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エルフさんとナットウ

納豆美味しいよね。

エルフさんとナットウ


「うぇ、なにそれ。なんかの卵?昆虫系?それとも両生類系?」

ビーチェは寝起きでボサボサの髪のまま信じられない物を見た。という顔をしている。その視線は私がかき混ぜているボウルの中に注がれている。

「知らないの?ナットウ。ニホンの伝統的発酵食品なんだって」

「それ原料なに?そもそも食べ物なの?変な匂いするし」

「ダイズ。ほら昨日ビールのおつまみにしてたエダマメ。あれを発酵させるとこうなるんだってさ」

「それもはや発酵って言わないよー。腐ってるじゃん」

ビーチェはコーヒーをいれながら顔をしかめる。

「すごいよねー。ダイズ。エダマメもおミソもトーフもぜーんぶダイズから出来てるんだって」

エルフはあまり肉や魚を食べない。食べられないわけではないが、あまり食べようと思わない。だから元の世界にいた時の食事といったらパンかオートミール、それにサラダとスープといったメニューが多かった。『エルフは素晴らしい文化を持つが唯一の例外は料理だ』とは私たちの世界でのお決まりのジョークだ。食材は野菜と穀物しかなく、それにエルフは森の中で暮らすことが多いので塩は貴重だ。そのため味も薄い。

そのためエルフ以外の種族はエルフ料理をあまり美味しく感じないらしい。

その点ニホンはすごい。ダイズというマメからこんなにも豊富な料理が作れるなんて。それにそれぞれ味も風味も食感も違う。

コメとダイズと少しの野菜だけで立派な料理になる。

ナットウをかき混ぜ、粘りが出てきたところでショーユを少し入れて、また混ぜる。そういえばこのショーユもダイズから出来てるらしい。つくづくニホンジンのダイズにかける情熱には頭が下がる。

ドンブリによそったごはんの上にナットウを乗せて、さらに小ネギをかける。

「いっただきまーふ」

ニホンにおける祈りの言葉もそこそこに熱々のそれをほおばる。

ブリルリアン!!(すばらしい!!)

大地の旨みが凝縮されたようなこの滋養に満ちた味!白いごはんとナットウはまるで龍のつがいのように相性バツグンだ。

「えぇぇぇ?」

ビーチェは私のことを屍肉喰らいをみるような目で見ているが気にしない。

時々お味噌汁で口の中を洗い、また気持ちを新たにナットウを堪能する。

「あー、ナットウおいしー」

「うわぁ、食べてるよこの人ー。信じられない」

「失礼ねー。それにナットウは体にも良いってササオカさんが言ってたわ」

「ササオカさんって誰?」

「職場の先輩。それでねササオカさんが言うにはイソフラボン?とかが体にいいんですって」

職場で常に紙パックのトウニュウを愛飲しているササオカさんが言うのだ。多分間違いないだろう。

「いや、私はそのイソナンタラが体にいいとしてもそれを食べる勇気はないよ……」

そう言いながらビーチェはコーヒーの苦味に顔をしかめる。彼女は苦いのが苦手なくせに「漆黒の飲み物、これこそ魔女たる私に相応しい」とか言ってブラックしか飲まない。

「それにイソフラボンは女性を美しくするとも言ってたわ。女性の体つきを良くするんですって」

「ほほう?」

ビーチェの顔つきが変わる。

「それは、あれかな?女性の体つきが良くなるってのは、あれかな?その、あれがボインでイエーイということかな?」

「いや、何言ってるかわかんないし」

なによ、ボインでイエーイって。

「そのササオカさんとやらはあれか?巨乳か?」

「いや、だからなんでいきなり……、たしかに胸は大きかったけど」

ああ、ボインでイエーイというのはつまりあれか。

「ビーチェの胸も大きくなるかもね」

「なっ!?べっ、べっつに気にしてないしー?胸のサイズとか気にしてないしー?」

「あ、そう?それなら別にいいけど」

「けれどまああれね!その見た目オークの鼻水かよ、みたいなところとか知識の探求者であり黒魔術を極めし私としてはぜひとも経験しとくべきよね!!魔女的に!?ね!?」

「人が食べてるものをオークの鼻水とか言わないで」

「ちょっとだけ、ちょっとだけなら……、試してみようかな?」

「そう、じゃあはい」

私は少し残ったナットウをドンブリごと渡す。

「うー、変な匂いー。いや、いけるいける。がんばれ私、目指せボインでイエーイ」

なにやらぶつぶつと呟いていたが、ついに覚悟を決めたのか、ナットウを口に運んだ。

「んっ、んむっ、ううう」

目をぎゅっとつむり、苦虫を噛み締めるかのように咀嚼する。

「うにゅ、むにゅにゅ、んん」

しばらく口の中のナットウと格闘していたが、ついに、

「だめー、やっぱりむりー、タコガエルみたいな食感がするー」

食べたことあるのか、タコガエル。

「はい、お茶」

私が差し出した玄米茶を一息に飲み干す。

「だめだー、魔女的にもむりー。変な匂いだしにゅるにゅるするしにちゃにちゃするー」

「ふーん、そう。美味しいのになぁ、ナットウ」

私は半泣きのビーチェを横目におかわりをするべく炊飯器へと向かうのだった。

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