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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第百六話〜王都『リトゥーラ』⑨ 新たな旅立ち〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。

 



「お父様! お母様が帰ってきましたよーー!」



 フィオちゃんのお母様、フィオール・リトゥーラさんのご要望に応えた後、私達はそのまま王城に帰宅した。



「でもいいんですか? 私、結局何もしてませんけど……」


「ふふ、いいんですよ。憧れの魔女様に私の魔法を直に見てもらえたんですもの。充分に意味はありましたわ」


「そうですか……? 喜んでいただけたなら良かったです」



 ちなみにフィオールさんが言う『魔女様』は私のことだが、城下街の人達が噂していた『魔女様』はフィオールさんご自身のこと。



「そんなに落ち込まないでください、先生! 私の『魔女様』は先生だけですよ!」


「そんなぁ、お母さんはショックだわ……」


「あはは……ありがとね」



 私が落ち込んでる理由は別にあるんだけどね。



「おぉ、おかえりフィオール。それにフィオとルノさんも。ちょうど私も仕事が一段落したところだからお茶でもどうだ?」



「そうしましょう! 先生とお母様もご一緒に!」


「そうね。行きましょうか、ルノさん」


「じゃあお言葉に甘えて。あ、そう言えばブレッザさん。フユナ達はどうしてます? なにも問題無ければいいですけど……」


「あぁ、シース……フユナちゃん達なら一日中図書館にいたみたいだぞ。そろそろ帰ってくるんじゃないか?」



 この人、またフユナのことをシースーって呼ぼうとしたぞ……



「ま、まぁ何事も無かったなら良かったです」



 フユナ達……つまりグロッタやスフレベルグも一緒にいるわけだけど特に心配する必要もなかったみたいだ。ちなみに、私の家族達がお邪魔している事はフィオールさんには既に伝えてある。



「御家族が心配ですか?」


「そうですね。って言っても、主に暴れたりしないか……ですけど」


「ふふっ、お互い我が子には苦労しますね」


「あはは、まったくですね」



 でも、その騒がしい家族のおかげで楽しくやっていけているのも事実。そこに友人やらの繋がりが加わればさらに良い。


 そしてそれが楽しければ楽しい程、欠けた時に寂しく思うんだろうな。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それで……今回の討伐はどうだったのだ?」



 私達がやって来たのはもはやお馴染みになりつつある豪華な食堂。現在はそこでお茶を飲みながらフィオールさんの武勇伝を聞いているところなのだが……



「ふふ、聞いてください。一撃で終わりましたわ」



 終了。



「あの、フィオールさん? もっとこう……苦戦したなぁみたいな事はなかったんですか?」


「とは言っても……スライム相手に苦戦する方が難しいのではなくて?」


「ごもっともです」



 もし相手がドラゴンだったとしてもこの人の実力なら苦戦はしないだろう。フィオールさん恐るべし。



「ふっふーーん! それなら先生だって昼間、街に現れたスライムを一撃で倒しましたもんね! ずどんって!」


「あら、そうでしたの? それじゃ私のお話なんてなんの自慢にもなりませんでしたね。流石ですわ」


「いえいえ、そんな……」



 うーーむ、少々気まずいな。フィオールさんってば、ブレッザさんとは違ってしょうもないギャグは言ってこないし褒めるところは褒めるもんだから照れてしまう。



「そもそもここにいるのって私以外全員国のお偉い方ばかりじゃん……ひぇぇ」



 その時。



「失礼します。ルノ嬢、フユナちゃん達が帰ってきましたよ」



 ほっ、助かった……



「ふむ、それならこの辺で切り上げるか。また夕飯の時にでも会おうじゃないか」


「そ、そうですね……」


「じゃあ先生! それまで私のお部屋で遊びましょう!」


「あ、待ってフィオ。ちょっといいかしら?」


「……? はい。先生すいません、先に私のお部屋でゆっくりしていてください」


「ん、分かった。んじゃ先に行ってるね」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの後……結局、私はあれこれ悩んで、勝手に落ち込み、あっという間に夕飯の席も終了してしまった。



「どよーーん……」


「なにやらルノ様が腐ってますな」


「ルノがあの状態の時はしょうもない悩みを抱えている証拠ですね」



 好き勝手言ってくれるグロッタとスフレベルグ。それも無理はないか……私はベッドで死んだようにうつ伏せの状態なのだから。


 そこへ……



「先生ーー! お風呂に行きましょう! 今日は氷風呂に入ってからアツアツ風呂の無限ループで朝まで遊びましょう!」


「いやぁぁぁ!? 私にこれ以上楽しい思い出を作らせないでーー!?」


「何おかしなことを言ってるんですか先生! 楽しいことは沢山した方がいいに決まってるじゃないですか! さ、行きましょ!」


「いやぁぁぁ!?」


「完全に壊れてますな」


「どうせデザートにアイスがなかったからですよ」



 そんなしょうもない理由じゃないんだってば!








 そしてお風呂の後。



「先生! アイス持ってきたので食べましょう! あ、もちろん皆さんの分もありますからね!」


「アイス……!? で、でも……!」


「ほら、チーズケーキ味のアイスもありますよ」


「いただこうかな!」


「はい、どうぞーー!」







 そして就寝前。



「あ、また負けたぁ! 先生、強すぎますよぉ!」


「なんでルノはこんなに強いのーー!? これ、完全に運のゲームなのにーー!」


「ふっふーーん! 私に勝とうなんてまだまだ早いよ!」


「むむ……一体どのゲームなら……!?」


「フィオちゃん、これなんてどうかな?」


「あ、フユナちゃんナイスアイディア! よっし! 次はこれで勝負です!」


「ふふん、かかっておいで!」



 そんなこんなで、私の素敵な思い出は順調に積み重ねられていった。


 楽しい時間は早く過ぎるとはまさにこの事で、悩んでいたのがアホらしく思えるくらいにあっという間だった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そしてやって来た就寝時間。


 なんだかんだでこのベッドで寝るのも慣れてきて、並び順まで決まっている。ちなみに私の隣はフィオちゃんとフユナ。



「はぁ……お別れはしたくないけどそろそろ帰らないとブレッザさん達にも迷惑がかかるからなぁ……」



 そんな事を呟きながら横を見るとフィオちゃんの可愛い寝顔があった。



「ふへ……先生ぇ……ちゅちゅちゅ……」


「はい、ちゅちゅちゅーー」



 これもお馴染み。もちろん手でガードしてるからね?



「突然の出会いだったけど……まさかこんなにも情が移っちゃうなんてね」



 辛いけど……明日には帰るか。



「……ちょっとトイレ」




 部屋から出ると、そこはもうすっかり見慣れてしまった廊下がある。フィオちゃんと深夜の星空鑑賞会をしたあの日からというもの、こうして夜な夜な目覚めて抜け出すことが増えた。


 時にはフィオちゃんのトイレに付き添いながら。そしてまたある時は……



「先生ーー? なにしてるんですかぁ?」


「うわっ!?」



 こうして私の背後をこっそりと付いてくる。抜け出す時はいつもフィオちゃんがセットだ。



「はぁ……びっくりした……」


「ふふっ。それならこんなコソコソと出歩かなければいいのに」


「まったくだね」



 そんな事を言いながら部屋へ帰ろうとはしない私とフィオちゃん。もちろん行く先は決まっている。



「今夜も星が良く見えますね」


「だね」



 こうしてフィオちゃんと夜空を眺めるのはこれで何度目だろうか? 最初はひょんな事から偶然辿り着いたこのテラスだが、私にとってはこの夜の時間は王都で過ごした中でもかなり思い出深いものになっている。



「それも今夜が最後かもね……」


「何か言いましたか?」


「ううん、何でもないよ。じゃ、さっそくだけど……」


「はい、どうぞ先生! 今日は果物の盛り合わせですよ!」


「まったく。この子は懲りないんだからなぁ」


「先生だって楽しみにしてたじゃないですかぁ!」


「な、何のことかなぁ……」



 いけないとは分かってるのだが、このやり取りを楽しみにしている自分もいる。もしかしたら王都に来てから少々太ったかもな。



「もぐもぐ……」


「んぐんぐ……」



 うん、美味しい。



「先生」


「ん?」


「今日はずいぶんと静かですね?」


「んーーそうかな?」


「はい。いつもなら『あれはピ座だよ』なんて言って楽しそうにしてますもん」


「はは……覚えてたのね……」



 我ながらしょうもないギャグだったと思う。ブレッザさんのこと言えないな。



「ここは良い人達ばかりだね。まるで家族だよ」


「急にどうしたんですか?」



 フィオちゃんにオリーヴァさんにバカさん。そしてブレッザさんにフィオールさん。私の勝手な思い込みだが、ここでお世話になっていくうちにそんな風に思うようになってきた。



「眠い……」


「先生?」



 テーブルに突っ伏す私。実際は眠くなどないのだが、このまま顔を上げてたら……ね。



「……」



 レストラン『オウト』で食事。


 王城の大浴場。


 ブレッザさんのしょうもないギャグ。


 バカさんと語り合った図書館。


 アイスに夢中になる姿が可愛かったオリーヴァさん。


 フィオールさんは数少ない魔法の使い手『光の魔女』



「……」



 ここの暮らしは温かすぎた。今日なんて私達家族と、フィオちゃん達家族、全員集合で夕飯だ。楽しくないわけがない。



「……」



 そしてなにより……


『先生!』


 そう呼んで、慕ってくれるフィオちゃんと私は……



「離れたくない……」


「え?」



 しまった。



「どうしたんですか、先生? 『離れたくない』って……?」


「う……」



 私は今も突っ伏したまま。というかこの状況で目を合わせるとか無理だ。



「うん……離れたくないない」



 だが今はそれが幸いだった。おかげで普段は言えない気持ちを伝えられるから。



「フィオちゃんと……離れたくない……って思う。出会ってから今日まですごく楽しかった。本当に本当に……楽しかった」


「先生……」


「私、明日には帰ろうと思ってるんだ。ブレッザさん達は笑顔でオッケーしてくれると思うけど、ずっとお世話になりっぱなしってわけにもいかないから」


「そうなんですか……」



 ここで私は顔を上げた。もしかしたら泣いていたかもしれない。だけどこれだけははっきりと言わないといけないから。



「だからフィオちゃんともこれでお別れだね。今までありがとう。楽しかったよ」


「先生……」



 これで自分の気持ちは全部伝えた。あとは振り返らずに前へ……



「いえ、その……先生?」


「うん?」












「何を言ってるんですか?」













 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝。



「では、お父様、お母様。行ってきます!」



 そんな元気な声の主はもちろんフィオちゃん。



「たまには元気な顔を見せに来るんだぞ、フィオ」


「フィオ。体調には気をつけてね」


「はいっ!」



 王城の門前では、娘の旅立ちを祝福する温かい家族の姿があった。



「では……オリーヴァ、バッカ。娘をよろしく頼むぞ」


「「はい、お任せ下さい」」



 結局、フィオちゃんはオリーヴァさんとバカさんと共に再び私達に付いて来ることになった。ちなみに、この話は昨日のお茶の時、私が席を外した後にまとまったらしい。そう言えば王都に来る前にも『すぐに戻ってきます』みたいなこと言ってたもんな。



「ルノさんルノさん。なにか困ったことがあったら呼んでくださいね。すぐに駆けつけますから」


「はい。ありがとうございます、フィオールさん」



 そして最後に。



「ルノさん。そして御家族の皆。君達も私にとっては家族も同然だ。いつでも帰ってきなさい」



 そんなブレッザさんの言葉に私はとても救われた。『家族』だと思ってくれてたことがとても嬉しかった。



「はい、ありがとうございます!」



 だからもう寂しくない。


 また会いに来よう。







 そして、帰りの馬車の中。



「ふふっ、これからも一緒にいられますね、先生?」


「そ、そうだね……」



 プイッと顔を逸らして必死に照れ隠しをする私。



「なんで照れるんですかぁ? 私も先生と『離れたくない』ですよーー?」


「う……」



 くぅ……この子はこれみよがしに私の傷を抉ってくるな。



「あーーなんか眠いなぁ。私、寝るから。おやすみ」


「はーーい♪」



 こうして、私は羞恥のあまり眠くもないのに目を閉じて……昨夜の出来事に思い出していた。


 私を救ってくれたあの言葉を。




















『何を言ってるんですか?』


『私の先生は一人だけですよ』


『これからも一緒にいさせてください』


『よろしくお願いしますね、ルノ先生!』



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