第百二話〜王都『リトゥーラ』⑤ 深夜の星空鑑賞会〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
王都にやって来てから二日目。……の前に少々の物語があった。それは一日目の夜、就寝後の出来事。
「う……うぅん……」
「ふへへぇ……せんせぇ……」
「く、苦しい……」
私は突然の息苦しさに目を覚ました。まとわりつく物体に目をやると、息がかかるほどの距離にいたのはやはりフィオちゃんだった。
引き剥がしても引き剥がしても、ごろんと寝返りを打って戻ってくるものだからどうしようもない。
「せんせぇ……ちゅちゅちゅ……」
「はい、ちゅちゅちゅーー」
とりあえず手にちゅっちゅさせて安全を確保する。
「これじゃ寝れないな。まったく……フィオちゃんのばか……」
「……(パチッ)」
「げ」
「……」
私の呟きを聞き取ったのか、目を覚まして見つめてくるフィオちゃん。怒ったかな?
「……」
「せんせぇ」
「はい……」
「……トイレ」
「トイレ? うん、行ってらっしゃい」
「トーーイーーレぇーー!」
「ちょっ!? こ、こら! 夜中に騒いだらみんな起きちゃうでしょ! それと、女の子がそんなはしたない事を大声で言っちゃいけません!」
「むぐぅーー!?」
いけないお口を塞いでなんとかその場を凌ぐことができた。危うくみんなに迷惑をかける所だったぞ。この子は寝ぼけてるのか?
「ほら、フィオちゃん。おトイレに行くなら行って。寝ぼけてるなら静かにして(ペチペチ)」
「うーーん……起きてますよぉ……トイレぇ……」
「おトイレなら部屋を出て左だよ。……知らないけど」
「一人じゃ怖いぃ……付いてきてくださいぃーー……」
「えぇ……?」
一瞬迷ったが、私もちょっと行きたくなってきたのである意味グッドタイミング。
「しょうがないなぁ。なら行くよ。みんなを起こさないように静かにね」
「はぁーーい……♪」
なんだこの子は……急に楽しそうな顔になったぞ。具体的には『やった! 先生と夜のお散歩だ♪』みたいなそんな顔。
「ねぇ、フィオちゃん? 本当にトイレに行きたいんだよね……? 私とのデート目的じゃないよね?」
「もちろんですよぉ……ブルブル……」
「……」
まぁいいか。行くだけ行こう。
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部屋を抜け出した私とフィオちゃんはトイレを済ませて、現在はひたすら続く廊下を歩いている真っ最中。ちなみに、王城の内部は深夜でもポツポツと灯りがついているので、お化け屋敷のような雰囲気はない。ほっ……
「えっと……こっちだっけ? あんな扉あったかな……」
「迷っちゃいましたね」
「いやいや、ここフィオちゃんのお家でしょ」
「私だってこんなに広いと迷っちゃいますよぉ」
にわかには信じられないが、王城の広さを考えれば嘘だと断言できないのもまた事実。まぁ、迷宮じゃないんだしそのうち戻れるよね。
「あっ、先生! 手を離さないでくださいーー!」
「あぁ、はいはい……」
じつは部屋を出てから今に至るまで、私とフィオちゃんは手を繋ぎっぱなしだ。本人曰く『手を繋いでないとはぐれちゃいますぅ……!』とのこと。
「見てください先生、食料庫がありますよ。何かおやつでも持って行きますか?」
「おやつって……だめだよ。夜中に食べたら太っちゃうんだからね。管理の人にも怒られちゃうよ」
なんて説教をしている間に……
「持ってきちゃいました♪」
「……」
にっこりと笑いながら、その手にはクッキーやらゼリーやらのお菓子の盛り合わせが抱かれていた。本当にこの子は……
「いけません。没収」
「あぁ! 私のおやつーー!」
身長差的に私が取り上げるとどうすることもできないので、ぴょんぴょんと飛び跳ねることしかできないフィオちゃん。可愛いな……
「ん、ここは……?」
すると、妙な場所に辿り着いた。昔から何度もお世話になっているような……
「テラスですね。先生がお好きなカフェと似ているので気に入ると思いますよ?」
「ほ、ほぅ……?」
どうやらいつの間にか王城の端っこまで来ていたらしい。ちなみにここは二階で、昼間ならこのテラスからは良い景色が見えそうだ。
「へぇ……いいねここ。ゆっくりコーヒーでも飲みながら寛ぎたいものだよ」
「そう言うと思って用意してきました!」
「あっ、またこの子は!」
もう完全に抜け出してきた意味を忘れてるだろ。いや、元からこれが目的か?
「はいどうぞ、先生。せっかくのコーヒーが冷めちゃいますよ? 勿体無いですよぉ? (ニコニコ)」
「うぐっ……ちょっとだけだからね……」
コーヒーが冷めちゃうのも事実。勿体無いのも事実。さらに言えば私の手には先程没収したお菓子があるのも事実。これらの事実を踏まえた結果、導き出される答えは……
「一つだけ……」
「あ、先生だけずるいっ!」
「ん、何のことかな? (ポリポリ)」
「私の目は誤魔化せませんよ! それ、私が一番好きな味なのにぃ!」
「じゃ、じゃあほら。フィオちゃんには私のお気に入りの味をあげるから。はい、あーーん」
「あーーん」
ポイッと適当に選んだクッキーを放り込む。『私のお気に入り』とは言ったが、そもそもこれを食べるのは初めてなので味など分からない。
「美味しい! 先生の愛情を感じます!」
「そう? それなら良かったよ。もう一個だけ食べよ。やぱもう一個(×2)」
「あぁ、そんなに!先生、私にもください!」
「はいはい、これで最後ね(ポポポイ)」
「んぐんぐ」
『一個だけ』なんて最初の言葉はどこへやら。次々と消えていくクッキー達。
「じゃあ次はこれのゼリーを食べましょう!」
「え……さすがにもうだめだよ……」
「でもでも! これ、チーズケーキ味のゼリーですよーー♪」
「な、なにぃ……」
それ、もはやレアチーズやん! という突っ込みは置いておいて……食べたい。是非とも食べたい!
「それで最後……だからね……?」
「はいっ、これで最後です!」
そのゼリーを食べ終わった後に気付いたのだが、持ってきたおやつはきれいさっぱり空になっていた。文字通り『これで最後』でした。
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「綺麗ですね、先生」
「ん、そうだね」
その後、私とフィオちゃんはコーヒーを飲みながらの星空鑑賞会をしていた。あ、コーヒーはおやつじゃないからノーカンだよ、うん。
「あ、見てください。あれは『チーズケーキ座』ですよ」
「いやいや、さすがに嘘でしょ?」
「本当ですって! ほら、あそこ。何となく三角形に切り分けたチーズケーキに見えるでしょ?」
「それ、チーズケーキである必要なくない? いや、そういう突っ込みは良くないね」
そんなことを言ったらキリがないし、どこぞの大三角形なども『大チーズケーキ』だの『ピ座』だの、なんでも言えてしまう。
「そうですよ。こういうのは感動できればそれでおっけーです!」
「あはは、そうだね。ちなみにほら、あれは『ホールケーキ座』だよ。あれとあれを繋いでいくと円になってーー」
「先生……それはあんまり捻りがなくてちょっと……」
「ひ、ひどいっ!? 感動するでしょ!? 夜空に輝くホールケーキだよ!?」
「そ、そうですね……感動シマス……」
「でしょーー?」
よし、なんとか勢いで乗り切ったぞ。
こんな調子で『アップルパイ座』だの『モンブラン座』などと、しょうもないことを言っていると……
「ふぁぁぁ……また眠くなってきちゃいましたぁ……」
「あ、ちょっと……」
そのままフィオちゃんは私の肩に身体を預けて眠ってしまった。
「すぅ……すぅ……」
「仕方ないなぁ」
それからしばらくの間、私はフィオちゃんの頭を抱きながら撫でてあげた。初めて一緒の場所で寝泊まりできるんだし、多少のご褒美はあげてもいいだろう。
「ふへ……せんせぇ……」
「また言ってるや……よしよし」
そんな感じで、一時間程ゆっくりした後に、ちゃんと歯磨きをさせて部屋で眠りにつきました。
皆さんも寝る前はしっかりと歯磨きをしましょうね。