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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
119/198

第119話〜初めての魔法〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。

 



 透き通った空気に心地良い風。辺り一面に広がる草原には遮蔽物が一切無く、まるでここだけが私のために用意されたかのような空間となっている。


 そんな草原の隅っこ。あまり馴染みは無いが近くの村『ヒュンガル』へと続いている道の始まりには一つの建物がある。大木をそのまま持ってきたようなむき出しの柱に、白塗りの綺麗な壁が特徴的な二階建ての家。それは贅沢にも私の家だ。


 元々はこの家もヒュンガルが管理していたものだが、住む人もおらず草木も生え放題。『それでも良ければ』ということで譲り受けたのだが、当初は本当に苦労したものだ。一年でここまで整備した私を褒めて欲しい。



「ま、右も左も分からない私が住居を頂けたのは幸運と言う他ないよね。よし、今日もゆっくりまったり……スローライフを満喫しますか」



 私の名前はルノ。


 不老不死だけが取り柄の何の変哲もない人間の一日が今日も始まります。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「んしょ」



 ドサッ。


 山で採れたキノコや魚、それらを焼いただけの簡単な朝食を済ませた私は、草原にある手頃な木や枝を集めて、開拓もとい食後の運動をしていた。



「んしょっと!」



 ドサッ!


 最後の一つ。一際大きな木を資材置き場としている場所に放り投げて終了。魔法でも使えたら楽なのになぁなんて思いながら、ほっと一息吐くと、何やらガサガサと近くの茂みが動いたのは突然の事だった。



「むむ……」



 この世界に転生してから約一年。近くの山で食材調達するにあたって、幾度かモンスター(スライム)との戦闘も経験しているのでそれなりには戦えるはずだ。石投げたり棒で叩いたりするだけだけど。



「いや、待って。結構大きくない……?」



 私の顔が緊張に染まるのは一瞬だった。何故なら……まだ完全に姿を現した訳では無いが、ガサガサと揺れる範囲からは、少なくともバスケットボール程のサイズがあるいつものスライムではない事だけは見て取れたから。



「と、とりあえず武器武器……!? これっ!」



 焦りつつも咄嗟に武器になりそうな枝――先程集めた資材を拾ってみる。未だ出会ったことは無いが、もしそこにいるのがクマなどだった場合、私は一瞬で終わるだろう。これはもしや逃げるが勝ちというやつでは?



「え、えっと……うぅ……」



 だが、この怯えきった状況では枝を握って立ち竦むのがやっとだった。視線の先には相変わらずガサガサと動く茂み。そしてガサッ! っと一際大きな音をたてたかと思うとそこへ現れたのは――



「え、え……? 犬……いや、狼……かな? びっくりしたぁ……」



 拍子抜けもいいところ。とは言っても、その大きさは大型犬、もしくはそれ以上の大きさはあるので襲われたらひとたまりもない事に変わりはない。



「ど、どうしよう……パッと見かわいいけど……?」



 その狼らしき生き物は白銀に輝く体毛が実に見事で

、触るまでもなく気持ちいいのが分かる。こんな状況でなければあのつぶらな瞳をしたモフモフの物体をモフモフしたい。



「うわっ……ま、待って……!?」



 こっちへやって来る!



「〜〜!?」



 しかしちょっとかわいいだけにせっかく拾った枝を振り下ろすこともできない。でもやられてしまっては元も子も無いんだ。心を鬼にするか……するのか!?


 とか何とか悩んでいるうちに狼は目の前までやって来て――ドン。



「うわっ」



 止まること無く狼は私のお腹辺りを軽く頭突き。擦り付けてきたと言う方が正しいかもしれないが、へっぴり腰の私はそれだけで尻もちをついてしまった。しかし不思議なことに焦る気持ちは一切無かった。ぺろぺろ舐めてくる事から分かるように、取って食う気は無いらしく、敵意が無い事だけは確認できたのだから。



「こ、怖かったぁ……もう、驚かせないでよ」


「ガウ」



 という訳でそのままモフりタイムスタート。変わり映えの無かった生活に変化が訪れたのはまさにこの運命とも言える出会いがきっかけとなった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はーーい、焼けたよ」


「ガツガツ!」



 あれから一通り遊んだ私と狼は焚き火の周りに腰を下ろしていた。というのも、どうやら狼はお腹が空いていたらしいのでおもてなししてあげることにしたのだ。捕食されなかった事に感謝。



「君、よっぽどお腹減ってたんだねぇ。お肉が無いのが申し訳無いけど遠慮なく食べてね。山菜もなかなかイケるでしょ?」


「ガウガウ!」


「うんうん。いい子いい子」



 この子と出会ってからまだ数時間の仲だが、それでも一人暮らしをしていた身としてはこうして話せる仲間がいるというのは実に新鮮である。言葉が通じているのかは不明だが。



「てか君、本当によく食べるね。ちょ、ちょっと……? おーーい」


「ガツガツ!」


「あ、あのーー? まだ食べる? まだ食べちゃうの?」


「ガツガツ!」


「あ、左様ですか……」



 食べ続けることをもって返事とされた。ちょっとこれは予想外だったな。



「……」


「すやーー」



 狼の食事が始まってから約一時間。その場に残ったのはほんの僅かなキノコとお魚一匹。そしてそれなりに溜め込んでいた我が家の食材たちをその胃袋に収めた狼のみ。



「これが捕食という運命から逃れるための代償というやつか。うぅ、泣きたい……」



 だがこういうどうしようもない運命は早々に受け入れるのがベスト。私の行いによって狼が満足そうな顔で寝ていることを思えば自然と晴れやかな気分になってくるというものだ。ぐす……。



「よーーし。こうなったら食べた分はその身体で払ってもらおうじゃないか。それじゃあちょっと失礼しますよーーっと」



 狼が目の前でひっくり返って熟睡しているのをいいことに、そのモフモフお腹に遠慮なくダイブ。これはモフモフしない方が失礼というものだろう。ついさっきしたばかりだけど。



「おぉ……! やっぱりモフモフだ。君はなんてモフモフなんだ〜〜♪」



 両手でモフモフ。顔を突っ込んでモフモフ。何をしてもモフモフ。これぞ異世界初のモフモフライフ!



「モフモフモフモフ。いやぁ、これならご馳走したかいもあったよ。モフモフ」



 綿毛のようにふわふわの体毛。それを枕にして横になる私。ぱちぱちとはじける焚き火の音だけが、静かな草原に響く。



「……」



 絵に描いたようなスローライフを送ること数時間。モフることにも満足した私がのんびり空を見上げていると、狼がもぞもぞと動き出した。どうやらお目覚めの時間みたいだ。



「ちょっと待ってね。いま起き」


「……(ゴロン)」


「うぎゃ」



 私が退ける間も無く寝返りをうたれて、モフモフのお腹から落下してしまった。柔らかい芝生だったのが唯一の救い。



「いたた。もう……待ってって言ったのに」


「ガウ?」



 狼もすっかり目覚め。大きな口を開けてあくびするその姿はなかなかの迫力である。ちょっと離れよう。



「おはよう。よく眠れたかな?」


「ガウ」


「うんうん、それは何より。さて、食材もほとんど無くなっちゃったから私はこれから山に採りに行ってくるね。二、三時間で帰ってくると思うし、もし良かったらここでのんびりしててもいいよ」


「ガウ」


「ん?」



 のっそりと起き上がった狼が『お供しますぞ』とばかりに私の隣にやって来た。



「あはは。それじゃ一緒に行こっか」


「ガウ!」



 これぞまさに狼の恩返し。私がよく食材調達に行く『ヒュンガル山』には動物だけでなく、スライムなどのモンスターもいるのでお供がいるというのはかなり心強いぞ!




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 という訳でやって来ましたヒュンガル山。


 足を踏み入れや否や、さっそく現れたプニプニの物体、スライム。そしてそれらを理不尽なまでの強さで蹂躙するのは、資材置き場から拝借してきた手頃な棒を装備した私。……ではなくお供の狼だった。



「あ、スライム発見。倒しちゃうからちょっと待っ」


「ガウ!」


「え?」



 ある時は『ギュン!』と目にも留まらない早さで『バクン!』とスライムを丸呑み。



「むむ、あそこにもスライムが」


「ガウガウ!」


「えぇ!?」



 またある時は、鳴き声と共に地面から突き出す氷の槍でスライムを串刺し。まるでお団子だ。



「ポカーーン……」



 バクン! グサグサグサ! バクバク!


 その光景を前にして、私は唖然とする他無かった。しかしそんな中でも未知を体感するというのは大きな意味を持っていたようで、私の興味はある一つの攻撃に釘付けとなっていた。


 それは――



「その氷……もしかして君、魔法使えるの?」


「ガウ!」


「すごい!!」



 心做しか、ちょっぴりドヤ顔の狼さん。表情豊かなのが面白いが今はそれどころではない。この昂る気持ちを何とかせねば。



「ねぇねぇ! 良かったらそれ私にも教えてくれない!?」


「ガウ」


「やった! ありがとう!」


「ガウ!?」


「あ、あれ……? 違ったかな? 『ダメ』って意味の『ガウ』かな?」


「ガウ」


「しょぼーーん……」


「ガウ!」


「ほんと!?」



 私の落ち込みようを見かねてか、オッケーの返事をくれた。それとも魔法を伝授してくれる事こそが恩返しなのかな?



「とにかくありがとね! でもどうしたらいいのかな。私、魔法なんて使った事ないけど」


「ガウ」


「なになに……『魔法はイメージが全て。詠唱なんてその気になれれば何でもオッケーですぞ!』って? うーーん……自分で言っておいてアレだけど、君の意志をちゃんと読み取れてるのか不安になってくるな。まぁ、一度やってみるね」



 ではレッツトライ。



「むむむ……氷〜〜! 氷〜〜!」



 とりあえず目の前の石ころにそれっぽく手を前に翳してひたすらイメージ。


 数秒後。



「あ、見て見て! 凍ったんじゃない!?」



 再びテンションマックスとなる私がそこにいた。それも当然。手を翳していた石ころが氷に包まれて一回りも二回りも大きな氷塊となったのだから。



「もしかして私って才能あるのかなぁ。へへへ〜〜!」


「ガウガウ」


「いたたた。なになに?」



 突然手を『カブリ』と噛まれた。本人は甘噛みのつもりなのだろうがそれなりに痛いし、サイズがサイズなのでけっこう怖い。魔法を強化するツボでも刺激したのだろうか。



「どうしたの? やっぱりまだまだですかね、先生?」


「ガウ」


「うーーむ、なかなか手厳しい……」


「ガウガウ」


「ん?」



 私の背後。狼の視線の先には新たなスライムが現れていた。チラッと私を見てから臨戦態勢になる様子からして、どうやらお手本を見せてくれるみたいだ。



「ガウ」


「ふむふむ?」


「ガウガウ!」


「おぉーー!」



 再び地面から現れた氷の槍がスライムを呑み込んだ。更に驚くべきはその威力。樹を髣髴させるそれは、先程よりも明らかに強力なものだった。石ころを氷漬けにしただけの魔法とはレベルが違うな。



「ガウ」


「氷の槍……か。よし、なら次こそ本番だ。私もだんだんとイメージが固まってきたよ!」



 やはり『見た事がある』というのは大きな財産だ。天高く突き出す氷。大樹の如き氷槍。込めた魔力を一気に空へ!



「え」


「ガウ!?」



 バキン!!!


 爆ぜる大地。弾き飛ばされる山の草花。そこに誕生したのは周囲のどんな樹よりも高く聳え立つ巨大な氷槍だった。



「「ポカーーン……」」



 私と狼、二人仲良くポカン。魔法って素晴らしいんですね。



「ガ、ガウガウ!」


「う、うん! よく分からないけどやったよ! モフモフモフモフ♪」



 嬉しさのあまりひたすらモフモフ。とにかくモフモフ。狼もまんざらでもないのか、ひたすらにモフモフれている。もはや食材調達の事など頭から消え去っていたがそんなのは些事に過ぎない。



「うふふ。初めての魔法だ! ありがとうね!」


「ガウガウ!」



 これが私と狼。そして魔法の出会い。


 氷の魔法にすっかり魅了されてしまった私は、狼とお別れしたその日からひたすらに魔法の特訓を繰り返し、いつしか最高の氷の魔法使いとなることを夢見るようになった。



 そしていつか――



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「んぁ……?」



 目の前には青空が広がっている。という事は、私は仰向けに寝転がっている訳で、後頭部にはやたらとモフモフとした感覚が。


 つまり――



「寝ちゃってたのか……」


「おはようございますルノ様。よく眠れましたかな?」


「おはようグロッタ。お陰様でね」



 目をこする手の甲にはうっすらと残る噛み付かれたような跡。確かこれはこの世界に来てから間もない頃に……そんな事を思いながらぼーっとする頭をゆっくり起こす。



「グロッタ?」


「なんです?」



 振り向けば必然的に目が合うのは我が家の番犬、怪狼・フェンリルのグロッタ。



「ん……」



 なんだか懐かしい夢を見ていた気がするのだがイマイチ思い出せない。しかし不思議なことに嫌な気分ではない。むしろ大切な何かを思い出した気さえする。いや、思い出せないんだけどね?



「まぁいいや。そろそろ戻ろっか?」


「そうですな。む、ルノ様。火の始末を忘れてますぞ!」


「おっと、いけないいけない。よーーし、いくよグロッタ」


「???」


「とりゃ」



 バキン!


 ぱちぱちと燃える焚き火を、地面から現れた氷の槍が呑み込んだ。長年使ってきた私が一番好きな魔法であり、一番得意な魔法。



「相変わらず見事な氷魔法ですな!」


「でしょでしょ? やっぱり才能あるのかなぁ?」


「かもしれませんな! わたくし以上の氷魔法を使えるのはルノ様くらいですからな!」


「ふっふっふっ〜〜!」



 この時。よくは分からないが、なんだかグロッタに認められたのが妙に嬉しく感じた。恩返しができたような、師匠に認められたような、そんな感覚。


 だから一言。これだけは言わせてもらおう。








「ありがとうね」


「ガウ!」



 ずっと言えなかった言葉を伝える事ができた。そんな清々しい気分のまま、私達は同じ帰路を仲良く歩くのでした。




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