第百四話〜王都『リトゥーラ』⑦ 豊富なサービス〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
その日、私達は少々早い昼食を済ませてフィオちゃんと共に部屋でゆっくりと寛いでいた。
そこへ……
「フィオ、入ってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
ガチャ。
「……(キリリッ)」
いかにもな服。いかにもな雰囲気。やって来たのは国王様こと、ブレッザさんだった。
「フィオ。今日の午後からの予定……分かってるな?」
「はい、既に準備万端ですわ。お父様! (キリリッ)」
いつの間に着替えたのやら。フィオちゃんまでもが立派なドレスに身を包んでいた。
「ちょっとルノ。またあの二人は何を始めたんですか?」
「はは、何だろうね……」
コロリンも何となく気付いているらしい。一見、国王様と王女様の真面目なやり取りだが、実際はキリキリ言いながらこちらに視線を送ってくる始末。
「はいはい……ブレッザさんは何しとんねーーん。フィオちゃんはドレス姿が可愛いね」
「ありがとうございます、先生!」
「今日のルノさんはツッコミにキレがないな?」
「はい。そろそろツッコミに体力を使うのも勿体無い気がしてきたので」
「なるほど……今日は静かながら鋭いツッコミというわけだな」
「……」
よし、一旦この国王様は置いておこう。
「フィオちゃん。今日は何か大切な用事があるのかな? まさかしょうもないコントを見せるためだけに着替えたわけじゃないでしょ?」
「さすが先生です! じつはこの後、近隣諸国との会談があるんですよ」
「へ、へぇ……そういうの私達に言っちゃっていいの?」
「先生は先生なので大丈夫です!」
「よく分からないけど大丈夫ならいっか。でもフィオちゃん……そういうのはなるべく、私みたいな一般人にはバラしちゃダメだよ。情報が漏れて暗殺とかされちゃうかも」
「きゃーー! そうなったら守ってください!」
だからそうならないように情報は広めないようにするんでしょうに。
「でもそっか。せっかく今日はいい天気だからみんなで観光しようと思ってたけど仕方ないね」
「ふふ、フィオは置いておいて私達だけで観光するしかありませんね」
「ちょっとコロリン、そういう事言ったら……」
「ずるいっ! 私も先生と観光したいです! 会談は欠席します!」
ほら、やっぱりこうなる。
「フィオ、何馬鹿なことを言ってるのだ。この部屋でこそネタだが、会談自体は真面目なものだ。王女ともあろう者が欠席なんて以ての外だぞ。ほら、そろそろ行こう」
「いやぁーー!? 観光したいぃーー!」
バタン。
行ってしまった。
「ふぅ。初めてブレッザさんが国王様らしいと思った気がする」
「国王だというのは本当だったのですな! ゲラゲラ!」
グロッタが私達全員の気持ちを代弁してくれた。
「ところで今日はどうするんですか? ワタシ達だけで観光しますか?」
「うん、そうしようか。たまには家族水入らずの時間ということで」
フィオちゃんも一緒に行けないのは少々残念ではあるが、また明日にでも行けばいいだけのことだ。
私達、いつまでここにいるんだろ……
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ということでやって来た王都の城下町。
「こうして知らない街を歩いてると初めてロッキの街に行ったのを思い出すね」
「初めての家族旅行だったねーー!」
「懐かしいですな!」
初めての土地というのはどうしてこうもワクワクするものなのか。普段は興味が無いものでもなぜか見てみたくなってしまう。
「レヴィナ。ワタシ達の知らない話題で盛り上がってますよ」
「そうですね……ルノさんは私達には興味が無いと……」
私の後ろで地味にいじける二人。だが、その後には更なるいじけっぷりを発揮するコロリンの姿があった。
「つーーん……つーーん……!」
「あらら……」
完全にいじけた時のスフレベルグ状態だ。
「ほらほら、そんな顔しないの。心配しなくてもコロリンとの思い出だってどんどん増えていくよ」
「べ、別にそんな心配してませんから」
「ふふ、可愛いなぁ」
「!?」
仕方ないので私はコロリンの手を取って仲良く隣を歩くことに。しっかりと手を握り返してくるあたり、可愛くてしょうがない。
「さてと……それじゃあどこへ……」
「ルノ……?」
はて……なんだかやけに視線を感じるような。具体的に言うと、初日にフィオちゃん達とレストラン『オウト』に行った時と同じ。
「まさかコロリン……あなたも王女様だったの?」
「そんなはずないでしょう? 何をバカなことを言ってるんですか」
「バカ!?」
「アホでもいいですよ。ぷっ!」
「ぐぎっ!?」
なんだかんだで調子が戻ってきたコロリン。視線のことは気になるけど今は忘れよう。
「きっとアレですよ。フィオと仲良くしていたものだからみんな嫉妬しているんですよ」
「あ、そういうこと? なんだかコロリンみたいだね」
「なっ!? 私は嫉妬なんてしてないですよ!」
「えーー? だってさっきまで羨ましそうにさぁ」
「つーーん!」
「またいじけちゃった……」
まったく。この子はほんとにかまってちゃんなんだから……
「ほら、アイスでも食べようよ。美味しいよ?」
「じゃあチョコ味……」
というわけでアイス屋さんにやってきたのだが、妙なことがおきた。
「いらっしゃいませ、魔女様! いつもご利用ありがとうございます!」
いや、今日が初めてですが。
「はいどうぞ! ちょっぴりサービスしておきましたので美味しかったらまた来てくださいね!」
ちょっぴり=倍
「わーーい! 普通のサイズ頼んだのにビッグサイズになってるーー!」
「うむ、あの店はなかなか分かってますな!」
私のアイスに至っては倍のサイズ+チョコやいちご、ブルーベリーなどなど、とにかく色んな味が混ざってレインボーになっている。
「ねぇ、コロリン。これってどういうことかな?」
「きっと王女様と仲のいいルノに媚を売っておいて後々、贔屓にしてもらうという魂胆なのではないですか? そんなことしなくてもこのアイス屋は素晴らしいと思いますけどね」
そう言いながら美味しそうにアイスを食べるコロリン。サービスの影響か、そのアイスには板チョコが丸ごと突き刺さっている。
「ふーーん。まぁサービスしてくれるなら願ったり叶ったりだね」
その後も街を散策していると様々なサービスを受けた。
「魔女様! じつはこれ、特製の歯ブラシなんです! これで歯を磨くと綺麗になります!」
「え、それって普通……」
少々インチキくさい歯ブラシを貰ったり。
「魔女様! こちらの帽子、王都でも最高級の藁で作ったものです。どうぞ!」
「あ、どうも……」
店の前を通っただけなのに麦わら帽子を貰ってしまったりなどなど。
「なんだかここまでサービスされちゃうと申し訳なく思えてきちゃうね」
「大丈夫ですよ。それで商品を利用してもらえれば宣伝になりますし、申し訳なく思う人がさらに買ってくれればお店としても嬉しいですからね」
「なるほどなるほど。それなら帽子の宣伝はコロリンにお願いしようかな。はい、どうぞ」
「わ……」
そう言って私はクルクルと回していた帽子をコロリンに被せてあげた。
「こ、これはっ……」
「……?」
やばい。こんなに可愛い宣伝なんてアリなのか? むしろお金とっても良かったのでは?
「コロリン……帽子が似合うね。今まで被ってなかったのが不思議なくらいだよ」
「大袈裟ですよ……」
そう言って照れながら帽子で顔を隠してしまったコロリン。サービスによって発見した新たな魅力にうっとりしながら、観光の時間は平和に過ぎていった。
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空が茜色に染まり始めた頃、私達の観光も一段落した。両手に提げた袋には、あらゆるところから頂いたサービスの品々が詰まっている。
「今更だけど……私たちが買ったのってアイスだけだね」
「ルノ様は貢がせるのがお上手ですな!」
「いやいや待って。私はそんな腹黒くないから!」
でも確かに思うところはあった。なぜか私にばかりサービスは集中するし、言ってしまえば『憧れの魔女様になにかしてあげたい』みたいな感じだった。
「後でフィオちゃんにでも聞いてみるか。せっかくだしお土産も分けてあげようっと」
こうして、この日の観光はほぼサービスだけで済んでしまうという異例のものとなった。もちろん、大切な思い出の一ページになったことは言うまでもない。
その日の夜。
「はい、お土産だよ。フィオちゃん」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
相変わらず私からのプレゼントは何でも喜んでくれる。全部貰い物なのが少し申し訳ない。
「そうだ。今日一日中やけにサービスされることが多くてさ。しかも私は特に……」
「ふふ、そうでしょう!」
『そらみたことか!』みたいな笑顔。どういうことだ?
「前に王都には魔女がいないってお話ししましたよね? みんな私程じゃないにしても、憧れる気持ちは持ってるんですよ」
「そういうことか……なっとく」
「ふふ、王都は先生にとって天国ですね?」
「あはは……かもね」
でも、流石に街に出る度に両手いっぱいのお土産を貰っても申し訳ないので、今度からは少し自重することにします。