キメラ
「なぜこうなった……」
アルケミープレゼンツを出て、アサガヤさんが買い物をしなければならないのだと言うので、そのままの流れで一緒に近くのスーパーに寄って、まさか全部の荷物を女の子に持たせるわけにもいかず、可能な限り俺が担当することになり、家が近付いてくるとアサガヤさんが「あの……よかったら寄っていきませんか?」と言ってきたので、とりあえず頷いておいたわけなのだったが、相変わらずの考えのなさに、アパートの前まで来てようやく事の重大さに気が付いて、そんな風に呟く俺なのだった。なぜこうなった……。うん。俺のせいですね、どう考えても。
両手には激安商品(主に肉。しかも尋常じゃない量)が詰まったレジ袋。もう、訪れざるを得ない状況だ。
寄っていく、ということは、長時間滞在する、という意味だ。
ミーツハートの家を探り当てた……もとい友達として訪ねた際には、俺の横にはトリスがいた。しかし今日は世界救済活動でいない。俺一人だ。
つまり……まだそうと決まったわけではないが、俺とアサガヤさんの、二人きりーーと、いうことになる。
ミーツハートにあんなことを言われたせいで、今になって物凄く意識してしまう自分がいる。アサガヤさんの目を直視できないくらいに……。
アサガヤさんについていき、二階へ。203号室。どうやらここがアサガヤさんの自宅らしい。外観はそれほど古くはなかったので、築十年くらいといったところか。
鍵を開けて、どうぞとまず俺に入室を促すアサガヤさん。そろそろビニール袋の持ち手が指の関節に食い込んでやばいところだったので、ありがたく入らせていただく。上りかまちに荷物を下ろすと、アサガヤさんも家に入ってきて鍵をかけた。靴を脱いだアサガヤさんが「汚いですけど、中へどうぞ」と言ってくれたので、どぎまぎしながら上がらせてもらった。
家の中に入るとすぐそこがキッチンになっていて、廊下の横に扉が一つ、そして奥に見えるガラス張りの引き戸の向こうが、たぶんリビングなのだろう。
「そっちの部屋で待っててくれますか? お茶、淹れますので」
「あ……うん」
買った物を冷蔵庫に入れているーーというか詰め込んでいるアサガヤさんの横を通って、リビングへ向かう。引き戸を開けて、閉める。
なんというか……凄く片付いた空間だなあ、と思った。もう一つの部屋は仕切り扉で見えないが、かなりシンプルな配置をしている。立てるタイプのカレンダーなどが載った、場所を取らない小さな棚。明るい色のカーペット。黄色い……これは造花だろうか? 小さな鉢植えが真ん中に置かれた丸い座卓。小さめのテレビ。
あまりにも片付いているので、まるでモデルルームのようだと思った。見られて困る物が一切ない。だから片付けの時間を作らなくてもよかったのか……漫画やアニメなんかでは定番のシーンだったのに……。それとも隣の、寝室と思われる部屋が目も当てられないほどのカオス状態なのだろうか。
とにかく……片付きすぎていて、なんだか落ち着かない。
リビングをうろうろしていると、引き戸が開いて、コップを二つ持ったアサガヤさんが慎重な足取りで入ってきた。途端に香ばしい香りが漂ってきたーーコーヒーだ。アサガヤさんはコップを座卓に置くと、
「ミウラさん、コーヒーは大丈夫ですか? 一応、ブラックなんですけど……」
「死ぬほど苦くなければ飲めると思うよ。コーヒーの味は分からない、未熟な舌だけどね」
「よかったぁ……さあ、どうぞどうぞ」
席を勧められて、俺はアサガヤさんの向かい側に座った。そして、さっそくコーヒーを一口……。
むむむ……これは……。
「……インスタントコーヒーにはない、何かを感じる」
馬鹿丸出しな感想だった。
「凄いですよ、ミウラさん。よく分かりましたね」
「いや……何も分かってないよ? ただ……インスタントコーヒー、ではないかなあ……? 程度にしか思わなかったんだけど」
「それでも凄いですよ。ミウラさんって、優秀な味覚の持ち主でもあるんですね」
「ん……この深いコク……それでいて、飲んだ後に鼻から抜けていく爽やかなフルーティーな香り……これはホフヌング大陸のヘレニズム産の豆を使っているな……」
「いえ……キミア産です」
「うん。そうだと思った」
「わたしのお父さん、コーヒーショップを経営してて、コーヒー豆も自分で作ったりしているんですよ。ちなみにこのコーヒーはお父さんが作った豆を使っています」
「へえ……でも、コーヒーって、ここら辺の気候でも育つものなのか? 暑いところで栽培してるイメージなんだけど」
俺はコーヒーに目を落とす。何気なく飲んでいるコーヒーには、作った人たちの努力が詰まっているのだと思うと、もっと味わって飲まなくちゃなと思う。
「コーヒー栽培には色々と条件があるらしくて……お父さんってば、店を店員さんに任せっきりで、遠いところにある山まで行って、コーヒー作りのお手伝いをしに行ってるんです。しかも泊まり込みで。次に帰ってくるのは三日後になるとかならないとか。大抵、延びるんですけどね……あ、はは……」
「ふうん。実質、一人暮らしみたいなもんだ。アサガヤさんって、兄弟とかは? 俺は一人っ子」
「わたしも一人っ子ですよ。今は……お父さんと二人で暮らしています」
「……俺は三人。あ、いや……今日で四人暮らしになったんだけど、父さんは仕事が忙しいのか、どこかでもうとっくに死んでるのか、ずっと家に帰ってきてないから、今は俺と、メイドさんと、錬金術で生まれたドクトリンっていう奴の三人暮らしだな。でもトリスの家、俺んちの隣だからさ。もう毎日のようにいるから、ミウラ家とサクラザカ家はほぼ家族みたいなものなんだよね。あいつがいると、騒がしいのなんの……」
「いわゆる幼馴染みっていうやつですよね。羨ましいです、そういうの。毎日が楽しそう」
「トリスがもっとおしとやかだったら、俺はツッコミ役をやってなかったんだろうなあ……」
しみじみとコーヒーを飲みながら、座卓に置かれた鉢植えを見る。
あれ……この花、どこかで見たことある気がするぞ? ーー記憶を遡ると、結構すぐにその記憶は見つかった。
「そうだーーこの花って、ルカネーリの花……」
Dザイヤの森で、ティッティ先生が説明してくれたのだった。
しかし、言葉にしてみて気付いたーールカネーリの花。
アサガヤさんの、ファーストネーム。
ルカネリ・ファウスト・アサガヤ。
ルカネーリの花。
ルカネリ。
たぶん……俺の推測は正しいと思う。
「もしかして、アサガヤさんの名前の由来?」
「ミウラさんって……本当に凄いですね……。はい。そのとおりです。わたしの名前は……お母さんがつけてくれた、と……お父さんが言っていました。ちなみに、ルカネーリの花言葉は……永遠、だそうです」
「永遠、か……。なんか壮大だな……」
「……………………」
「……………………」
突然の沈黙。
いよいよ、あの話題に入ろうとしている。そんな雰囲気。
「お母さん……」
やがて、ゆっくりとアサガヤさんは言った。
「わたしの目の前で……殺されたんです」
「ーーーーな」
何を……言っているんだ……?
母親が、アサガヤさんの、目の前で……?
殺された……?
殺された、って……なんなんだよ。
意味が分からねえよ……。
「噓……じゃ……?」
こんなことが本当に現実で起こり得るのか。俺には到底信じられるものではなかった。
「噓なんかつきません。当時のことはよく覚えてないんですけど……お母さんの最後の記憶が、わたしを守ってくれた……優しい後ろ姿なんです」
アサガヤさんはその光景を思い出すように、遠くのほうを見つめる。
「でも……アサガヤさんは無事だったわけだろ? しかもすぐ後ろにいたんだから、気付かないはずが……」
「壺の中に隠れているように、言われたんです。お母さんに……」
そう言うと、アサガヤさんは『ゾーン』を展開した。
それは、錬金術の授業でも目にしている、壺の形をした『ゾーン』だった。
「当時十歳だったわたしの身体がすっぽり収まるくらい大きな壺で……中身を取り出して、そこに隠れているようにと……そうすれば大丈夫だと、必ず助かるからと……お母さんは笑ってくれました。そして……黒い影みたいな何かが、現れたんです。人……だったと思うんですけど、お母さんと会話をしていました。十歳のわたしに内容が理解できるわけもなく……そして……そして、黒い影に……お母さんは……」
「もういいよ!」
アサガヤさんは穏やかな顔をして語っているけど。
聞いているこっちのほうがーー辛くなる。
「もう……いい。思い出したくないものは……無理に思い出さなくてもいいよ……。ごめん、大声出しちゃって……どうしていいか分からなかったからさ……」
「いえ……わたしのほうこそ、ごめんなさい……。でも、今回の件に繋がっていることなんです」
「今回の……? それってどういう……」
母親の死と、連続通り魔事件の繋がり?
アサガヤさんが十歳の頃ということは、五年前か……。俺の場合は物心つく前の出来事なので、悲しい記憶というものがないのだが……アサガヤさんは十歳だ、悲しみを知っている。それは……簡単に想像できるような感情ではない……。
「ーーわたし、お母さんの綺麗な髪の毛が、本当に好きだったんです。黒くて……長くて……いつもいい香りのする、お母さんの髪の毛が……。薄暗い部屋で……黒い影が、お母さんに何かをしました。そしたらお母さんが倒れて……床に血が広がっていって……お母さんの綺麗な髪の毛が、血で染まっていってーーそこから先が思い出せないんです。ぷっつり記憶が途絶えているので、たぶん、気を失ってしまったんだと思います。その日、わたしは二つのものを奪われました。一つは……お母さん。そして、もう一つは……」
アサガヤさんはーー晴れの日などで身につけるような、細かい装飾が施された、ティアラにも似た花柄のカチューシャと、右耳に揺れるエメラルドグリーンの石のついたイヤリングを外して、手のひらに載せた。
「綺麗だ……美しい……と思える心ーーつまり、美的感性が……失われていたんです」
「美的……感性? まさか……そんなことって……」
あり得ない、と……断言は、できないのだろうけど……。
「お医者さんからは、精神にダメージを負ったから……としか説明されませんでした。いえ、そうだとしか言えなかったんだと思いますけどね……脳にはこれといった異常も見られないそうですし……。お父さんが持ってきてくれたお見舞いのお花……、お父さんが『綺麗だろ』って訊いてきたんです。でも、わたしには全然そうは思えなくて……それで美的感性の喪失が発覚しました。それからのわたしは……晴れた日の海を見ても、地平線に沈んでいく夕陽を見ても、紅葉で色づく山を見ても、咲き乱れる花々を見ても、輝く宝石を見ても……どれを見ても、わたしの目にはただのそこにある風景としか映らなくなっていたんです」
アサガヤさんは手のひらに載ったカチューシャとイヤリングに視線を落とす。
「これも……わたしが何気なく見ていたものを、お父さんが買ってくれたんです。こういうものを身につけていたら……いつかは取り戻すことができるかもしれないーーと。でも……」
カチューシャとイヤリングをつけ直したアサガヤさんは、苦笑交じりに言った。
「やんちゃっぽくて、今でも少し抵抗があるんですけどね……」
「アサガヤさん……」
俺は……一体……なんて言えばいいんだろう……、なんて声をかけてあげればいいんだろう……。
駄目だ……まったく思い浮かばない……。
だっせえなあ……。
「ミーツハートさんにああ言われた時は傷つきました……けど、そのとおりだとも思ったんです。ゴミ女……そう、わたしは綺麗、美しいからは無縁の存在。言わば十歳のわたしから剝がれ落ちた抜け殻。そしてーーわたしは本当に、ゴミの化け物となりました。お母さんが遺した、錬金法で……」
「え!? じゃあ……あれは、錬金術で、ああなったってことなのか!?」
アサガヤさんは、こくり、と頷いた。
「人間を生み出した俺が言うのもなんだけど……錬金術にはそんなこともできるのか……」
「その……結果が、書いてなかったんです、けど……わたし、どうしても……どうしても、お母さんが遺した錬金法を試したかったんです! だから……」
俺は、いつの間にかアサガヤさんの手を握っていた。
自分の仲間を見つけた時の行動である。
やっぱりアサガヤさんとはフィーリングが合うのかもしれない。前世では夫婦とか親友だったのではないかとすら思う。
「俺……アサガヤさんとは、誰もが羨む幸せな家庭を築けると思うんだけど……」
「あ……あ、あ……あわ……わわわわーー」
「というのは冗談で」
俺は、座り直して続ける。
アサガヤさんは心臓のところを押さえて深呼吸していた。
「いや冗談ではなく本当にそう思うんだけど……。その錬金術っていうのは、毎回やらなきゃいけないタイプなのか? それとも、何か発動するトリガーなんかがあるタイプなのか……どっち?」
「錬金術は一回しかやっていませんので、後者になりますね。それからというもの……夜の深い時間になると、気付いたらわたしは外にいて……目は見えているのに、身体が動かなくて……声も出ない。……それで、女の人をわたしが襲っているのを、ただただ見ていることしかできなくって……目が覚めると、わたしは布団の上にいるんです。わたしの一日は、まずシャワーから始まります。何せ、さっきまであらゆるゴミを纏っていたんですからね……」
「発動条件は、眠ったらってとこか。うん……そこまでは分かったんだけど、アサガヤさんのお母さんの件と怪物化……ここでは『キメラ化』って呼ぶことにするけど、別に繋がっているようには思えないんだけど……」
少し強引な感じがする、程度なんだけど。
馬鹿なりに、どこか引っかかった。
「たぶん……なんですけど、お母さんの死で失った美的感性が、キメラ化の時だけ復活しているんじゃないかと……思うんです」
「あ。繋がった」
「はい……自分ではコントロールができないので……嫉妬、からなのかは分かりませんが、被害に遭った方たちの綺麗な髪の毛や身につけているものに反応して……、それでなんだと思います」
「ふうん、そうだったんだ……って。納得できるかーい!」
「えっ……ええ……?」
「だったら俺は!? あれはなんだったの!? しかも殺されかけたんですけど!? 俺のビューティフルポイントって、何!?」
他の被害者とは違って、俺は殺されかけたーー偶然にもタイミングよくピンポイントで、スライムがキメラ化したアサガヤさんの顔面に降ってきていなければ、ドクトリンが助けにきてくれていなかったら……俺は今頃、死んでいる。殺害するほどのビューティフルポイントがない限り、そうはならなかったはずだ。殺したいと思うほどの嫉妬心を、抱くことはなかったはずだ……。
ーーアサガヤさんは、少し迷うような沈黙の後、こう言った。
「ミウラさんたちが……羨ましかった」
--と。
アサガヤさんは、少し俯いて。
「ミウラさんと……サクラザカさんと……ミーツハートさんが……三人で楽しそうにしているのを見て……わたしは、いつも羨ましいと思っていました。こんな気持ちは……初めてで。クラスメイトを見ていても……そんなこと、今まで一度も思ったことがなかったのに……ミウラさんたちを見てると、どうしてなんですかね……? わたしも一緒に……って、思っちゃうんです。そこには……決して壊れることのない、なんて言うんでしょうかーーそう、強い絆のようなものを……感じるんです。どこにいても、互いに引き合う……繋がり。パズルのピースがぴったりとはまったような……上手くは言えないんですけど、そんな感じが……するんです。わたしのやったことは……絶対に許されることではありません。……だけどーー」
すぅーーと、ゆっくり顔を上げたアサガヤさんは、泣き笑いのような……とても悲しげな表情で、真っ直ぐに俺を見た。
俺も……一瞬たりとも、逸らさない。その、力強い視線を、受け止める。
言葉をーー嚙みしめる。
「わたしも、パズルのピースになりたいんです……っ! 馬鹿なことを言っているのは分かっています……百も承知です! けど……っ! 苦しいんです……心が……。張り裂けそうになるんです。……そんなことでそこまで悩んでいるのかと思うかもしれませんが……わたしはっ、本当にーー」
「本当に、馬鹿馬鹿しいことこの上ないな!」
バヂン! と、俺はアサガヤさんの肩に、割と強く両手を置いた。びっくりしたという表情が、目の前にある。
「殺しかけといて、今さらナニ言ってんの!? 許されるわけないじゃん! そんなの!」
「あ……う……」
「めちゃくちゃ痛かったんだぞ、あれ! あー痛かった痛かった! 死ぬほど痛かったなあ! エリクシールがなかったら、今頃俺はこの世にはいなかっただろうなあ!」
「ご……ご……ごめ、んなさーー」
「謝って済むなら警察はいらないっつーの!」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
「はあ……まったくもう……」
俺はアサガヤさんの肩から手をどけて、座り直した。
お尻の下にかかとがくるようにして座り、手は軽く握って、太ももの上に載せる。つまり正座を決めてーー俺は言った。
「アサガヤさん。俺と……繋がってくれますか」
一言一言丁寧に言ったそれは、完全なる下ネタだった。
気恥ずかしさを紛らわすためとはいえ、さすがにこれはないなあ……と思う。
その頃、下ネタ攻撃を食らったアサガヤさんはというと、数秒間ぽかーんとした後、たぶんクセなのだろう、胸の前できゅっと手を握ってーー
「よ……よろしく、お願いします……」
と、頭を下げた。
「こ……こちらこそ……よろしくお願い申し上げます……」
予想外の反応を示された俺は、ガッチガチの事務的な口調になってしまい、そのまま右手、左手と床につけて、最後に額を床にこすりつけた。つまり土下座を決め込んだのだった。
な……なんじゃこりゃあ!
「ーーうおっほん! と、とにかく……これからどうするかを考えよう!」
真面目な話。
キメラ化をなんとかしないと、連続通り魔事件が終わらない。たぶん……俺が狙われることはなくなった、とは思うけど……立ちはだかるようなら容赦はしない! という状況に、ならないとは言えない。正直言うと、アサガヤさんが眠るのが、まだ恐いと思っている自分がいる。この問題を解決しないことには、俺もアサガヤさんも、満足には眠れないだろう……。
「ミウラさんのこともありましたし……いつまた暴走するか……。もしそうなったら、わたしがーー」
「そうならないように、どうするかを考えよう」
「…………はい」
「ん~……やっぱり、解除するしかないよな。錬金術のーー逆転術で」
逆転術。
簡単に言うと、分離だ。
しかしそれは最近になって発見された技術で、錬金術で作った全てのものが対象になるとは、まだ言えない段階にある。
正直、危険な賭けだ。だが……これしか方法が思いつかない。
「逆転術……それでキメラ化が治るんでしょうか? 解除……されるんでしょうか?」
「分からない……でも、試してみる価値はある、と思うけど……。んあー、駄目だ! こんなこと二人で考えてても埒が明かない。ここは……協力を仰ごう」
「協力? 協力って……一体、誰に手伝ってもらうんですか……? こんな危険なことに関わろうとする人なんて……果たしているでしょうか……」
と、不安そうにアサガヤさんが言った。
まあ……トリスとか、もしかしたらミーツハートも仕方なしに協力してくれるかもしれないけど、普通は断るような案件だよな。
だけど。あの人ならーー
錬金術のことなら、なんでもござれ。
我が一年D組の担任教師であり、錬金術の担当教師。
天才錬金術師。
天才の中の天才。
錬金術を愛し、錬金術に愛された女性。
そう……ティッティ・ピョンドルズ・レーラー先生なら。
「ティッティ先生に頼んでみよう。あの人の手にかかれば、まず間違いはない」
大船に乗ったつもりでいていいよ、と自分で言うことではないが、つけ加えておいた。
その大船はティッティ先生のもので、俺も雑用クルーの一人に過ぎないんだけどね。
この航海がーー後悔に繋がらないことを祈るばかりだ。
なんだか嵐の予感がする。




