第百十二話〜恐怖の山菜狩り〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
「コロコローー」
「む!」
朝から突然の奇襲に身構える私。コロリンがスライム状態で『コロコローー』と転がっている時は、決まって私をすっ転ばせようとするのだ。
「………………ってあれ?」
おかしいな。いつまで経っても来ない。それどころかどんどん遠ざかっているようだ。
「あっちは……村の方角だね」
コロリンが飛び出していった玄関から顔を出すと、地味ながら、速いスピードで転がっていくのが見えた。
「コロリンが一人で出掛けるなんて珍しいな。ちょっと様子でも見に行ってみるか」
別に深夜に抜け出しているわけでもないし、そんなに心配はしていない。そう、これはただ……私の興味半分だ。
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「コロコローー」
「お、いたいた」
私がコロリンに追いついたのはちょうど自宅と村の中間あたり。
「ふふ……ちょっと驚かせてみようかな」
たまには私からイタズラしてみるのも悪くない。なんて、少々お子ちゃまなことを考えながら……
「コーーローーリン!」
ガバッ! っと転がっているコロリンに覆い被さろうとしたのだが。
「コロコロ!?」
ギュン!
「ぶっ!?」
一気に加速して逃げられてしまった。
「いたたた……! な、なんで避けるのよあの子は……!?」
おかげさまで服は泥まみれ。これじゃ泥遊びして服を汚した子供じゃないか。
と、その時。
「ラッキー!」
ガツンッ!!!
「な、なにっ!?」
いきなりの轟音に顔を上げると、道の向こうに人影があった。
「いったーーい! いきなりなにするんですかっ!?」
ボンッという音と共に、人間の姿になったコロリン。そしてその視線の先には先程の轟音を響かせた張本人がいた。
「なんだ、コロリーヌじゃないか。せっかくいい素材が見つかったと思ったのに」
「あれだけ本気でぶん殴っておいて謝罪も無しですか……」
「ははっ、悪い悪い!」
「まったく……」
カラット・カラット(やり)を担いだカラットさんと、おでこを抑えるコロリン。そして……
「なんだ、ルノちんまでいたのか」
「あ、はい。これはまた偶然ですね〜〜」
「さっき、私をとっ捕まえようとしたくせに……」
「あっ、それ! コロリンが避けたおかげで私、思いっきり転んだんだからね!」
「そ、そんなこと知りませんよ!? 人を背後からいきなり襲ってくるのがいけないんですよ!」
「うぐっ!? 言い返せないけど言い返す! 悪いのはコロリンだよ!」
「なっ……子供ですかあなたは!?」
そんな調子で、私とコロリンがみっともなく騒いでいると、見ていられなくなったカラットさんが間に入ってきた。
「はいはい、二人ともその辺で終わりな。てか、一緒に行動するわけでもなく……なにしてたんだ?」
「私はただの散歩ですよ」
「私もただの散歩ですよ」
「マネしないでくださいよ!」
「だってコロリンが夜遊びに走ったのかと心配だったんだもん!?」
「朝からどうやって夜遊びなんてするんですか!」
「そんなの言葉の綾でしょ!」
「ぎゃあぎゃあ!」
「ガミガミ!」
そしてきっかり三十分後。
「ん、終わったかお二人さん?」
一通り騒ぎ倒して平常運転に戻ると、道の横に退けて私達を待っていたカラットさんに声をかけられた。
「あはは……お待たせしました。美味しそうですね、それ?」
なにやら荷物を広げて寛いでいると思ったら、オニギリを食べていたらしい。まるでピクニックだな。
「美味いぞーー! じつは朝から素材集めに出てたから腹が減ってな。ルノちんとコロリーヌも食べるか?」
「え、でもカラットさんの分が……」
「そんな遠慮するなって。こういうのはみんなで食べた方が楽しいだろ? それに……足りないなら採ればいい。今からバーベキューだ!」
「「おぉーー!」」
さっきまで騒いでいたのが嘘みたいにハイテンションになる私とコロリン。お腹も減っていた状況でそんな提案をされたら我慢できるはずもない!
「んじゃ私はとりあえず火の準備をしておくから二人は適当にその辺のサンサイやらを取ってきてくれるか?」
「お任せください。行こ、コロリン」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
「なんだかんだでやっぱり仲が良いなぁ……」
カラットさんのそんな呟きはハイテンションの私達には届きもしなかったのでした。
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「あ、ほらルノ! 『アカノサンサイ』がありましたよ」
「……」
「ルノ?」
「ん? あぁ、ごめんごめん。よく見つけたねコロリン」
なんだか懐かしいなぁ。昔、こうしてフユナと山菜を採ったりしたっけか。まさかここまで家族が増えるとは思わなかったな。
「そんなにぼーーっとしてたらルノの分の山菜は無くなりますよ」
「な、なにおーー! 私だって沢山見つけるもんね!」
「ふふーーん、負けませんよ!」
というわけで急遽、山菜採り勝負が始まった。と、思った矢先……
「ひゃあああ!?」
「なに、どうしたの!?」
お互いに別のところで探していたら突然コロリンが騒ぎ出した。そういうお年頃か?
「ねぇ、大丈夫?」
「きゃあああ!?」
背後から肩をポンと叩いただけでこの驚きよう。逆にこっちがびっくりしたよ……
「わ、私だよ、私。どうかしたの?」
「む、虫ぃ……」
どうやら取ろうとしたサンサイに虫がひっついていて驚いたみたいだ。
「虫? それくらい別に……うげ!?」
ひょいっとそのサンサイを手に取って裏返してみるとこれまたびっくり。米粒大の虫がギッシリと集まっていた。
「うぎゃあああ!?」
これは無理だ。『虫』というジャンルからかけ離れて、もはや『ホラー』と言った方がいいくらいに怖い。
「ちょ!? 私のカゴに入れないでくださいよぉ!?」
「ご、ごめんね……? 捨てといて」
「だから触れないんですってば……!?」
「じゃあこの枝で……ていっ!」
ピンッ! と触ってはいけないものでも触るように虫付きサンサイを弾き出した。
「はぁ、本当に心臓に悪い……」
「ルノ……もうサンサイは充分ですから戻りましょう……」
「うん、ナイスアイディアだね。そうしようか……」
と言うか、仮に一つしか採れてなかったとしても今日はもう勘弁だな。当分、サンサイ狩りは遠慮させていただこう。
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「おかえり、二人とも。いいもん採れたか?」
「はい……とてもいいもんが採れましたよ……」
「お、本当だな。でかしたぞ!」
カラットさんにも私とコロリンが見た『いいもん』を見せてあげたかったなぁなんて思いながら、サンサイを託した。
「よーーっし! んじゃ私が腕によりをかけて調理してやるからちょっと待っててな!」
「はい、ありがとうございます」
そうしてしばらく眺めているととてもいい匂いがしてきた。
「こっちは塩で、こっちはショウユで……」
「ごくっ……!」
「いい匂いですね……」
バーベキューにこれ以上ない組み合わせだった。こんなことなら魚とかも捕まえてくれば良かったかな。
「ほい、そろそろ食べていいぞ! 皿は使ったら白けるから直接取って食べてな」
「はい!」
分かる! その気持ち分かるぞ!
「「いただきます!」」
「おう、食べろ食べろーー!」
ついにやって来た実食タイム。多少……いや、大いに怖い思いはしたが、それを踏まえてもお釣りがくるくらいのお味だった。
「お、美味しい! 美味しいですよカラットさん!」
「さすがですね! 苦労して採ってきて良かったです!」
「おいおい、大袈裟だろ。なんで二人とも泣いてんだ……?」
「だ、だって……それだけ苦労しましたから。ねぇ、コロリン?」
「はい……もうあんな思いは二度と……!」
「ま、まぁよく分からんが満足してくれたなら良かったよ」
こうして、急遽始まったサンサイバーベキューは全員、大満足にて終了した。これなら今後もサンサイ狩りを続けてもいいかもしれない!
……と、ハイテンションのせいもあって、そんな事を思った私とコロリンでした。
そして、数日後のある日。ふらっと散歩に出掛けたところ、あのトラウマが消えていない事を実感した。
「ルノ? コロリン? なんでそんな真ん中を歩いてるの?」
「え、いやぁ……てへ」
「てへ……」
村までの道中。舗装された道のど真ん中を歩く、私とコロリンの姿があった。なぜなら道を外れればそこには……
「あ、みてみて! 沢山サンサイがあるよ!」
「「ひえっ!?」」
そんなこんなで、私とコロリンのサンサイに対する恐怖はしばらく続いたのでした。