ティッティ先生からの依頼
俺、ジル・ヘルメス・ミウラは、我がクラスであるところの一年D組の生徒の名前を、サードネームのみならず、ファーストネーム、セカンドネームを含めた、その全てを覚えている。覚えておくように、している。いつでも対応できるように、咄嗟に名前が出てこないという失礼がないように、勉強ーーとまではさすがにいかないが、連絡網をさっと見る程度で、不思議と顔と名前が合致されるように、どうやら俺の足りない頭はできているようだった。脳のスペックが、違う才能のほうに偏ってしまっている。もしかしたら、友好関係を望みすぎて、それゆえに脳みそが知らず知らずのうちに変化していったのかもしれない。
進化、というか、明らかな退化だ。
何もかもが、遅れている。
念願の友達がようやくできたとはいえ、この遅れは、そう簡単に取り戻せるものではない。俗に言うリア充が俺の設定するゴール地点ではないが……、とにもかくにも、まだまだ『俺』の完成には程遠い。成長の真っ只中なのだ。知識も経験も、まだまだ浅い、まったく満たされていない、RPGでいう序盤、プロローグの段階だ。戦闘のチュートリアルが終わった、くらいの進行度だろう。
俺の所属するクラス、あの錬金術の天才、ティッティ・ピョンドルズ・レーラー先生が担任を務める一年D組。
発足から、一ヶ月と数日が経とうとしていた、そんな時だった。
ーー五月、である。
五月の、いい感じにクラスがまとまってきて、気の合う仲間とつるんで、いくつかのグループが形成してきていた、もうすぐ衣替えという時期に、担任教師のティッティ先生から、ある話が持ちかけられた。
ある話、と気になる言い方をしてはいるが、しかしそれは、今後の人生に大きな影響を与えるような話では、ないように思われた。嬉しい話でも、またなかった。それどころか、ちょっと面倒だなあ……とさえ思った。正直に告白すれば。
高校生になって二度目の月末が迫る、ある日の六時限目。
五時限目から継続しての、錬金術の授業にて。
ティッティ先生は、課題の一つをやり終えたのを見計らって、恐らくクラスの生徒で一番交流しているであろう俺、トリス、ミーツハートに、言ったのだった。
ちなみに俺のグループにはもう一人、ルカネリ・ファウスト・アサガヤさんがいる。
教室では、ミーツハートの、後ろの、後ろの席。
錬金術の授業でしかまだ話したことがない、……こう言っては失礼にあたるかもしれないが、いつも一人で行動している、大人しめな少女。
そう言う俺だって、トリスが一緒にいなければ、第三者から見れば同じ印象を持つことだろう。
思えば、あの時がーー錬金術の授業で『ゾーン』の形が気になって話しかけたあの時こそが、俺とアサガヤさんの、ファーストコンタクトだった。壺の形をイメージした『ゾーン』なんて、十五年と七ヶ月の人生で初めて見る形状だったから、どうしても訊かずにはいられなかったのだ。アサガヤさんとは、なんとなく話が合うような気がする。そう思った。錬金術を通じて、仲良くなれそうな気がする。……こんなことを言うと、またミーツハートに「飢えておるのう」なんて言われるだろうけど。
アサガヤさん。
ルカネリ・ファウスト・アサガヤさん。
俺と同じで、いつも一人でいる。
大人しそうな、少女。
そして、
アサガヤさんは、
ルカネリ・ファウスト・アサガヤさんは、
精緻な装飾が施された、結婚式で身につけるような煌びやかな花柄のカチューシャで肩にかかる長さの髪の毛を留めた、
大きなエメラルドグリーンの石がぶら下がるイヤリングを右耳につけた、
大人しそうだけど、……でも、ちょっと変わった見た目の、俺たちのクラスメイト。
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「あのぅ……折り入って、ご相談があるのですが……」
「引き受けましょう」
六時限目。
五時限目に引き続いて錬金術の授業中。
俺たちはトリス、ミーツハート、アサガヤさんの四人で協力して、ブライティングストーンという、自然界には存在しておらず錬金術でしか作れない上級素材を完成させ、一息ついていた、ーーそんな時、グループの進捗状況を確認しに回っていたティッティ先生が俺たちのグループに立ち寄り、相談を持ちかけ、そして俺が内容も聞かずに即引き受けたーーといった次第だった。
ティッティ先生のお願いを無下にはできない、承らないわけにはいかない。
ティッティ先生には、以前ミーツハートに取り憑いた、そして現在は俺の影に住み憑いているカゲカリの件でとてつもなくお世話になったし、それにこれからもお世話になる予定だ。
だからできるだけポイントを稼いでおきたい。
そんな腐った思惑の下、俺が「引き受けましょう」と即決、了承すると、
「いやいや、ジルくん! もし、とんでもない折り入ってのご相談だったらどうすんのさ! 人体実験にあなたの体を使わせてください、とかだったりしたら、やばいじゃん! まずいじゃん!」
「うむ。ツヴァイハーゼ人ならば、もしかしたらあり得るかもしれんなあ。錬金術の天才? とかなんとかなどと、もてはやされているようじゃからのう。ーー天才という生き物は、例によって、少し変態な部分があるからのう、成功には犠牲がつきものだ、などと考えておるやもしれんぞ?」
ーーと、トリスの言に、ミーツハートが追随した。
……って、そんなわけねえだろ。
確かに、勉強が大好きです、なんて言う奴は変態だと思うけどな。だけど、ティッティ先生を変態呼ばわりするんじゃねえよ。マジで怒るぞ。ティッティ先生、なめんなよ。
俺は、ティッティ先生のことを、本当に尊敬しているんだから。
「ミーツハート、お前、相も変わらずツヴァイハーゼ人に強く当たりすぎだろ。それ以前に、こう見えてティッティ先生は俺たちの先生なんだぞ? 大人なんだぞ? もっと尊敬の念を込めて話せよ」
「ミウラさん? こう見えて、は余計ですぴょん……」
「はっ! しまった……!」
「案外、心の中ではジルくんが一番ティッティ先生のことを馬鹿にしているかもしれないね~」
「そ……そんなことないですからね? ホントですよ?」
お願いだから嫌いにならないでください!
……折り入ってお願いがあるのはこっちだった。
切に。
「ジルくんの本音が飛び出したところで、その、折り入ってのご相談って、なんなんですか? ジルくんのボデーなら、いつでもいくらでもお貸ししますよ」
「俺の体は一つしかないし、俺の体の行く末を決めるのも俺自身だ。勝手に人体実験の材料として提供しようとするな」
「大丈夫だって。またジルくんのDNAデータを引き抜けば、いくらでも量産できるんだから」
「……俺ってクローン人間だったの?」
「今のジルくんはオリジナルだよ」
「そういう問題じゃねえ!」
「世の中には自分とそっくりの顔の人が三人はいるんだって。そう考えると、なんだか不思議な感じがしない?」
「ん……確かに言われてみると、そんな感じが……、まったくせんわ! お前の道徳観、独特すぎるだろ! ていうかなんの話してんだよ! 不毛すぎるわ!」
「ん? ジルくんの将来が?」
「俺は絶対にハゲねえよ! ……と、思いたい」
「いや、ジルくんの将来は常にどん底もどん底、一筋の光も差さない真っ暗闇を、生きるというただ一つの目標を目指して這いずり回っているんじゃないかな~? ということを言いたかった」
「どこでどのように失敗したんだよ、俺!? 決してあり得なくはない将来を語るな! 結構本気で不安になってくる……」
一流の錬金術師として、様々な素材を求めて世界中を飛び回り、生涯でいくつもの新しい錬金法を発見している……はずだ。それ以外の職業なんてあり得ない。考えたくもない。どこの企業で働こうがどんな仕事をしようがまったく構わない、というのであれば、普通に勉強して、普通に就職活動をし、普通に暮らせばいいだけのことだ。
夢を見つけるって……案外、レアなケースなのかもしれない。
子供の頃なんかは、ケーキ屋さんとか、プロ野球選手になりたい! と思うだろうけど、成長してからは、世間というものが見えてくる。嫌でも見せつけられる。
現実を突きつけられると、人は、無難なほうへ、無難なほうへと、歩みを進めるものだ。
それでも、そんな現実に抗って走り抜けた人間こそが、夢を掴むことができる。
それは、普通じゃない。
でも、普通じゃない人生のほうが、楽しいに決まっている。
俺たちの会話も、すぐに脱線するし、普通じゃないしな。
走り抜けてみせるぜ、この道を。
何が起こるか分からない、という意味では、一寸先も見えない真っ暗闇な、この道を。
「--で、一体なんの話をしてるんだったか……。ああそうだ、ジルくんは何人必要か、だったね」
「その複製人間計画を今すぐ凍結させろ」
「プリーズ。フリーズ」
「くだらな。--すみませんでした、先生。うちのトリスが。で、今度こそ本当に、……それで、折り入ってのご相談っていうのは」
「あ……はい。実は、ミウラさんたちに手伝ってほしいことがあるんですぴょんが……」
「手伝いましょう」
「だから話は最後まで聞く」
トリスに怒られてしまった……けど、内容がどんなものでも、狂気的でさえなければ、ティッティ先生のお願いとあらば二つ返事で了承するんだけどなあ。
「その……」
ティッティ先生は躊躇いがちに言った。
「掃除を、手伝ってほしいんです」
「掃除……ですか? 誰か気に食わない人でもいるんですか?」
「いや違うでしょ」
ビシッとトリスにツッコミを入れられた。
ボケとツッコミのジョブチェンジ。
次代を担う俺たちこそが、漫才の新時代を築いていかなくてはならないのだ。
「頼むなら、その道のプロの人に頼むって」
「頼まないですぴょん……」
「今日の掃除当番は一番右側の列ですよね?」
王立シュテルンツェルト学園では、毎日入れ替わりの日替わりで、席の縦列が教室の掃除をすることとなっている。清掃員は雇ってはいるものの、しかしこの広さだ、一日ではどうしても隅々まで手が行き届かない。だから自分たちが勉学に励んでいる教室だけでも、自分たちの力で綺麗にしよう、ということらしい。学校によっては全校生徒総出で掃除タイムを実施しているところもあるらしいが、よそはよそ、王立シュテルンツェルト学園は王立シュテルンツェルト学園。清掃精神はちゃんと身についているのだから、これでいいのだと思う。
俺が言ったように、昨日は一番左側の列の俺たちが掃除当番だったから、順番は最初に戻って、一番右側の列となる。
一年D組の教室は、そんなに汚れていただろうか?
「はい。そうですぴょん。順番はそうですね」
「じゃあ……別の場所ってこと?」
「まあ……そうなります。けど……」
「けど……なんですか?」
頼みにくそうなティッティ先生は、手をいじりながら、
「その……。長らく放置されていた場所で、あの……清掃員さんも立ち入っていないような……とても、掃除のし甲斐がありそうな場所……なんですけど……清掃員さんも忙しいですし、だけど私一人では、いつまで経っても終わらないと思いまして……」
「だから妾たちに懇願してきたーーと、そういうことじゃな? ふんっ。ツヴァイハーゼのくせに生意気な」
「返す言葉もありません……」
しゅん、という擬音が聞こえてきそうなくらい、ティッティ先生の長い耳が垂れ下がった。
ティッティ先生をいじめるとは何事だ。成敗できるなら成敗してくれるわ。
「おいミーツハート、いい加減にしろよ。ティッティ先生の垂れ下がったお耳様に謝れ」
「すまん」
「ノリ悪!? もっと会話を広げろよ! それに心がまったく込もっていない、中身がすっからかんの謝罪だ! いつかテレビでやってた謝罪会見のように、恥も外聞もかなぐり捨てて号泣するくらいのことはしてみせろよ! ミーツハート、お前に心はないのか!」
「いいや、心はある。じゃが、ツヴァイハーゼに向けるような心は持ち合わせておらん。生憎とな。もしもそのようなことがあったとしたら……妾は死んでしまうじゃろうからな。そうなってしまっては、お主が悲しむじゃろう? じゃからこうして、やむを得ずつっけんどんな態度を取っているというわけじゃ。あーあ。心苦しくてかなわんわ」
「心がない奴の台詞だ……」
ミーツハートには、口論でも一生勝てないような気がする。諦めるほかない。
「しかしその、長らく使われていない掃除のし甲斐がありそうな場所、というのには、いささか興味があるのう。聞くだけ聞いてやる。さっさと話せ」
「先生、このとおり、ミーツハートはこういう奴なんで、全然気にしないでくださいね。気を落とすだけ無駄ですから」
「そうだよティッティ先生。お耳は上を向けて歩かなくっちゃね。涙が零れないように」
「いや、耳から涙は零れねえよ」
「耳だけに?」
「は? 耳だけに? ……って何」
トリスの言っていることが、マジで分からない。
「耳とイヤーをかけたんでしょ?」
「イヤーって……耳、だっけか?」
「……………………」
「この世に存在してはいけないものを見てしまった、みたいな顔をするな。誰にだって分からないことはあるだろうが」
「ソ、ソダネー」
「なぜ片言?」
「ソレデ、ソノ、バショッテ、ドコナノ」
ロボットのトリス、ロボットリスが、長文にすると読むのが面倒になりそうな風に訊いた。
「学園の敷地内にあるのですが……バスで数分、それから少し歩いたところにあります」
「端っこのほうですね。俺たち生徒はルートから外れることはまずないですから、行ってみたくはあります。ていうか行きたいです。ていうか掃除、やりたいです。まあ最初から手伝うって決めてましたけど、場所を聞いて、俄然やる気が出てきました」
「わたしはもれなくジルくんとセットでついてきます。つまりわたしも手伝います。手伝っちゃいます。え~と~……一時間、これくらいで」
「時給五百円ですか……。うぅ……分かりました……ぴょん……」
「はあ? 何馬鹿なこと言っとんじゃあ。一時間あたり五円に決まっとるじゃろが、ぼけぇ」
「いい奴なのか、ただの馬鹿なのか、どっちなんだよ。ボランティれよ」
「ミーツハートさんはどうすんじゃ、ぼけぇ」
「うむ。これで手を打ってやる」
「今度はなんの五だ……高額請求するんじゃないだろうな」
「カニ缶五個で手を打ってやる」
「女子高生とは思えない要求だ!」
んーでも、缶詰め五個なら、清掃労働の、高校生への対価としては、ちょうどいいのかもしれない。
そういえば、俺たちがミーツハートの家を訪れた時はサバ缶を食べていたっけーーお行儀悪くテーブルの上に胡坐をかいて、フォークを使って食べようとしていたところを、俺たちに目撃されてしまったわけだけど。
サバ缶が好きなんじゃなくて、ミーツハートは『缶詰め』というジャンルの食べ物が好きなのか。
俺は干物で、ミーツハートは缶詰め。
変わってんなあ……。
年寄りか、俺たちは。
「一つ二千円ので頼む」
「ギフトを贈る時くらいしか買わねえだろ、その値段のやつ! ワンコインで勘弁してやれよ! てかお前ら、ボランティアの精神はどうした!」
「昨日、背中を洗っている時に垢と一緒に流れていったのかも」
「そんなわけねえだろ」
「いやあん。想像しないでえんっ。ジルくんの、えっちぃ」
「想像するだけで吐き気がするわあ! お前は身体を洗う前に滝に打たれてその穢れきったばっちい心を綺麗さっぱり洗い流してこい! ミーツハートをつれて!」
「……二人の美少女が滝に打たれて……行衣が水を吸い、雪のような白い肌にぴたりと貼りつき、その、均整の取れた、まったく無駄のないなまめかしい裸体が、惜しげもなく晒されるーー」
「ジル・ヘルメス・ミウラ、お主、そのようなくだらないことのためだけに、妾たちを滝行に向かわせようとしていたのか。まったく……呆れて物も言えないとは、まさにこのことじゃな」
「お前らの滝行風景は見たくないけど、……決してくだらなくはない! 一般論として! 滝行は、ほぼ風呂だろ! すなわち、男のロマン!」
「煩悩を捨て去るのに百年はかかりそうな発言だ……いや、滝行をする限り、なくなりはしないか……」
「男って生き物は、そういうもんだ。女だってそうだろ?」
「まあ。そうっすね。獣っすよ、獣。昼夜問わず飢えてるっすよ。食ってやろうか?」
--と、そんな、益体も品もない会話をしている時だった。
「あのう……」
俺たちのグループは、俺、トリス、ミーツハートだけではない。
もう一人のメンバーである、アサガヤさん。ルカネリ・ファウスト・アサガヤさんが、そろりそろりと手を挙げたのだった。
「私も……でしょうか……?」
終始伏し目がちに、たぶん、これはティッティ先生への質問だったのだろう。
隣で、ティッティ先生が掃除を手伝ってほしいと頼んでいるのだからーーたとえそれが俺たちに対しての依頼なのだとしても、アサガヤさん的には自分も参加したほうがよろしいんじゃなかろうか、という風に思ったのかもしれない。普通は我関せず、こっちに話を振ってくるなと考えるはずだが、無駄な労働は避けたいと考えるはずなのだが……、なんていい人なんだ、アサガヤさん。自ら面倒事を招き入れるなんて……もしかしたら、滝行をしたことがあるのかもしれない。アサガヤさんの清らかな心が、俺の穢れた心を浄化していくようだ……。
「アサガヤさんも手伝ってくれるんですか? 是非ともお願いします! 人出は多いほうが助かりますぴょん!」
「え……と……。……はい。私で……よければ……」
恥ずかしそうに、耳まで真っ赤に染めて俯くアサガヤさん。
反応が可愛い。
「ーージルくん。今、アサガヤさんのこと、可愛いって思ったでしょ」
なるほど、これが彼の有名なジト目というやつか。
向けられて気持ちのいいものではないな。
しかしながら……心を読まれてしまい、俺の浄化されつつある心が大いに乱れてしまった。
「お……オモッテナイヨ?」
「思ったんだな、このやろ~!」
言いながら耳を引っ張ってくるトリス。いやいや普通に痛いから。トリスの繰り出す打撃は高級ティッシュの手触りよりも、風邪の時に食べるお粥よりも優しいのだが、こういった、じりじりと苦痛を与えるような攻撃は、普通に痛いのだ。
「仕草が! 仕草が、だってば! ほんとそれだけだから!」
「ジル・ヘルメス・ミウラは、おどおどあわあわしているような、引っ込み思案系女子が好みなのか?」
「んん!? そうなのか~!?」
「いだだだだだだだあ! 千切れる! 千切れるって! 引っ込み思案系女子とか分かんねえよ! 俺も初めての体験なんだからさあ!」
何せ俺の周りはこんな奴らばっかり!
暴力反対!
「なんという、ことだ……」
俺の耳を解放したトリスは、絶望に表情を曇らせる。
「わたしにその属性はーーない!!」
まさかのライバル出現ーーだとお!?
と、トリスは意味不明な発言をする。
ライバル出現、とは、恐らく恋敵のことを指しているのだろう。
そういうんであれば、まずライバル候補にミーツハートを加えるべきなんじゃあないだろうか。
幼馴染みのことが、時々よく分からなくなる。
というか……俺はミーツハートもアサガヤさんも、ついでにティッティ先生のことも、断じてそのような目で見てはいない。
ただ、このお掃除イベントを通じて、ミーツハートとはもっと仲良く、そしてアサガヤさんとも、ついでにティッティ先生とも仲良くなれたらいいなあ、とは思っている。
アサガヤさんはトリスのライバルに認定されて、あわあわもじもじ、忙しなく目を泳がせていた。
……やっぱり可愛い。
ーー仕草が。




