」
はい、スイッチオン!
「迫る崩壊、破壊の鉄槌。全てを砕け! 氷拳・プーニョ!」
「「「!?」」」
目にも止まらぬ高速詠唱。発動と共に対象へと迫るのは、拳を模した氷によるゲンコツ。それはもう見事に全員のつむじを捉え――
「いたーーい!」
「ぎゃあああ!?」
「にやり……(コンゴウセキ魔法)」
「うぎゃ!?」
ぎゃあぎゃあと転げ回る家族達。そして、そんな賑やかな銀世界に立つのは一人の氷の魔女。それはもちろん私であり、勝者が決定した瞬間だった。
「ふっふっふっ。思い知ったか!」
「私は無傷ですけどね」
約一名。無傷でドヤ顔をするコロリンを他所に、私の勝ち誇った声が雪原に響いたのだった。
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「そろそろ焼けるよーー」
結局、あの後も何回戦かした後に、すっかり遊び疲れた私達はレヴィナが造ったカマクラへとやって来てお昼休憩をする事となった。
「わ、美味しそう!」
「考えましたね」
「ゴクッ!」
カマクラといえば中で火鉢を囲みながらモチを焼くのが定番ではないだろか。それを証明するのはカマクラを満たす焼けたモチとショウユの香ばしい香り。うむ、間違いない。
「みんな行き届いたかな? それじゃあまずはご挨拶を。本日は天気にも恵まれ実に」
「ルノ、おモチ冷めちゃうよーー?」
「む、確かに。んじゃもう食べちゃおう!」
という訳で午後に備えてまずは腹ごしらえ。天気に恵まれたのは事実。だけど時間が勿体無いのも事実。それならさっさと食べて思う存分遊ぼうじゃないか。
「「「いただきます!」」」
冬の醍醐味、雪合戦。
今日という一日が私達家族の大切な思い出の一ページとして刻まれたのでした。