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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第百十六話〜お料理初心者・コロリンちゃん〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。

 



「ふむ。今日のルノサンドはなかなかのお味ですね」



 ある日の昼食の席のこと。コロリンが突然、評論家気取りでこのような事を言ってきた。ちなみに『今日の』と言うだけあって、ここ最近の昼食はすべて献立は一緒だ。



「いつもと違う? 同じように作ってるから味は変わらないはずだけど」


「なんとなくいつもより美味しいですよ。そう……そう思わないと……!」


「あのーー……聞こえてるよ?」



 言葉が終わるにつれて、だんだんと声が小さくなっていったが確かに聞こえたぞ。さらにその目は『毎日同じ料理で飽きてきます。一時はレパートリーを増やそうと頑張っていたのに……残念です』とでも言いたそう。



「毎日同じ料理で飽きてきます。一時はレパートリーを増やそうと頑張っていたのに……残念です」


「あぁ! 本当に言った!?」


「はっ、しまった……」



 プイッと目を逸らして誤魔化すコロリン。もう遅いんですけど。



「まったく、このお嬢様は。ほら、見てみなよ。フユナとレヴィナなんてあんなにガツガツ食べてるよ」


「……(ガツガツ)」


「……(ガツガツ)」



 私とコロリンの真正面に座っているフユナとレヴィナ。その食べっぷりときたらそれはもう大変よろしいもので。



「ルノ……二人の目をよく見てください。死んでますよ」


「何を言ってるのコロリン。料理は口で食べるもの。目なんてどうでもいいんだよ」


「完全に現実逃避してますね」



 そんなことはない。これでもちゃんと現実は見えているつもりだ。確か二人がこんな目になり始めたのは一昨日くらいからだ。ルノサンド生活は今日で一週間目……無理もない。



「それでも食べてくれる。なんていい子達なの」


「ごちそうさまでした」


「お」



 なんだかんだ言いながらコロリンも完食。そしてそのまま席を立つ姿を見ながらちょいとお願いしてみた。



「思ったんだけどさ。今度コロリンが作った料理が食べてみたいな」


「あっ、フユナも食べてみたい!」


「いいですね。私もコロリンさんの手料理に興味があります……」


「え?」



 私の言葉で正気に戻った(?)フユナとレヴィナ。思えば私達は、今までコロリンの料理を食べたこともなければ作ってる姿も見たことない。純粋に興味が湧いてきた。



「ん、んんっ。んーー?」



 私が呼び止めると、ガッチリとその場に釘付けになって意味を成さない言葉を放っているコロリン。何か変なこと言ったかな?



「んーー? えっとぉ……んんんーー?」


「いや、だからコロリンの手料理が食べたいなぁってさ。今夜はコロリンのお料理が食べたいなーー! だめ?」


「……」



 もはや生きてるのか疑うくらいに動かなくなってしまった。ちなみに先程からコロリンは私達の視線を背中で受け止めている。表情は分からないが、汗がすごい。これは……?



「まさかコロリンって料理ができ」


「分かりましたっ!」


「わっ!?」



 やっと動いたと思ったら凄い勢いで振り返ってきた。



「えっと、そんなに必死にならなくてもいいからね……?」


「全然必死になんてなってませんよ? 今夜ですね。任せてください」


「うん、楽しみにしてるね」



 少々、興奮気味なのが気になったが、楽しみなことに変わりはない。じっくり待つとしよう。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そんなこんなで夕方に差し掛かった頃。



「こそーー……」


「ん?」



 私がリビングのソファーでだらけていると、コソコソとコロリンがやってきた。おそらく夕飯の支度をしに来たのだろうが……



「ちょっと早くない?」


「わっ……いたんですか」


「うん、そりゃ我が家だし。準備が大変なら手伝おうか?」


「え、あぁ……んんーー?」


「また始まった」


「じゃあせっかくなので手伝わせてあげます」


「いや、別に大丈夫なら」


「手伝ってくだ……だ、だわせてあげます!」


「は、はい」



 この取り乱し様。なんだか怪しいぞ。



「まぁ、いいや。それで、私は何を手伝えばいいのかな?」


「それじゃあ、この野菜達を切ってください」



 そう言って差し出してきたのは、レタスにトマト、キュウリもある。そしてコロリンの手元を見るとパンの姿が。



「あ、もしかしてサンドイッチかな? それならこんな感じにささーーっと」



 私は得意料理の『ルノサンド』によって、サンドイッチの具材の切り方には自信があったので、慣れた手つきで作業していると……


 

「ふむふむ」


「ん?」



 なぜか私が野菜を切る様子を熱心に見つめるコロリン。あれ……これじゃ作ってるの私じゃない?



「じゃあここからはコロリン……お願いね?」


「は、はい」



 私が包丁を置いて場所を譲ると、恐る恐るやってきた。まるで初めてキッチンに立つ子供だ。



「よし。それじゃあ」


「え、待って」


「???」


「なにそれ?」


「どれです?」


「その持ち方」


「???」



 まるで意味が分からないといった様子で手元を見つめているが本当に意味が分かっていないみたいだ。



「それ。包丁の握り方が初心者……いや、お子ちゃま? そんながっしり握ってたら逆に危ないよ?」


「え、逆に? こうですか?」



 今度は包丁を逆手に持ってみるコロリンちゃん。ちょっとカッコイイけど違う。



「……」


「え? ち、違う……?」


「こう。こうして、こう」


「ふむふむ。あ、持ちやすい」



 私が手を取って正しく持たせてあげると、コロリンちゃんは本気で感心していた。こりゃ確定だな。



「では、コロリンちゃん」


「コロリンちゃん?」


「今日はお料理の初歩。『ほうちょうのつかいかた』から始めましょう」


「なっ!?」


「それが終わったら『おゆのわかしかた』を学びましょう」


「ば、馬鹿にしないでくださいーー!?」


「ぐえっ!?」



 少々からかい過ぎてしまった私は、コロリンの頭突きによってキッチンから吹き飛ばされてしまった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後。



「よし、それじゃあ次は『たまごやき』を作りましょう」


「うぐぐ……!?」



 包丁の持ち方、そしてお湯の沸かし方を学んだ次は焼き方。卵焼きならそうそう失敗もしないだろうから練習にはもってこいだ。



「ほら、そんなにぷりぷり怒らないで。千里の道も一歩からだよ」


「くぅ! それならいつも通りにしてくださいよ」


「仕方ないなぁ、分かったよ。はい、それじゃまずは『たまご』と『しお』を準備しましょう」


「全然分かってない!?」



 とか言いながらもちゃんと手を動かすコロリンちゃん。



「それじゃ、まずはお手本を見せるね。こんな風にコンコンとヒビを入れてからパカっと。はい、やってみよう」


「コンコンとやってパカっ……あ、殻が!?」



 卵を割ると殻が入っちゃうあるある。



「オッケーオッケー。取り除けば大丈夫だよ。それじゃ次は味付けね。塩を入れよう」


「どれくらい入れればいいんです?」


「んーー、ちょっとでいいよ。その辺は私も適当だし」


「分かりました。塩を(ヒョイ)」


「え」


「ちょっと(ドバッ)」


「ええっ!?」



 やってくれたぞこの子! しかもそれ、塩とそっくりなやつ!



「あのーーコロリンちゃん? 今入れたやつは『おさとう』だよ?」


「そんな! わざと間違えるように教えましたね!?」


「ぷっ! いやいや、そんなことないよ。でもその量はさすがに……」


「ちゃんと『ちょっと』入れましたよ? スプーン一杯だけ」



 どうやらコロリンちゃんの『ちょっと』は大スプーン一杯(山盛り)らしい。



「ま、まぁ、甘い卵焼きもあるし味に関しても卵を追加すればいけるか。卵を割る練習もできるしちょうどいいね」



 そして卵を割ったり殻を取ったりしてから再び味付けタイム。



「いい? 少しだけ砂糖を追加するけど、今度は小さい方のスプーンでやるんだよ?」


「任せてください。小さいスプーンで……ちょっと。ちょっと」


「あのーー……コロリンさん? なんで二回入れたんです?」


「え? だって今度は小さいスプーンだから二回入れないと」


「小さいスプーン使った意味なし! あと二個! あと二個卵追加して!」


「分かりました。あと二個!」



 こうして、焼く作業に入るまでなかなか時間が掛かったが、なんとか味の調整はできた。問題はこの量だ。



「うーーん、食べきれるかなぁ。半分は明日に回すっていう手も……」


「ルノ。フライパンがあったまりましたよ。入れますね」


「あ、ちょ……」


「……(どばーー)」


「……」



 うん、食べよう。頑張って食べればいいんだ。



「むむ……これは量が多くてひっくり返せませんね。どうしましょうか?」


「本当だね。仕方ないからスクランブルエッグにしちゃおう」


「スクランブルエッグ?」


「焼きながらぐしゃぐしゃーーってやるの」


「こうですか?」


「ん、そうそう。あとはある程度固まってきたらオッケーね」


「なるほど。なかなか奥が深い料理ですね」



 こうして、コロリン(料理初心者)はスクランブルエッグを覚えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「わぁーー! 美味しそうだね!」


「いい匂い……」



 食卓に並んでいるのは、当初の予定通り作ったレタスとトマト、そしてキュウリのサンドイッチに、練習で作ったスクランブルエッグを挟んだものだった。



 そしてそのお味はというと。



「美味しいよ、コロリン!」


「たっぷりと入ってる卵が最高ですね……」



 予想以上に大好評。作り過ぎてしまったスクランブルエッグがかえって良かったみたいだ。



「ふ、ふふ……そうでしょう? 私も上手くできたと思ったんですよ。ふふふ」



 初めての手料理を褒められてご満悦のコロリン。分かる……分かるよコロリン。色々と苦労したけど頑張った甲斐があったね!



 するとコロリンが……













「明日の朝ごはんはどうしますか?」



 と、そんな事をフユナとレヴィナに向けて言った。何故かチラッと私を見ながら。



「この私が作った『コロリンサンド』にするか『ルノサンド』にするか」


「なっ!?」



 これはまさかのゲコクジョウ!? 我が家の食卓を乗っ取る気か!



「「うーーん」」



 フユナとレヴィナが悩むそぶりをみせる。大丈夫……大丈夫だ。ルノサンドは長年、我が家を支えてきたのだから。



 ところが。



「明日もお願いね、コロリン!」


「楽しみにしてます……」


「ふふふーー! 任せてください!」


「ぐすっ……!」



 私は泣いた。



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