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受験知識で異世界を救ってみた。  作者: 日なた日かげ
第一解答科目〜接触〜
2/9

異世界に飛ばされてみた。

 体が宙に浮いている。

 全身に走る衝撃を、ぼくの脳はまだ痛みとして知覚できていない。

 もしかしたら知覚はしているが、受容が間に合っていないのかもしれない。

 はたまたこれはアドレナリン効果なのだろうか。

 たしかアドレナリンで痛みとかも麻痺するって聞いたことあるけど、あんまり詳しくは知らないや。

 副腎髄質から分泌されるアドレナリンは、血糖量を増加するだけでなく、拍動も促進するんだっけ?

 これが『事故の瞬間がスローモーションに見える』現象のタネなのかな?

 拍動が速いと世界がゆっくりに見えるらしいからな。

 でもホルモンの受容ってそんなに早くできたかな。


「(あぁ、こんな時でさえ勉強のことを考えちゃうのか僕は。こんなことになるんだったら勉強なんてしないで遊び呆けておけばよかったな。)」


 薄れゆく意識の中、僕は死を確信した。

 僕はたった今、トラックに轢かれましたーーー



 僕は本日、日本最難関の大学【日本東都大学】に首席で合格した。

 一日十六時間勉強した甲斐があったというものだ。

 これで僕の人生街道は明るく楽しいバラの道となるに違いない!

 辛い毎日だったが、終わってみればあの担任にも感謝すべきだな。

 そもそも僕が東都大学を受験しようと思い立ったのもあの人のおかげだ。


「頭が良くて金持ちでいい仕事についてる人はモテるぞ!」


 当時頭の良さが中の中だった頃の僕を奮い立たせた恩師の言葉だ。

 高校に入れば自然と彼女もできて、なぜかわからないけどモテるいわゆるモテキが来て、着々と大人の階段を上ることができると思っていた。

 しかし高校入学から半年間。

 青春からの音沙汰は一切ありませんでした。

 音信不通でした。

 あの時ほどうら若き少年たちの期待を過度に煽る世の中を恨んだことはない!

 モテキなんて来ないじゃないか!

 非情な現実に絶望したそんな時、担任からあの言葉をかけられて、僕は死ぬ気で勉強に励んだんだ。

 今思えば相当安直な考えだったと思う。

 いやしかし、女の子にモテるためならいかなる手段も厭わない覚悟だった。

 格好良く言ってはみたが、つまり『高校生活の青春に大きな期待を寄せすぎてたこじらせちゃった系男子』だったわけだ。

 ガリ勉になりすぎて、クラスの女子どころか高校全体の女子からドン引きされて、一時は『これ、元も子もなくね?』と沈んだ時期もあったが、今勝ち組になってからは全てがいい思い出だよ。

 いやぶっちゃけ本当に元も子もなかったんだけどね。

 とにかく僕はそのくらいモテたかった。

 女の子ときゃっきゃうふふしたかった。

 彼女も欲しかったし、ラッキースケベも体験したかったしかし、夢にまで見た『ハーレム』も体験してみたかった。


 そして今日、やっとその偉大なる目標への一歩を踏み出した。

 はずなんだけれど、どうやらその一歩目が既に踏み外していたみたいだね。

 主席全教科満点の合格通知を見て、気持ちが極限まで高ぶったせいで、東都大学の合否発表掲示板から飛び出した。

 そのせいでトラックにはねられてあっけなく死にました。

 あ、今思えば合格通知見た時点で興奮してたから、この時点からアドレナリン効果があったのかもしれないな。

 いやいやそれにしても、何とも微妙な人生でしたよ。

 まさかこんなところで朽ち果てるなんてな。

 せめて死ぬ前に一度、都市伝説とも言われたあの女性にのみ発達が許された双丘『おっぱい』なるものを触ってみたかったものだ。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ。死にたくねええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「ならばその願い、叶えてしんぜよう。」


 トラックに轢かれ、ブラックアウトしたはずの視界の中に、金髪のグラマラスなボディが魅力的な、羽が生えていて頭に光る輪っかを乗せたお姉さんが現れた。


「あ、ええと、安産型ですね。」


「え?あの、私の話聞いてましたか?」


「え?話?あぁ、なぜ女性のみの胸が発達するのかについての話し合いでしたっけ?」


 これはホルモンバランスによるものではないかと推測します。


「ちがいます。あなたは死んだんですよ?わかってます?」


「おっぱい大きいな。(一応はわかってます)」


「台詞と心の声が逆になってますよ!じゃなくてですね、あなた、突然ですが人生をやり直したいとは思いませんか?」


「いえ、ここであなたのお腹の上に備えられている双丘を触らせていただけるなら、このまま死を待つだけだとしても、我が人生に一片の悔いもありません。」


「触らせません。もういいです、とりあえず聞いてください。あなたの事情はすべてすっ飛ばしますが、今、ある世界の人類がピンチを迎えております。それをあなたが救ってあげてください。わかりましたね?かなり簡潔に言いましたけど…。」


「すみません。話の流れが全く理解できないのですが…。

 話がいきなりすぎませんかね。急展開すぎませんかね。僕割と物事理屈で考えちゃうタチなんで、そういうの信じられないんですけど。これって幻覚ですか?」


「もう!何でわかんないかなぁ。幻覚じゃないから!つまり!とにかく!今からあなたを異世界に送り込むので、そこでの人類のピンチをチャチャっと救ってきてください!」


「軽いなぁ、この女の人。僕の幻覚にしてはキャラ設定がガバガバだな。」


 理系は理屈で考えるからこんな理由もない理不尽は、僕の作り出した妄想ではありえないはずなんだけどな。


「もういいです。とにかく救ってあげてくださいね。」


 めっちゃ怒ってるよこの人。


「え、ちょっと待ってよ。信じる、信じるから。でも、何で僕がそんなことしなきゃいけないんだよ。意味がわからないよ。僕に何のメリットもないし、そんなめんどくさそうな仕事を押し付けられるくらいなら、このまま死んd


「仮に救えたのなら、お望み通り、おっぱいハーレムを進呈しましょう。」


「その依頼、謹んでお受けいたしましょう、レディ。」


「よろしい、では行ってらっしゃい!」


「あ、最後に一ついいですか?」


「何でしょう?」


「おっぱいをさわ…ぶへっ」


 突然綺麗なお姉さんに殴られた。

 痛いし気持ちよくはないから、きっと僕にはそういう趣味はないのだろう。

 暗い世界にポツリと存在した美女が無慈悲に僕を殴りつけると、再び意識が遠のいていく。

 これから行くのが異世界でも天国でも地獄でも、さっきのあの人の胸を触っとくべきだったな。

 いちいち断りを入れたのが失敗だったか。

 薄れゆく意識の中、下劣な後悔が頭を渦巻いたーーー



「ん、ぬあぁ。」


 よくわからない声を上げてしまって、慌てて起き上がり周りを見渡したが、どうやら誰もいないらしい。

 それよりも目に映り込んだ景色に驚愕した。

 白い砂浜に波打つ綺麗な海、反対には欝蒼と茂る深林。

 耳をすませば、波の音に紛れて、動物園で聞いたことがあるような甲高い鳥のような鳴き声が聞こえてくる。


「え?まじでここどこ?本当に異世界か?」


 いや、冷静に考えよう。

 まず太陽があってここに海があるってことは地球っぽいな。

 さらにこの暑さ、35度は軽くあるのではなかろうか。

 加えてこの湿気だ、どこかの熱帯地方だろう。


「とりあえず落ち着くために顔でも洗うか。」


 海の水を手にすくい、顔にかけた。


「しょっぱ!いやいや、これは海の塩分濃度を軽く超えてるでしょ!むしろこれ辛いわ!」


 明らかに高い塩分濃度だ。

 たしか世界で一番塩分濃度の高い海は紅海だったか?

 あれ、ペルシャ湾だっけ?

 まぁどちらでもいいが、おそらくこの海の塩分濃度はそれを凌駕しているに違いない。

 離れたところの岩場に目をやると岩の表面は真っ白だった。


「岩塩か?いや、塩でコーティングされているのか!ということは相当な塩分濃度だぞ。うわ、小さな石まで塩でコーティングされているのかよ。てかこの砂浜も半分以上がしおの結晶か?」


 地球の海の濃度は常にある程度一定に保たれているため、このような劇的変化は起こりえないはずだ。

 さらに小さな小石などは流動的に動くために、他の石とぶつかり合うため、塩のコーティングはされづらいはずだ。


「たしかうまい具合に水分とミネラル系が循環しているんだっけか。それで世界の海の塩分濃度は一定に保たれているはずだよな…。」


 この気温と湿度からすると、ここが紅海やペルシャ湾じゃないことくらいはわかる。


「ここは一体どこなんだ?」


 中途半端に詰め込んである大学受験程度の知識が、余計に考えをややこしくしている。


 ザッパーン


 少し離れた海で何かが跳ねた。

 いやいや、待てよ。

 さすがに今のは信じられないぞ…。

 海面を跳ねたのは約10メートルを軽く越しているサメだった。

 今の時代のサメなんてせいぜい5.6メートルのはずだ。

 10メートル級のサメなんて古代生物の『メガロドン』くらいじゃないか?


「まじでここはどこなんだよ…。」


 目の前には異常に塩分濃度の濃い海。

 背後には鬱蒼と茂る密林。

 垣間見えた巨大生物。

 僕はどうやら地球っぽい地球じゃないところに飛ばされたらしい。


 ゴンッ


 後頭部に走る衝撃。

 テレビでは気を失うシーンだが、実際は後頭部を打ち付けると気を失うよりももっと深刻な被害が出るか、もしくはたんこぶができるかなのである。

 一番手っ取り早いのは顎を殴ることだぞ!

 そのくらい勉強しとけよ!

 続けて口元を何かで抑えられた。

 異臭に気付いた時には意識を手放す寸前だった。


 そんな最中、僕は背中に当たる柔らかな感触に高揚し、かすかに香る甘い香りに心ときめかせていた。


「あれ?もしかしてもうすでに僕は世界を救ってた?それゆえのこの感触なのか?あの女神さんも約束守ってくれたのか!」


 パニック障害かな、全てが都合良くしか考えられないや。

 こういうの合理化っていうんだっけ?

 現代社会の授業でやった気がするな。


 とにかく、どうやら本格的に厄介ごとに巻き込まれたらしい。

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