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アルケミ・アルケマー  作者: 御手洗スガタ
10/19

いざ、カリオストロ王国へ!

 モモモさんの運転する車(レンタカーだそうだ)で、俺、トリス、そして最後のほうまで渋っていたミーツハートは、最寄りの空港まで来ていた。外国に行くのだから、もちろんパスポートは取得済みだ。制服姿の高校生三人組と真っピンクのスーツに身を包んだ女性、という組み合わせは、なんだか不自然というか見るからに怪しい集団だが、空港のロビーに入ってしばらく歩いたところで、そんな気持ちは、どこかにすっ飛んでいってしまった。

『カリオストロ家ダンスパーティー招待客御一行様』

 --と書かれたのぼり旗を掲げる、ネーブルの使用人であるクロロさんを発見したからだ。発見してしまったからだ。よりにもよって誰にでもどこからでも見える位置に、のぼり旗と同化するように、背筋をぴんと伸ばして立っていた。


「あれだね……」

「あれだな……」


 正直近付きたくない気持ちでいっぱいなのだが、できることなら関係者だと思われたくはないところなのだが、しかしそうも言っていられないーー覚悟を決めて歩み寄ると、クロロさんは、恭しく一礼した。釣られて俺とトリスも深々と頭を下げる。こういう畏まった態度というのは慣れてないから苦手だ。


「……………………」


 頭を上げたクロロさんは、何も言わずにさっさと歩いていってしまう。ついてこい、という意味なのだろう。

 空港を利用するお客さんから、間断なく奇異の視線を向けられながらロビーを進んでいくと、突然、辺りが静かになったーーそれもそのはず、周りにいたお客さんの姿が消え、俺たちは、狭い一本道に入っていた。無機質な通路の先には、四角く切り取られた白い光……恐らくは、外に通じる扉だろう。

 コツカツ、コツカツ。--足音だけが、狭くて長い空間を満たしていた。あの、いつでもどこでもどんな状況だって騒がしいトリスも、まったく喋らないし、また、俺も、このように声がいつまでも響いて消えないような空間では、どうしても口を開く気にはならなかった。

 先導していたクロロさんは、扉を開けると、閉まらないように手で押さえて待ってくれていた。なるほど、これが使用人という職業なのか……。もの凄く、カッコいいぜ……。

 扉の先に待っていたのはーーいわゆる、滑走路だった。

 扉の先に待っていたのはーープバーテート大陸は、カリオストロ王国でした、みたいな夢の展開が待ち受けているはずもなく、これはこれで貴重な体験であることには間違いないんだけど、そこは普通の、飛行機が離着陸する、長い長い滑走路だった。

 でも。

 なんだか。

 普通とは、やっぱりどこか違うかも……?

 ていうかこの時点で、一週間かけて取得したパスポートの意味がなくなった気がする。

 密航者じゃん。俺たち。

 これで本当にいいのかなあ……。


「もしやこの展開って……」


 扉をくぐって俺の横まで小走りで寄って来たトリスが耳打ちしてきた。


「たぶんな」


 そう応えると、トリスは「うっほ~」と目をキラキラさせる。

 俺も内心では、うほうほだ。

 --と、二人してうほうほしている間に、いつの間にやらクロロさんは移動していて、一般の旅客機とまではいかないまでも、それなりに大きな飛行機ーーいわゆるプライベートジェット機のタラップのところで、俺たちが来るのを待っていた。


「お願いします」

「お願いしま~す」

「……………………」

「えっと……、よろしくね」


 最後に搭乗したモモモさんは、クロロさんにそのように声をかけていた。そうだ……モモモさんもカリオストロ王家に仕えていたんだから、クロロさんとは顔見知りなんだよな……。そういうクロロさんは、相変わらずの無表情、無反応だけど。

 機内は、当然と言うべきか高級感で満ち満ちていた。全ての座席がマッサージチェアみたいだ。モモモさんに促されて、好きな座席に座る。一瞬、まだ飛んではいないけど、空から落ちていくような感覚にとらわれた。世界中のふかふかと呼ぶべき感覚が、ここに集結していた。

 ここに住みて~。心の底からそう思う。

 疑似スカイダイビングを楽しんでいると、離陸するからシートベルトを着用してくれという旨の機内アナウンスが流れてきた。クロロさんの声ーーではないだろう、たぶん。一度も聞いたことがないけど、雰囲気が違うというかなんというか。アナウンスの声は、クロロさんの印象と違って、少し柔らかい感じがある。--って、ちょっと失礼か。これじゃあ、俺が、クロロさんの声は尖っていそうだ、と言っているようなものだ。いや、クールな声と表現するべきか。

 ……………………。

 やべえどうしよう……クロロさんの声が、もの凄く聞きたくなってきた……。あなたの声が、どうしても聞きたいんですーーなんて、この俺が言えるはずもないが。その勇気が、俺には皆無だ。

 今まで無口を貫き通してきたキャラクターが、最終回で満を持してその口を開く、みたいな展開が、これからあるかもしれない。

 というようなことを考えていると、ついに機体がゆっくりと前進を始めた。離陸の瞬間を見逃すまいと、窓にへばりつくようにして外を見る。窓からは、真っ直ぐに伸びる翼が見えた。名称は不明だが、翼についている、エアコンのフィルターみたいな部位が、ぱたぱたと上下した。エンジンが唸りを上げる。速度が徐々に、上がっていく。

 これが俺にとっての記念すべき初フライトとなるわけだがーー、なんだよ、なんなんだよ、俺としたことがーーめちゃくちゃ緊張しているじゃないか……!!

 手汗が半端ないぞ!!

 マジかよ……これが飛行機。空を飛ぶ鉄の塊。数十トンもの大質量が宙に浮くことを改めて考えるとーーやっぱりこれは男だけの感情なのだろうか、とてつもないワクワク感が腹の底から湧き上がってくる。

 ワクワクが、ワキワキだ。

 もう、とめどない。

 久しぶりに心の中で叫び狂いたいくらいだ。……いや。

 叫ばないよ? 絶対に叫ばないんだからね?

 窓の外ーー見ている近くの景色が高速で後方に流れていく。飛行機初体験の俺でもなんとなく分かる、もうすぐ離陸だ。テイクオンだ。あれ、テイクオフだっけ? まあ、どっちでもいいや。

 英語のテストに出てこようが、俺は一向に構わない。


「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーー~~!!」」


 振りどおりに、しかし心の中でではなくて、堪えきれずに声に出して叫ぶ俺。そしてトリスだった。

 飛んでいる。飛んでいる。飛んでいる。ーー地上が、みるみるうちに、遠ざかっていく……。なんだか、この星から脱出しているみたいな、奇妙な感覚に襲われた。たぶん俺だけだろうけど。


「子供が二人おる……」

「お二人は飛行機、初めてなんですか?」

「初めて! ……かもしれない!」

「初めてです! こんな……飛行機って、こんなに凄かったんですね! 人生の大半は飛行機のためにあると言ってもまったく過言ではないと思います! ああ……なぜか耳が痛い! 結構びっくりするくらいに痛い! くそ……俺としたことが、興奮しすぎてしまった……!」

「ジルくん、骨抜きしないと駄目だよ!」

「俺が人を魅了なんてできるか!」

「ったく……。鼻をつまんで唾を飲み込むのじゃ。それが一番簡単な方法じゃろう。それで治らんかったら……、到着まで我慢せい」

「だってさ」

「んん。……はだをずばんでーー」


 鼻をつまんで。唾を飲み込む。

 ごくんーー


「…………治った。耳の中にゴルフボールを詰め込まれているんじゃないかってくらいの苦痛が、まるで嘘のようにーーまるで魔法のように消えてなくなった……。ありがとう、ミーツハート。お前は魔法使いみたいだな」

「耳抜きのやり方を教えてやっただけじゃろうが。しかし妾のお蔭で治ったのは紛れもない事実、大いに感謝するがよい。にゃはは!」

「ん~。魔法使いっていうよりかはさ~」


 トリスは言った。少し間を空けて、みんなの耳が自分のほうに向くのを待ってからーー


「罵倒使い?」


 飛行機が水平を保ったらしく、再びアナウンスが機内に流れたので、シートベルトを取って楽になる。

 すると、おもむろにミーツハートが立ち上がったーーかと思うと、なぜかトリスのほうに歩いていって、

 ごん! --と。

 中指の第二関節を鋭く尖らせた拳を、無防備なトリスの頭頂部に振り下ろした。

 いわゆるそれは俗に言うところの、げんこつだった。


「ほげえっ!?」


 およそ女子の口からは出ないであろう、出してはいけないであろう情けない悲鳴が、トリスの口から漏れた。

 ……………………。

 あえて、お約束の展開を語らせてもらうと、ここはなんの関係もない、事実無根、無罪放免の俺がげんこつをされる場面のはずではないだろうか。いや、されたくは絶対ないのだが。むしろ命拾いして喜ぶ場面ではあるのだろうが。俺は決して、振りでもなんでもなく、誰がなんと言おうとMではない、……はずなのだが。

 お笑い芸人でいうところの、欲しがり、だろうか?

 ーー俺って、リアクション芸を極めようとしてんのかよ。大量のワサビやら辛子なんかには、全然魅力は感じないぞ。

 でも、裏を返せば、げんこつをするくらいには、ミーツハートはトリスのことを親しく思っている、と捉えられなくもない。

 モモモさんも微笑を浮かべていた。

 だったら、俺も笑おう。ーートリスを指差して、爆笑する。あははははははははははははははは!!


「はがあっ!?」


 なぜか今度は俺がげんこつされた。頭蓋骨が割れた音を、俺は確かに聞いたーー気がする。

 うわあ……。マジで泣くやつだわ、これ。


「なんで俺までえ!?」

「連帯責任というやつじゃ」

「納得がいかない。……納得がいかない! 納豆食いに行かない!?」

「何を言っておる。馬鹿かお主は。妾が納得さえすればそれでよいに決まっておるじゃろうが。これくらい常識の範囲じゃろう?」

「そんな常識、あってたまるか!」

「まったく……少しは危機感を持て、という意味じゃ」

「お前の言葉に隠された真意を探り当てるなんてこと、どんな名探偵でも不可能だろうな……」

「でっけえたんこぶができた……」

「俺も……」


 たんこぶなんて何年振りだろう? ていうか、父さんや母さんにげんこつされた記憶はないし、やんちゃ坊主でもなかった俺は、しかし一度だけ、なんかやらかしたとかなんとかで、ハルフゥにごつんとやられたーーそしてわんわん泣いたという記憶が、未だに脳にこびりついている。

 あれは確か、--そう、……そうだ、あの時だ。

 今もダイニングに飾ってある、家族写真。一歳くらいの超絶可愛い天使のような男の子を抱いた母さんと、その隣に立つ父さんという構図の写真だ。

 だけど、左側に写る父さんの部分がぐしゃぐしゃになっていて、その上、弧を描いて破れているのをテープを貼り付けて補強してある。

 あの頃の俺は、若かった。どうしようもなく、子供だったのだ……。

 でも、そんな子供にこそ、親という存在が必要なわけだ。残念ながら、その頃には既に母さんはいなかったけど。

 存在していて存在していないような存在の父さんは、なんだかブラックアイランドみたいだな。

 まあ、父さんのことはどうでもいいか。

 とにかく頭頂部が凄く痛い。洒落にならないくらい痛い。

 それにしても、たんこぶの中身ってなんだろう? 血か何かの体液? それとも⋯⋯愛?


「ドリンクやお菓子などもありますので、お好きなようにしていただいても構いませんからね」

「お菓子!? やったあ!」

「復活すんの、はえーな! ……でも、そう言う俺も、お菓子という甘いワードを聞いて、心なしか頭の痛みが引いたようなーー」

「う~わ。食い意地張ってんな~」

「お前にだけは言われたくねえよ。お前が逸早くはしゃいでたじゃねえか。食い意地が張っているのはお前のほうだ」

「じゃあ勝負しようか?」

「なんのだよ」

「どっちが食い意地張ってるか勝負」

「はあ? 何? マジでどういう意味か説明してほしいんだけど。食い意地が張っているか勝負ーーって、どっちが食欲に貪欲になれるか……、それとも、どっちが最後までお菓子の甘い誘惑に堪えられるか……の勝負?」

「もちろん前者」

「……普通は後者だと思うぞ? 前者はただの大食い選手権じゃねえか」

「無駄話しているのは一向に構わんが……お主らは食わんのか? 美味いぞ、このクッキー」

「食べる、と言いたいところなんだけど……ダンスパーティーに向けて、胃袋のコンディションをできるだけ整えておきたいんだよな。やらしい話、そっちこそがメインターゲットなわけだし」

「ジルくん、別腹って本当にあるんだって」

「マジでか。お菓子専用の胃袋があっただなんて……。複数の胃袋を持っているのは牛さんだけかと思ってた……」

「ちゃうわ。お腹いっぱいだ~って思っていても、いざスイーツを目の前にすると、脳が刺激を受けて、胃袋に隙間を作るんだってさ。それが豚バラ」

「いつからあばら骨周辺の肉の話題になったの?」

「お前のせいだろ」

「ああ、俺のせいか。……いや違うな?」

「じゃあ……わたしのせい? まさかね」

「残念だけど、そのまさかなんだよ」

「なん、だと……!? わたしのせい、だった、のか……!?」

「むやみやたらと読点を打つんじゃねえよ。それが許されるのは頭のいい軍師キャラだけだ」

「ふむ、なるほど。それでは、学園一のハイパー頭脳を有するこのわたしは、思う存分に読点を使用してもいい、ということ、か……」

「頭の悪さが会話文からひしひしと伝わってくるな」

「、、、、、、、、、、、、」

「解読不可能だ! せめて言葉にしろ!」

「読点読点読点読点読点読点読点読点読点読点読点読点」

「うん。この場合、どう返すのが適切なのか、誰か教えてくれる? なあミーツハート」

「妾に振るな。巻き込むな。そんなものは知らん」

「にべもない……」

「ジルくん、徹底して嫌われてるね」

「ん? マイブームはもう終わりか? ……じゃなくて。別に嫌われてはーー嫌われてはないですよねえ?」

「はあ? 何を言っておる、ジル・ヘルメス・ミウラ。いちいち言わんでも、それくらい分かるじゃろう?」

「そー……だよな。うん。分かる分かる。分かるとも。こんなこと訊くのは無粋だったな、察するべきだったなーー第一、ミーツハートが面と向かって嫌ってなんかいないと直接言うわけがないか。まあ、気恥ずかしくて俺も言えないだろうからな。しょうがないしょうがない」

「妾の半径一万キロ圏内に近付くことは許さんぞ」

「ワールドオブリヒトから出ていけと……!?」


 めちゃくちゃ嫌われていた。

 ていうか鬼畜すぎんだろ。

 できればこの星で死を迎えたいのだが。


「ぷぷぷ。死ぬほど拒絶されてやんの~」

「トリス・ローゼンクロイツ・サクラザカ。お主は息をするな。空気が穢れる」

「死ぬのはわたしのほうだった……!?」


 ある意味俺よりも酷い。

 いや、遠回しに殺されている俺のほうが、酷い扱いなのか?

 なんてこったい⋯⋯。


「ですが……」


 すると、そんな俺たちの会話を聞いていたモモモさんが、


「嫌よ嫌よも好きのうち、と言いますから」


 と、ニコニコ笑顔でそう言った。

 額縁に入れて飾っておきたいくらいの、それは名言だった。

 嫌よ嫌よも好きのうち、ですか。

 なんだよ、照れてしまうぜ……。


「ミーツハートさん……。まさかわたしのことをそこまで想っていてくれただなんて……。だけどごめん。その気持ちに応えることはできないや。何せわたしには、既にジルくんというとっても大切な人がいるから……」

「そんなやつは存在しねえよ。いるとしても、そいつは俺とは別人だ」

「も~、照れんなよ~」

「照れる要素がどこにあるんだ?」

「自分が気付いていないだけで、そこには確かにあるんだよーー明確に存在しているんだよ」

「お前、一体全体何を言っているんだ……お前はまず、お前自身の危うさに気付くべきだろう……なあミーツハート」

「ゴミはゴミらしくそこら辺に黙って転がっておれ」

「なんでお前らはそこまで俺をゴミにしたがるんだ……」

「え? だって人ゴミって言うじゃん」

「それは大佐だ」

「でもさ~、実際、ゴミのような人間っているわけじゃん?」

「む……」


 難しい話題を繰り広げられても困るのだが……。

 でもまあ、そのとおりーーなのか? 凄惨な事件のニュースなんかは、ほとんど毎日テレビで流れてるからな。

 本当、色んな人がいるよ。三者三様。十人十色。百人百様。千差万別。よく漫画やゲームとかで「人間がいるから争いが起こる。だから人間を根絶やしにしてやる」といった展開があると思うけど、--いやそれは絶対に褒められた精神ではないんだけどーー倫理の問題。

 例えばの話。

 絶対数の少ない、辺境民族が食用にしている動物が、牛や豚くらいに数を増やしたら、安定的な畜産技術が確立されたとしたら、果たしてその動物は、野生でも狩ってもいいことにはなるだろうか? 牛や豚みたいに加工して、普通に食べてもいい日が来るだろうか? 可愛いから駄目、と判断される? 牛や豚、鶏だって可愛いのに。今では豚をペットとして飼っている家庭も少なくない。ああ見えて豚は綺麗好きだしな。ミニブタといっても、食べれば食べるほど大きくなるという、なんじゃそりゃと言いたくなるような愛嬌たっぷりな性質。

 まあ、要するに、人間は人間が一番偉い存在だと勝手に決めつけている、ということ。物事を考え物事を決定できる、唯一の絶対的存在。

 多くの命を取り扱う錬金術師の俺たちにも言えることだ。今の段階では、ただ冥福を祈ることしかできない……。


「犯罪者はみな死刑にするべきじゃろうな」


 ミーツハートが至極極端なことを言う。


「血なまぐさい国だな、それ……。でも、そんくらいの意気込みはあってもいいとは思うな。人権? なんだそれ? みたいな」

「お主の場合は発言の一文字につき死刑一回分じゃ」

「地獄のどこよりも厳しい罰を受けなきゃなんないの? 俺⋯⋯」

「ジルくん、人生そんなに甘くないってことだよ。--クッキーまいうー」

「だな……」


 トリスがクッキーを美味しそうに食べているのを見て、俺はチョコレートの包みに手を伸ばす。ブランド名なのか商品名なのか高級感漂う包みには『100』と書かれている。

 口の中に放り込み、ゆっくりと舌の上で転がすーーカリオストロ王家が用意したチョコレート、果たしてその味は、


「苦ぁ!? ーーていうか痛い!! 舌が痺れッ」

「舌がお子ちゃまじゃのう。カカオ百パーセントのチョコレート如きで騒ぐとは」

「それってもはやチョコレートじゃなくてカカオだろう! 健康志向だとかやらに、育ち盛りの高校生は興味ないって……」

「チョコレートなのに苦い思いをしたね~」

「上手くねえよ!」

「ん〜。チョコっと上手くなかったかも」

「自分に甘すぎだろ⋯⋯」


 上手くないし、美味くない。お子ちゃまの舌には、歯が浮くくらい甘いものがお似合いなのだ。

 好きなものを好きなだけ食べて、俺は死にたいと思っている。

 色んな意味で、甘い人生を送りたいものだ。

 改めて食べた、このホワイトチョコレートのような。


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