第百十七話〜秋の味覚〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
夏の暑さも薄れ、過ごしやすくなってきた今日この頃。
季節は秋。スポーツ、読書……この季節には様々な行事が存在するが、今の私が夢中になっているのはそのどちらでもなく……
「んーー最高。やっぱり秋と言ったら焼きイモだよね」
「ガツガツ!」
そう、食欲の秋。紅葉が山を美しく彩る中、私とグロッタは秋の味覚に酔いしれている真っ最中だ。
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「ルノ様、あまり食べすぎては身体に毒ですぞ。あとはわたくしにおまかせください!」
「まだ二個目だから平気平気。あ、こら! 一気に食べ過ぎだよグロッタ!」
ガミガミとしょうもない口論を続けながらイモの奪い合いを繰り広げる私達。まるでそれを盛り上げるかのように、落ち葉で作った焚き火がパチパチと音を立てている。
「あぁ……グロッタの特大の一口でほとんど消えちゃった。仕方ないからもう少しイモを追加しようか。これで最後だから慌てないでよね。フユナ達の分も取っておかないと」
「ごく……!」
現在はお昼。今朝、サトリさんがお裾分けにと持ってきてくれたイモを見て、これは焼きイモにするしかないという特に捻りもない単純な思考からこうなった。因みに私とグロッタ以外は外出中。
「いやーーそれにしてもなんだろね。ただイモを焼いて食べるだけなのにこの美味しさ」
パリッと香ばしく焼けた皮から覗く甘い中身。いくらでも食べられちゃうなんて表現があるが、これはまさにそれだ。
「きっとこの雰囲気がそうさせるのですな。家の中で同じ事をしてもそれはただの焼きイモです!」
「若干アホっぽい言い回しなのは置いておいて……たしかにそれはあるね。なんかこう『焼きイモしてるぜ!』みたいな?」
「さすが、ルノ様もなかなかな言い回しですな! ゲラゲラ!」
「ん、それ褒めてる?」
「もちろんですぞ! なかなかにアホな言い回」
「そろそろ焼けたね。はいどうぞ」
「ぎゃあああ!?」
少々の寝言が聞こえてきたので、ご褒美に焼きたてのイモを木の枝でブスリと取り出してプレゼント。もちろん笑顔も忘れない。
「熱い! けどそれがまた最高ですな!」
「なんかそのネタ、久々に見た気がするなぁ。いや、ネタじゃないか」
グロッタはドM。ただそれだけのことだ。
「それじゃ、私も食べようかな。あちち……!」
そんなこんなで、少々肌寒い風に当たりながらイモを食べ進めること約一時間。焚き火は相変わらずパチパチと音を立てながら燃え盛っているが、イモは残り一つとなった。
「「……」」
どっちが多く食べたかなんてもはやどうでもいい。肝心なのは目の前にあるのが最後の一個だという事。
「グロッターー? もうお腹いっぱいだよね? って……」
「ゴクッ……!」
「……」
チラッと様子を伺うと、グロッタの目がイモに釘付けになっていた。耳はピクピクしているので話は聞いているのだろうが目線は一切動いていない。
「ぷっ! もう……どんだけ食べたいのさ。いいよ、食べて」
「では遠慮なく!(ムシャ!)」
「あっ……」
ほんとに遠慮なく食らいつくグロッタさん。やっぱり半分ことかにしておけば良かったかなぁ……
「まぁ、満足してくれたなら良かったよ。美味しかったね」
「まったくもって最高でした! サトリもいい物を持ってきてくれましたな!」
「うんうん。今度改めてお礼を言っておかないと」
「そしてあわよくば追加でイモを……!」
「あ、またそんなこと言って。そんなゲスいこと考えてたらバチが当たるよ」
「でもルノ様もちょっと期待してたのでは?」
「ううん、してないよ?」
「じろーー」
「……」
すいません、ちょっとだけ期待してました。
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その後。イモは無いものの、落ち葉はまだまだ沢山あったので、焚き火を続けながら私とグロッタは食後の休憩をとっていた。
「ふぁぁぁ……あったかくて気持ちいい……」
肌寒い気温と焚き火のコンビネーションがお昼寝には最高の環境だった。むしろグロッタに関して言えばすでに熟睡中。
「私もちょっとお昼寝しよう。おやすみ……」
というわけで、グロッタのお腹でモフりながらお昼寝開始。最高級ベッドのようなフワフワ感が私を夢の世界へ……
「すやーー………………(ブフォ!)」
「ん?」
意識を手放す瞬間、なにやら大きな音と微かな振動。そして数秒おいて私を襲ったのは猛烈な臭い。
「おえっ! く、くっさっ!?」
イモを食べた後のお約束。おならだった。あ、勘違いしないで欲しいけど私のじゃ無いよ? うん、もちろん。
「すやーー……」
「ゲホゲホッ! あたり一帯に臭いが……!? おえっ!」
グロッタのサイズで放たれたそれはかなりの威力を秘めていた。まるで毒ガスをばら撒かれたような……黄色のもやもやが目に見えるようだ。
「ひぃーー! 退散退散!」
結局……私は気持ち良さそうに熟睡するグロッタを置いてその場からそそくさと避難。ごく普通に家のベッドでお昼寝することとなった。
「まぁ、これも焼きイモの定番イベントとして良しとしよう」
少々強引ながら、ポジティブな方向に意識を持っていきながら、私は眠りに落ちたのでした。