ACT1ー0 プロローグ
ACT1-0 プロローグ
十年前
とある少年の話をしよう。
少年は突如現れたそれにより体以外のすべてを失った。
少年の目に映るは無限の朱色。
突如現れたそれによって空高く燃え上がる炎。
かつて住宅街だったものは瓦礫の山となり瓦礫の色さえ炎によって赤く揺らめいていた。
そして突如現れたそれによる地獄によって死んでいった人々の朱い鮮血。
少年は地獄を彷徨い続けた。
誰もが少年に向かって助けを求めて手を伸ばしたが、少年はその手を取らなかった。
五歳だった少年は理解していた。
この朱い地獄に助かる命は一つとして無いのだと。
どれだけの間、この地獄を歩いていただろう。
空から降ってきた冷たい雫に少年は空を見上げた。
空から無数の雫が降ってきて、少年はその雫の正体に気付いた。
雨だ。
少年は瓦礫の山に力尽き、倒れ込んだ。
少年は空を見上げた。
雨が降ればこの朱い地獄ももうじき消え去る。
もし、自分のようにまだ生きている人がいるなら、助かるのだろう。
自分はここまでだ。と少年は自分の人生の終わりが近いことを悟っていた。
少年は空に向けて手を伸ばした。
救いを求めたわけじゃない。
ただ空が広いなぁ。とそう思っただけ。
伸ばした手も重くなり、地に落ちた。
ハズだった。
地に落ちる筈の手は、大きな手に包まれていた。
少年の手を握るのは、一人の男。
黒いロングコートを羽織り、髭が少し目立っている。
少年は目を見開いた。
その男は、少年が生きていることをまるで我が子のように涙を流して喜び、そして『ありがとう』と何度も繰り返していた。
『君一人だけでも生きていることで、僕は救われる』と言って男は少年を抱きしめた。
少年の目には涙が溢れた。
救われたことも理由に入るが、
〝その男の顔がとても幸せそうに見えて、酷く憧れた〟 のだった。
少年はこの日、すべてを失い、そして一つだけ得たものができたのだった。