第百十三話〜レヴィナの芸術〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
ザザァーー……!
「んーー……」
本日の天気は雨。特に出かける予定があったわけではないが、スローライフを満喫したい私としては少々残念ではある。外でお昼寝とかできないから。
「でもルノは何だかんだ言って雨の日でもお家の中でお昼寝してるよね」
「ま、まぁね……」
フユナに痛いところを突かれた。一応言っておくが、お昼寝だけで一日を終えるわけではもちろんない。
「ふぅ……」
ズズズーーっとコーヒーを啜る音を響かせてからほっと一息。この通り、雨でもやることはあるのだ。
「とは言え、その時間もそろそろ終わりを迎えてしまう……」
手元のカップを覗き込むと、あと一口程といった量のコーヒーとご対面。今日も私のスローライフに貢献してくれてありがとう。
「さてと。んじゃやる事もないしお昼寝でも」
しようかな。と思って席を立ったところ、レヴィナがなにやら面白そうな事をしていた。
「……」
そっ……
すっ。
と、こんな感じに音も立てずに黙々と作り上げているそれはトランプタワーだった。プルプルと手を震わせて、崩れる恐怖と闘うその姿はとても……
「チョン」
「ひゃっ!?」
とてもちょっかいを出したくなるものだった。
「ちょ、ちょっとルノさん!? いま良いところなんですからねっ!?」
「は、はい……ごめんなさい……」
これ誰?
「う……く……」
「……」
「ふ……」
「おぉ……」
地味な作業感は否めないが、なぜか夢中になって眺めてしまう魅力がある。なるほど……先程の必死な姿も納得できるというものだ。
「どれ……それじゃ私も」
感動するものを見てしまうと自分もやってみたくなるというのが私だ。要するに影響されやすい……が、そんなことは気にせずレヴィナの横へ移動し、同じようにトランプタワーの建設を開始した。
ところが……
「むむ……なかなか……難しい……あ」
パタン。
虚しく崩れ去る我がトランプタワー。まだ二段目に差し掛かった状態なので『タワー』と言っていいか分からないが、なかなか悲しいものがある。
「よ、よし。もう一回……」
やってみて分かったが、このドキドキ感がとても癖になる。何というかこう……一段ずつ高くなっていくのが自分の成長みたいで嬉しい。
「ふふ……三段目。なかなかじゃないかな……」
そこで事件発生。
パタン。
「あ」
パタン、パタン。
「あ……あ……」
パタン、パタン、パタン。
ちなみに『事件』はこれのことではない。その次だ。
「あぁ!?」
パタタタタタ!
あろう事か、虚しく崩れ去る私のタワーが隣の……つまりレヴィナのタワーを巻き込んだのだ。
「「……」」
その場に残ったのは芸術的なトランプタワー……だったモノ。もはや面影すらない。
「う……」
「あの……ごめんね、レヴィナ……」
トランプタワーの難しさを実感していただけに、あれが崩れ去った悲しみも理解できてしまう。
「ルノさんの……」
「え?」
「ルノさんのばかぁーー!」
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故意ではなかったとは言え、レヴィナの芸術を破壊して悲しい思いをさせてしまった。当の本人はショックのあまり家を飛び出して行ってしまった。
「外は雨なので戻ってきました……」
「あら」
訂正。部屋からちょっと出ただけでした。
「で、でも! 私、怒ってますからね……!?」
「うん。それは分かるんだけど……なんだかそのアホっぽい姿みたら気が抜けちゃったよ」
「ひ、ひどいっ!?」
「ま、まぁまぁ。でも本当にごめんね。もう一回レヴィナの芸術が見たいなぁーー」
「芸術? そんな大袈裟な……」
お?
「いやいや、本当だって。私もやってみて分かったけどレヴィナの域に達するのは並大抵じゃないよ」
「そ、そう……ですね。ふふ」
おっと。急にチョロくなったぞ。
「ほら、ここはひとつ……改めて先輩の実力を見せてくださいよ!」
「仕方ないですね……!」
顔を上げたレヴィナはそれまでのショックが嘘だったかのように輝いていた。新しい夢でも見つけたような、そんな感じに。
「ふぅ、何にしても立ち直ってくれて良かった……」
流石に次は無いだろうということは分かったので、私はそっとその場を離れた。あれはレヴィナが飽きるまでそっとしておいた方がいいと思う。
「んじゃ今度こそお昼寝しようかな。結構集中してたから疲れちゃったよ」
だが、今日の体験は私にってそこそこ貴重なものだった。自分の知らなかった世界を知るという事ができたし、なによりレヴィナの新たな一面、そしてその芸術性に感動すら覚えたのだから。
「ふふっ、雨の日も意外と悪く無いかもね」
そんな事を思いながら私は眠りについたのだった。
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「んーーよく寝たぁ……」
二時間ほど寝ていただろうか。再びリビングに戻って来ると、そこには先程までとは比べ物にならない大きさのトランプタワーがあった。
「………………よし」
もはや立ちながら作業するレヴィナ。よくもまぁここまで。
「いやいや、すごいな本当に。私は邪魔しないように夕飯の支度でもしようかな」
いつの間にか、レヴィナの周りにはフユナとコロリンの姿もあった。どうやら二人もあの才能にすっかり魅了されてしまったみたいだ。
「よっし。私も気合い入れて夕飯作っちゃおうかな!」
今日はみんなの好物でも作ろう。次は私の芸術の見せ所だ。
と言うわけで。
「ねぇ、フユナ、コロリン。夕飯は何が食べたい?」
そう二人に呼び掛けたのが失敗だった。
「フユナはお魚が食べたいなーー!」
「ふむふむ。コロリンは?」
「私は」
クルッとこちらに向き直るコロリン。虹色がかった綺麗な長髪をなびかせるその姿はまさに芸術。そう、それはまさに他の芸術を破壊するほどの。
「あぁ!?」
お察しの通り、芸術に破壊された芸術。それはレヴィナのトランプタワーだった。
「レヴィナさん……」
完全に同情しているフユナ。
「コ、コロコローー!?」
ボンっとスライムになって逃げるコロリン。
「よし、今夜はレヴィナの好きなものにしよう」
そして最後に……
レヴィナのケアに全力を注ぐ事を決意する私でした。