第百十話〜素直じゃない二人 その2〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
ある日のこと。
私は久しぶりにカフェでのんびり過ごそうと思い村にやってきたのだが、そこで妙な人集りを発見した。
「なんだろ? 今日はいつもより賑やかだ……」
村の一角。あそこはよくランペッジさんが景品をかけた一本勝負をしている場所だ。本人曰く、あれは特訓らしい。
「今日はずいぶんと捗ってるみたいだな。でも、村にランペッジさんの相手になるような人いたかな?」
ランペッジさんは少々おふざけな所もあるが、その実力はあのカラットさんも認める程。またフユナがロッキの結晶欲しさに挑みに来てるのだろうか。
なんて考えながら現場に到着してみるとそこには……
「オリーヴァさん?」
「おや、ルノ様。こんにちは」
観客に混じってそこにいたのは、王都からやって来たフィオちゃんの付き人のオリーヴァさんだった。という事は……
「はあああっ!」
そんな熱い掛け声はもう一人の方の付き人、バッカさんこと、バカさんだった。王都の図書館ではなんだかんだでこの人との会話が盛り上がったのが印象深い。
「へぇ。闘ってる姿を見るのは初めてですけど……さすが、フィオちゃんのお付きなだけはありますね?」
「勿体無いお言葉ですよ」
そう言っている間にも、レイピア……に、見立てた木の武器で鋭く速い刺突を繰り出すバカさん。ありゃひとたまりもないな。
「相手がオレじゃなかったらな!」
うわ、なんか心を読まれちゃったんですけど。
「驚きましたね。今のバッカの攻め……そうそう対応できるようなものではなかったはずなのですが……」
確かに。だが一番驚いているのはバカさん本人だった。
「今のを捌きますか……小さな村の人間だと思って甘くみてました。これは失礼」
「ふふん、そりゃこっちのセリフだな。あんた、見ない顔だが?」
「はい、自分は王都の人間ですよ」
「ほう?」
ちなみにこのやり取りの間も、もれなく戦闘を続ける二人。お互いにまだ余裕あるみたいだ。
だが、その闘いにも決着の時がやって来た。私のせいで。
「はあああっ!」
「はっ!」
キィィィン!
そんな音と共に一旦距離を置く二人。その時……
「お? 見に来てくれてたんですね、ルノ嬢!」
「あっ、ばか……さん」
私の存在に気付いたバカさんが手合わせ中にも関わらず私に手を振って来た。そしてそれに黙っていない人間が約一名。
「んなっ!? 『ルノ嬢』だと!? ぶっ殺す!」
ビュン!
「「あっ」」
偶然にも重なったその声は私とオリーヴァさんのもの。次に聞こえてきたのは鈍器で殴られたような鈍い音。言うまでもなく、ランペッジさんの一撃によるものだ。
「ぐはっ!?」
その声を最後に、バカさんは気絶。二人の男による熱い闘いは幕を下ろしたのだった。
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「不意打ちとは卑怯なやつめっ!」
「はっはっはっ! 聞こえんなぁ!?」
ランペッジさんが、余裕綽々の声でバカさんの言葉をいなしている。勝者の余裕というやつだ。
「ふん、まぁいいさ。なんせ俺にはルノ嬢の熱い応援があったからな! 不意打ちの一つや二つくれてやるさ!」
「てめぇ……! ルノさんの声援を独り占めしやがる気か!?」
「はっはっはっ! いや、すまんな。なんせ『俺の』ルノ嬢だからな!」
「ぶっ殺す!」
あの手合わせの後、二人はずっとこんな調子だ。ほかにこの場に残ってるのは私とオリーヴァさんのみ。てか、私はバカさんのものでもランペッジさんのものでもないのであしからず。
「だいたいなんなんだあんたらは。王都から来たとか言っていたが?」
「その話はわたくしからしましょう」
このままじゃ話が進まないと思ったのか、一歩前に出たオリーヴァさん。これで一安心かな。
「先程もバッカから聞いたとは思いますが、わたくし達はーーあれこれペラペラーーという訳です」
「ふーーん? それにしてはその肝心の王女様が見当たらないが?」
「フィオ・リトゥーラ様なら先程からそちらに」
「んん?」
オリーヴァさんとランペッジさんの視線が同時にこちらへ向いた。というか主に、私に纏わり付く物体に。
「先生! お家にいないと思ったらこんな所にいたんですかぁ? ねぇねぇ、今からアイス食べにいきません?」
「お、いいね。行こ行こ!」
「か、可愛いっ……!?」
また急に燃え出したランペッジさん。予想はできていたが……
「ちょっとランペッジさん? フィオちゃんは私の可愛い弟子なんですからそんないやらしい目で見ないでくださいよ」
「くっ、色々と突っ込みたいことはあるが今はいい。ルノさん! なんだその可愛い子は!?」
「いや、だから私の可愛い弟子ですって。ちなみにこの子が件の王女様ですよ」
「な、なんだってーー!?」
またアホっぽい反応してるなこの人は。
「先生? ずいぶんとこの人と仲がいいみたいですね。もしかして……コレですかぁ?」
やけに艶めいた声でピッと小指を立てるフィオちゃん。恋バナに敏感なのはこの世界でも同じみたいだ。
「いやいや、この人は」
「その通りだ!」
いきなりドヤ顔で私の横に並ぶランペッジさん。
「ちょっと……変な事言わないでくださいよ。それに、仮に私がランペッジさんのものだとしたら、フィオちゃんに手出しした瞬間に二股になっちゃいますよ。軽蔑します」
「ふむ、それは困るな」
「先生……もしかしなくてもこの人、ただの女ったらしなんじゃ?」
「お、さすがフィオちゃんだね。んじゃ、これ以上はランペッジさんの説明はいらないね」
「ルノさんこそ変な話を吹き込まないでくれ!?」
はて、何のことだろう。ランペッジさんの紹介にこれ以上のものはないと思うが。
「あ、そうか。フィオちゃん。じつはね、フユナとサトリさんもこの人の毒牙にかかりかけたんだよ」
「なるほど。たらしもたらし。極上の女ったらしというわけですね」
「さらに言うと、ランペッジさんはサトリさんのコレなの」
私は先程のフィオちゃんを再現するかのように小指をピッと立てた。
「えぇ……それなのにこのたらしっぷりは……」
「分かった! 分かったから! もう、たらしでもなんでもいいからその辺にしてくれ!?」
さすがにいじり過ぎたみたいだ。可哀想なのであとで少しは褒めておいてあげよう。
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「それじゃ先生、また明日ーー!」
「うん、バイバイ」
「では、ランペッジ様。本日はこれにて」
「あぁ、またなオリーヴァさん。バカも次会うまでにはもっと腕を磨いておくんだな!」
「ふん、望むところさランペッジ。次回からはルノ嬢の声援は常にあるものだと思って挑むから隙などないぞ」
「あぁん……?」
「やるか? お?」
「はぁ、もう好きにしてください……」
この二人……完全にチンピラじゃないか。ランペッジさんはともかく、バカさんはフィオちゃんの付き人なんだからもう少しクールに振る舞ったほうがいいのでは?
「ご安心くださいルノ様。バッカにとってもランペッジ様はいいライバルのはずです。これからはお互いに切磋琢磨し、成長していくことでしょう」
「あはは……ですね。私もそう思います」
私とオリーヴァさんの視線の先には、未だにぎゃあぎゃあと言い合う二人の姿がある。なんだかどこぞのお二人さんみたいだな。
「んーー? なんですか先生?」
「ふふっ、なんでもないよ。んじゃ今度こそまたね」
「はーーい、さようなら!」
『どこぞの二人』
私が思い浮かべたのは、最近のフィオちゃんとサトリさんとのやり取り。ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも決して距離を置こうとしないあんな二人のように、バカさんとランペッジさんの関係もずっと続いていくことになるのだろう。
「ま、なんにせよ王都から来た三人もだんだんと村に馴染んできたね」
私にとってブレッザさん達のいる王城がもう一つの家だと思えるように、あの三人もこの村がもう一人の家だと思えるようになってくれたら嬉しいな。
なんて……
そんなことを思った私でした。