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完:グーグーダイエット

 神様が現れた次に、カップ麺の残りからおっちゃんも現れる。


「お前が女グーグーダイエット界で有名な達海だな? 昨日は会えなかったから直接話せて嬉しいよ」


 達海は、「どうも」と平然と挨拶をする。さと子だけが置いてけぼりにあい、え、え? と3人を見る。


「お前には言って無かったが、実はコイツもグーグーダイエットをしておったのじゃ。と言うか、彼が1回目のダイエット経験者じゃ」


 さと子は数秒黙り、神様の言葉の意味を改めて理解する。その瞬間、「ええええっ!!!」と叫び声を上げた。あまりのうるささに、神様は耳を塞ぎ、おっちゃんは笑い飛ばした。


「な、何で! ってか1回やったら見えるの!? しかもおっちゃん、女グーグーダイエットって何!?」


「ホラ、このダイエットはかっこいい異性を見て頑張るってのが鉄則だろ? 男の時は逆ってことだ。それに、やるこっちも同性だと萎えるしな」


「……そうなの?」


「ああ。とはいっても子供の頃の2年間だったが、お前の傍にいる沢山の男は多分そうなんじゃないかって思ってたよ」


 今までさと子にくっついていた男の存在にも気付いていたのか。スーさんなどは特にさと子にくっついていたが、よく何もつっこまなかったな。興味が無かったのか? さと子は、「はぁー」と落ち込んだ。


「ねぇ、ダイエットさせようとしたのってどうして? 達海って、見た目とか気にしないって思ってたのに」


「そりゃあ、健康面で問題が出るかもしれないだろう。それに、あまりにも見た目でどうこう言われるお前が不憫でな」


「そっか」


「けれど、本当は痩せろって言いたくないと思ってもいた」


 そう言って視線を逸らす達海。どうして? さと子は首を傾げる。


「お前、昔可愛かったから、痩せたら絶対綺麗になるって思ってた。そしたら、他の男もきっと振り向くだろうって思って。……実際、お前の周りの男、結構お前と親身的だったし。怖かったんだ。お前が取られそうで」


「じゃから、70キロなんて体重制限を設けたのじゃろ?」


「その通りだ」


「達海……」


 ちゃぶ台に置かれている不安そうな手を握り、さと子は前のめりになって達海に言った。


「私、今まで確かに体型のことで辛いこといっぱい言われてきた。達海に言われた時もショックだったけど、達海は私の大切な人だから頑張ろうって。そう思ったんだよ。達海が、大好きだから」


 さと子の言葉を聞くと、達海はゆっくりとさと子の目を見た。本当か? そう言いたげに。


「その気持ちは、今もずっと変わらないよ」


 そんな彼の気持ちを察するかのように、続けて言った。おっちゃんは良いぞ良いぞと心の中でさと子に言った。


「大好き! 達海!!」


 さと子が笑顔で言った瞬間、達海はさと子を抱きしめていた。神様とおっちゃんが思わず、「お~」と言う。その直後拍手をした。


「……思いの他、ガッチリしてるな」


「ご、ごめん。もうちょっと痩せないとね」


 体を離すと、2人は笑った。そんな2人をよそに、神様とおちゃんは目を合わせて頷き合う。2人がさと子の方を向くと、神様が話をした。


「と言うことは、ワシ等の役目はもう終わりじゃな」


「そうだな! もうちょっとさと子と話をしてみたかったなぁ」


「え!? 私まだまだ全然痩せてないよ!!」


 さと子が立ち上がるって神様とおっちゃんの前に立つと、2人は静かに首を振る。


「今のお前には、達海と言う素晴らしきパートナーがおる。これからは、お前達2人でダイエットをするのじゃ!!」


「えーっ!!?」


 さと子は声を荒げたが、やがて、「そっか」と呟いた。


「……そうだよね。うん、分かった。私、達海と一緒に頑張るよ。でも、最後に会いたい人達、いっぱいいるんだ。神様、最後の挨拶だけ、させてくれませんか?」


 神様は笑顔で頷き、「ほいっ!」と掛け声を上げた。その瞬間食べ物男子達が現れ、皆、神様とおっさんの隣や後ろに列を作って整列した。こんなにいたのか。達海は驚きながらも食べ物男子達を見る。


「サトちゃん、おめでとう! サトちゃんのお陰で、ちょっと強い意思が持てた気がするよ!!」


 最初にグーグーダイエットで現れたのは、ハンバーグのハンちゃんだったな。最初の頃は凄く怯えられてて大変だったっけ。


「ハンちゃんはもっと自信持って! スーさんみたいに女の子に負けない人になってね!!」


 ハンちゃんが頷いた後、ステーキのスーさんは不服そうに眉間にシワを寄せて1歩前に出る。


「んだよその言い方は。俺は負けないって言うか、レディと仲良く出来るんだっつーの。でも、ちょっと悔しいかな」


「何が?」


「それを聞くのは野暮ってモンだぜ! な、おひたし?」


 スーさんがひたし様に話を振る。急に振られたおひたしのひたし様は、「な、何ですかぁっ!!」と顔を赤くし、声をひっくり返らせた。かなり動揺しているのが分かる。


「あ、あのですね! そうですよ。おひたしを広げてくれたさと子様がいなくなるのは、私共とーっても悲しいワケで」


「それなら大丈夫だよ。これからもおひたしはちゃんと作るから」


「さと子様ぁ~!!」


 歓喜のあまり抱きつこうとした所、肉じゃがのじゃがくんに腕を引っ張られ、後方に倒れたひたし様を気にせずさと子に話しかける。


「さと子ちゃん、おめでとう。念願のお兄さんと両想いになれて」


 そう言ってじゃがくんは達海にも笑顔を向ける。達海も嬉しそうに微笑んだ。


「うん! じゃがくんには色々相談のってもらっちゃって。すっごく嬉しかった。じゃがくんが弟だったらなぁ~」


「カレーライスはどうだった?」


 じゃがくんは、流石の気遣いで自然にカレーライスのカリー伯爵に振った。1歩後ろに下がると、カリー伯爵の背を押す。


「おやおや。気遣われてしまいました。さと子さん、短い間でしたが有難う御座いました。とても有意義な時間でした」


「ううん。カリー伯爵、始めはミステリアスで掴み所がないって思ってたけど、野球好きだなんてうちのお父さんみたいでちょっと親近感湧いちゃいました。野球、楽しかったです!!」


「私もです!!」


 カリー伯爵も1歩下がると、鍋料理のなべ姉がさと子の目の前に移動する。


「うふふ、ステキな顔してる。恋してる女の子の顔よ」


「なべ姉は男の人だけど、あまり男の人って感じがしなかったよ。でも、それが逆に安心できたかな?」


「あらあら。……もうちょっと、男の部分見せた方が良かったのか? さと子」


「け、結構です」


「嘘よ、嘘ウソ!! や~ね! もう!!」


 と言って達海にも笑いかける。なべ姉のペースには、流石の達海も苦笑いしていた。


 その空気を読んでか読まずか、ナポリタンのなぽりんがさと子と達海の前に来てニヤニヤとする。


「良いですねぇ~良いよ良いよぉ大きなラブを感じるよ!!」


「なぽりんはずっとそれだったね。私、なぽりんにはその記憶しか無いよ」


 さと子につっこまれると、なぽりんはペロッと舌を出した。


「彼、直人の時にいた1人だよな」


「ああそうそう。直人が女性と仲良く出来たじゃない? アレ、彼の指示のお陰なの」


「そうか。有難う。あの日は直人が世話になった」


「良いって別に!  ボクはただ、素敵なラブを見たいだけですから!!」


「この調子なの」


 達海はなぽりんに一礼すると、1歩後ろに下がった。その後、サラダのサラダに何とか押してもらいながら、焼き魚のねむたろうがやって来た。


「ねむたろう、このボタン、達海の物だったんだって」


「……そんな、気はしてた」


「え、どうして?」


「焼き魚の、カン」


「何かアテにならないなぁ」


 さと子が笑うとねむたろうは何時もの寝ぼけ眼を開いてさと子を見る。


「……惜しいなぁ。人間だったら、あるいは食べ物だったら、オレと」


 言いかけた瞬間にスーさんとひたし様がねむたろうを引っ張った。何か言ってはいけないことを言いそうなのを察したのだ。


 だが、ねむたろうはその場で口を大きく開けると、さと子に言った。


「友達になって欲しかったのに!!」


 全員が驚いてねむたろうを見る。さと子はその言葉を聞いて微笑むと、ねむたろうの前まで行く。


「大丈夫。もうとっくに友達だよ」


 さと子が言うと、ねむたろうは安心したように目を閉じ、眠りに付いた。


「ったく、コイツ分かってねぇなぁ。友達ってのはとっくになってるモンなのに」


「そうですね。私達が友達だと思ってること、彼は気付いてないのでしょう」


 辺りに温かい雰囲気が流れる。ねむたろうに完全にさと子を持ってかれサラダは今回も出番なしかとそっと去ろうとした。その帰り道をハンちゃんが阻むと、サラダの手を引いてさと子の元へ連れて行った。ハンちゃんに勇気づけてもらったので、サラダは意を決してさと子に言った。


「さ、さと子さん! 有難う御座いました!!」


「うん、有難うサラダ」


 ……え? それだけ? それだけで終わり? サラダが泣きそうな顔をしていると、さと子はクスクスと笑う。


「サラダ、もっと自信を持って。そんなおどおどしてちゃ、折角の魅力が見えてこないよ?」


「魅力?」


「私が10キロ走った時、サラダは諦めさせないでくれた。歩いてでもゴールしようって、本当に嬉しかったの」


「あ、有難う御座います! もうちょっと頑張ってみます……!!」


 サラダは元の場所へ戻ると、おにぎりのぎりの助が前へ出る。


「さと子さん、俺ぁさと子さんと出会えて良かったよぉ」


「私もだぁ……ヤバい、移るなぁ」


 さと子は自分の頬を引っぱたいた。


「ごめんなぁ」


「ぎりの助はのんびり屋さんで、ついつられちゃうんだよね。ずっとマイペースなのかなって思ってたけど、野球の試合の時、すっごく一生懸命な子なんだって分かって、良い子だなって思ったよ」


「いいやぁ、あの時はみんなの足引っ張ってぇ」


「ううん、全然。私の方が全く打てなかったし。また、野球したかったなぁ」


「ああ、俺もだぁ」


 ぎりの助はにこっと笑ってその場から離れた。入れ替わりに漬物のつけ坊主がやって来ると、達海を見て、「おお~」と言う。


「全く良い男だぜ。俺もこんな素敵な人になりたいなぁ」


「その為にはまず髪の毛伸ばしたら?」


「だよなぁ」


 さと子とつけ坊主が笑い飛ばした。達海も微笑ましそうに見つめている。


「野球の勝負だが、あれじゃあ全然駄目だな。相手にならないよ」


「何よもうっ! そりゃあ、男女の差とか、経験の差だってあるじゃない!!」


「そんなの言い訳だね。悔しかったら、俺とまた戦うことだな」


 その瞬間、「あ」とさと子はつけ坊主の真意を察した。つけ坊主はウインクをする。つり上げていた眉を下げると、さと子は笑顔で、「おうよ!!」と、つけ坊主とハイタッチをした。ハイタッチ後、つけ坊主は流れのままに元の場所に戻っていき、まんじゅうの二の川さんがさと子の前に来た。


「こわ~いこわいまんじゅうが来ましたよ」


「うう、本当に怖いです。……なんちゃって。まんじゅう大好きですよ」


「おやおや告白かい? 嬉しいねぇ」


「違いますって。……二の川さん、あの時二の川さんが達海にちゃんと聞いてみろって言わなかったら、私こうして達海としっかり話せていなかったと思います。それどころか、達海のことずっと敵対視してたかも」


 さと子は、達海に不信感を抱いていた時期を思い出す。あの時の自分は馬鹿だったなぁ。今になると恥ずかしい話だ。


「分かって良かったじゃないか。人間、話さないと分からないことばかりだ」


「うん!」


「お後が宜しいようで」


 二の川さんは冗談っぽく言って去ると、神様の隣にいたラーメンのおっちゃんがニカッと笑う。

「俺が出るまでに、良~い仲間と出会ったな、お嬢ちゃん」


「うん! おっちゃんとももっと話したかったなぁ」


「全くだぞ? 昨日もう少し話させてくれても良かったじゃんか」


「まさか、こんなことになるなんて思って無かったから……」


 おっちゃんはゲラゲラと笑い、「そりゃあそうだな」と言った。


「お嬢ちゃんのことは、コイツ等から聞いてたよ。会いたくて会いたくて仕方がなかった。俺以外の食べ物も、そう思ってたみたいだぞ」


「本当に? 会いたかったなぁ」


「そりゃあ出来ない! から、俺がちゃんと土産話として持っていってやるからな!! はっはっは!!!」


 おっちゃんは手を振って後方に下がる。シメとばかりに神様がさと子の前に来ると、さと子の表情も引き締まった。


「神様、本当に有難う御座いました。神様のお陰でここまで痩せられたし、達海のことも理解出来ました、ダイエットする間も、神様やみんなとわやわや出来て楽しかったし」


「そうじゃろう? ワシのグーグーダイエットは凄いのじゃよ!!」


 ほっほっほと笑う神様。なんだか可笑しくなり、さと子もつられて笑った。


「じゃが、このダイエットも良いことと悪いことがある。今まで、これを悪利用する者や、続かない者もたくさんおった。その中で真面目にダイエットをし、そして彼等とも友好を深めた。お前は素晴らしい体験者であった」


「いえいえ、そんな」


「別れるのはワシも惜しい! 暇を潰す相手が1人減るのじゃから!!」


「そんな理由かいっ!!」


 期待通りのツッコミに、神様はまた笑った。


「じゃが、コレもこのダイエットのルールなのじゃ。辛いが、これでお別れじゃ」


「……うん」


「それじゃあさと子、達者でな!!」


 神様の言葉を最後に、食べ物男子達はいなくなってしまった。さと子は妙に広いこの部屋に寂しさを覚えた。


 さと子は振り返ると、達海の方を見る。


「達海……これからも、私を支えてくれる?」


「勿論。彼等の分までな」


「お願いね?」


 2人は微笑み、その後も穏やかな時間を過ごした。


 … … …


 1年後、さと子は何時もの布団の上に寝転がって唸り声を上げていた。耳元にはスマートフォンを持ち、電波の向こうの達海と会話をしている。


『すまん、俺の親が無茶なことを言って……。でも、俺は親と関係を切っても良いと思っている』


「そんなの駄目よ! わ、私頑張るから!! もうちょっとだけ待って、ね?」


 何とか達海を説得し、さと子はスマートフォンの電源を切った。その後、大きく溜息。


「達海の彼女にするには50キロ以下だなんて……どうしたら良いのー!!」


 さと子は頭に手を当ててブンブンと首を振る。


 達海がこのままでも良いと言っていたこともあり、最近は体重をキープするのが精一杯だった。幾ら健康的な生活をしていても、急にダイエットをするとなると、達海がいたとしても厳しいものがある。


 こんな時、彼等がいれば……さと子は空しく天井を見上げた。


「呼んだかの?」


「……え?」


 振り返ると、狭いマンションに神様と、今まで出会ってきた食べ物男子達がいた。


「仕方ないの~相手の親が50キロと言うなら此方も手を貸さねばならない。もう少しだけ、手伝ってやるぞ? さと子」


 さと子は会いたかった皆の姿に、目をウルウルとさせる。勢い良く立ちあがると、神様に抱きついた。


「みんなーっ!!」


 さと子の2回目のグーグーダイエットは、今始まったばかりである。


――現在の体重、65キロ

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