表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/33

二十九、うまくいくかな?

 昼ご飯は、予定通りフレンチトーストを大量生産して済ませた。まさか本当に、しばらくフレンチトースト尽くしになるだなんて、皆思っていないだろうな。いひひ。

 食後、私は、従業員控え室に全員を集めて、旅館木っ端みじんでのことを話した。


「大女将の弟さんが、そんな人だったなんて……! 楓さん、次からは一緒に行きますから!」

「忍くん、ありがとう。でも、できるだけ他のお宿とは関わらない方が良さそうだわ。変な人ばっかりみたいだもの。さて! ここからは、密さんにお願いがあるの」


 密さんは、従業員控え室に備えてあった豆餅のおかきを摘まんでいた。フレンチトーストはお口に合わなかったのか、ほとんど食べていなかったから、お腹が空いたのだろう。


「いつ言い出すのかと思っておったのじゃ」


 密さんは、おかきの粉がついた手をパッパと払うと、こちらに向いて座り直した。


「もしかして……」

「頼まれもしないのに、勝手に呼び戻すのも無粋であろう?」

「ならば、方法があるのですね!!」

「ただ、楓の協力も必要だがの」


 密さんは、お召し物の裾の中から、一冊のノートを取り出した。あれは、潤くんのノート! 彼女はパラパラとページを捲って、頷いた。


「その帯留めの飾り玉。それがあれば、呼び出せるかもしれぬ」


 私は、慌てて帯留めを解いて、そこから青いトンボ玉を外した。おかげで、帯が半分ほどけてしまったけれど、そんなこと今はどうでも良い。私は、密さんにトンボ玉を手渡した。


「でも、なぜこれが……」


 密さんは、不思議そうに首を傾げた。


「これは、翔とお揃いの物なのであろう? 潤のノートの記録には、そう書かれておるぞ? 妾が元いた世界では、揃いの飾り玉を持ち歩くというのは(つがい)の証ゆえ、そういう意味だと思っておったのだが……」


 な、何ですって?! これは喜んでいいの?! 何だか恥ずかしすぎて、どうしたらいいのか分からない。


「さて、それでは儀式を始めよう」


 皆が部屋の端に寄って、密さんが儀式をするためのスペースを確保した。


「楓と翔の結びつきが強ければ、すぐに召喚できるはずじゃ。ま、そこへ座って見ておれ」


 密さんは、私のトンボ玉を彼女の鈴の飾り紐に結びつけた。そして、畏まった様子で部屋の中央に立つと、舞を始めた。

 流れる水のように滑らかで、優雅な動き。それに合わせて、澄んだ鈴の音が鳴る。密さんの袖が翻る度に、彼女の周囲が白く光り、強い風が起こった。次第に、トンボ玉も煌々と発光し始めて、密さんの目の前に白い塊が現れ始め……






 一際大きな鈴の音が鳴った時、彼はそこに立っていた。


とても大きな風呂敷包みを抱えている。




「……楓?」


 彼の声が耳に届く。でも、これ、本当に本物なのだろうか? 私は、慌てて近づくと、彼の青い髪だとか、日焼けした腕だとか、見慣れた紺色の作務衣をペタペタと触りまくった。


「お前、帯解けてるし……大胆になった?」


 あ、本物だ。


「私……寂しかったんだからね!!!」


 私はポコポコと彼のお腹に殴りかかった。翔はそれを全部受け止めると、密さんの方に向き直る。


「そっか、あんたは呼び戻せたんだったな」

「翔がなかなか楓とくっつかぬのが悪い」

「何がしたいんだ?」

「さっさとくっつけて寿(ことほ)ぎたいだけだが?」

「さぁ、そんなにうまくいくかな?」


 翔は、ふんっと鼻を鳴らした。二人は、よく分からないことを話している。そんなことより! まずこれを聞かないと!


「翔、なんですぐに帰ってこなかったの?! 心配したんだからね! どこにいたのよ?!!」

「楓、ごめん」

「謝罪とかいらない! ちゃんと答えて!」


 翔はすっと唇を結ぶと、居住まいを正し、真剣な眼差しで私を見つめた。





「千景さんに、会ってきた」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださいまして、どうもありがとうございます!

第一弾 『止まり木旅館の若女将』
https://ncode.syosetu.com/n0739em/

8us2gmqhiun9gycbd7bm9ivf50v_1cpi_yg_1ck_p1pn.jpg

第二弾 『止まり木旅館の住人達』
https://ncode.syosetu.com/n2619es/

fmaklq1tl20xlnczaitkky93a0h_uoe_yg_1ck_oqr7.jpg

第三弾 『止まり木旅館の御客様』
https://ncode.syosetu.com/n0478et/

6665g7qw9ipxhrejkf6egxb2mdtv_ov5_yg_1ck_uhiz.jpg



『友達はエアコンお化け〈社内デザイナー奮闘記〉』も完結!
よろしければ読んでやってくださいね♪
https://ncode.syosetu.com/n3057ek/

fqp43isvlekkksnj4t8iceyz1ye0_121t_3b4_27
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ