千歳くんの余生日記
ささっと、読めます。
4月16日 雨
今日から日記を付けようと思う。
でも、飽きやすい僕が書けるか不安。たぶん毎日は無理だから出来るだけ頑張ろうかな。
4月17日 雨
日記を付けるとしても、何を書けば良いのかわからない。うーん…、とりあえず今日は雨だったから大人しくしてた。
4月20日 くもり
今日も変わらない。記念に日記を書いてるけど、これって、書く意味あるのかな…?
5月2日 晴れ
毎日がつまらない。何も変わらない、何もやることがない。こうやって時間が流れていくのが、少し、辛い。
5月10日 くもり
体調が少し悪くなった。
明日病院に行かないと…
5月18日 晴れ
今日、帰り道に猫を拾った。
じっと、僕を見ていたから「おいで」と声をかけたら近寄ってきて懐かれたらしい。
名前は"タマ"
5月23日 晴れ
今日は、仕事を辞めてきた。お世話になった人達に挨拶したら元気でやれよ。だって、嫌になっちゃうよ。
5月29日 晴れ
タマはお風呂が苦手。湯船に浸からせた時は本気で引っ掻かれた。…痛かった。タマは洗ったらとても綺麗な黒だった、撫で心地も良い。けど、構いすぎるとすごく嫌がられる。
6月1日 くもり
今日は、タマが生活するために必要な物を買いに行った。こんなにもお金がかかるとは思わなかった、けどまぁ、別に構わない。タマが凄く喜んでいたし。
6月30日 晴れ
前の記録からだいぶ空けてしまった。今日は隣のおばあさんからお萩を貰った。とっても美味しかった。
7月8日 晴れ
タマはよく夜中に寂しそうにしている、一度だけ一緒に寝ようとベッドに入れたらあれ以来一緒に寝るのが当たり前になってしまった。タマは寝相が悪いからよくベッドから転げ落ちる。
7月18日 雨
体調を崩した。薬が1つ増えてしまった。もう、めんどくさい。タマが心配そうに見てきた、大丈夫だよ。
7月20日 晴れ
最近、タマが隣のおばあさんに懐いたらしい。おばあさんによく声を掛けられるようになった。
7月25日 くもり
最近タマがへばってる。ソファの上で四六時中うだうだしてる。涼しい場所を求めてうろうろしてるけど、なんかどこも気にくわない見たい。見てて面白い。
8月6日 晴れ
今日は近くで花火大会があるらしい、僕は人混みがダメだから今年はタマと二人でベランダから花火を見た。
タマはビックリしてたけど途中で花火に夢中だった。
8月15日 くもり
タマと一緒に山へドライブに行った。
やっぱ山は空気が美味しい。タマも少しうきうきしていた。川で少し水遊びしたけど、タマはすぐに日陰に入っちゃった。
9月12日 晴れ
また体調を崩した、そろそろヤバイかもしれない。タマと出会って春、夏、ときた。時間はあと少しらしい。この日記を付けるのも辛くなってきた。
10月22日 くもり
前の記録から一ヶ月も空けてしまった。体調が悪化したらしく、空気が綺麗な所へ引っ越す事が決まった。
11月1日 晴れ
一週間後ここを引っ越す。でも、タマを本当に連れていくべきか悩んでる。僕はもう長くない、一緒に行ってもきっとタマの世話は満足に出来ない。
11月5日 晴れ
隣のおばあさんに引っ越す事を話したら、タマの話になった。その時、僕はおばあさんにタマの事をお願い出来ないか話してみた。おばあさんは快く返事を返してくれた。けど、心配された。ほんとは、ほんとは、不安だけど、タマが笑って過ごしてることを考えたら自分の不安なんて関係ない。
11月7日 雨
最近は少しだけ体調も良くてよかった。今日でタマとはさよならだ。タマにはばれないようにいつも通りに笑って過ごせたかな。
11月8日 晴れ
寝てるタマを起こさないように静かに家を出た。タマ、ごめんね。だけど、タマの事を考えたらこれが一番だと思ったんだ。
11月15日 くもり
体調が悪化した。タマと別れて一週間経った、元気にしてるかな。
12月4日 雨
入院した。先生が言うにはもう一・ニ週間らしい。
12月12日 晴れ
さっき、診察にきた先生が今日がやまかもしれないって行ってきた。直球で言われて驚いたけど、なぜか笑って聞けた。きっと、タマと出会った数ヵ月のお陰だろうな。
僕は今、この数ヵ月間を思い出してる。
タマ、僕は君に出会うまでこの余生をどう生きればいいのか、本当にわからなくて、辛かったんだ。
けどね、君と出会えて本当に良かった。毎日が輝いてみえたよ。ごめんね。最後君に何も言わず出ていってしまった。君は許すわけないか、いつもは素っ気なかったけど本当は寂しがり屋な君が一人で泣いてないか心配だ。こんなこと僕が言えることじゃないのにね。ごめんねタマ、本当にごめん。
…あぁ、なんか可笑しいね、これは日記なのに―――…
―――ガタンッ
扉の方から音がした。千歳は左手に持っていたペンを置き、日記を閉じた。
「…見つ、けた。」
隣に気配を感じた瞬間、少し息の上がった声がかかり千歳は、ゆっくりと視線を上へ上げて目が、合った。
「…やぁ、タマ。見つかっちゃったね」
―――タマという"少女"に。
「なんで、…居なくなった。」
少女、いやタマは二度と離さないと言わんばかりに千歳の手をぎゅっと握りながら千歳に問い詰めた。
「そんな、泣きそうな顔しないでよ。」
「な!…泣いてない!」
そうは言ったものの、タマの目には涙が溜まり、泣いてない!泣いてない!と言いつつ袖でごしごしと涙を拭いていた。そんなタマの姿を見て千歳は罪悪感を覚えた。
「うん、ごめんね。」
「!!だから謝んなく「もう、時間がないんだ…」
タマは伏せていた顔をあげると千歳は、困ったような、どうしようもないと言い聞かせるような顔をしていた。
「今夜が…」
「もう、いい、それ以上は…、言わないで。」
悲痛なタマの思いが届いたのか、千歳はそれ以上口を開かなかった。
しばらく二人は黙ってしまい時間が流れたが、嫌な沈黙ではなかった。少しの間離れていた分二人は、お互いの存在を確認しているようにみえた。
「そういえば、タマと出会ったときもこんな天気だったね。」
数ヵ月前の事を千歳は、もう何年も前の話のように思った。
「あの時は、千歳に出会えて本当に良かった。…ありがとう。」
「やだなぁ、タマ顔を上げてよ。僕だって君には本当に感謝しているんだ」
そういうと、千歳はにこにこと微笑みながらタマを見た。
また、タマの目に涙が溜まってくる。
「タマ、今まで楽しい時間をありがとう。」
タマの涙が、零れた。
「う、うっ、千歳ぇえええぇぇえー!!」
悔しい、悔しい。ようやく千歳の居場所を見つけ出したのに、こんなにもすぐに別れがくるなんて。千歳に"ありがとう"と言われて、千歳との別れを実感し、たった数ヵ月、されど数ヵ月ずっと一緒にいた日々を思い出したら涙が止まらなかった。
「タマ、落ち着いた?」
「…うん。」
ぐすっといまだ、鼻水をすっているが、ぽんぽんとリズムよく背中を叩かれタマは先程より少し落ち着きを見せた。ふと千歳が窓の外を見てみると、外は暗くなり月が淡い光を放っていた。―――もう、さよならかな。
「タマ、僕少し疲れたから横になっていいかな?」
「!!…あ、うん、ごめん」
そう言われてタマは少し千歳の顔色が悪いのに気付きわたわたしながら千歳が横になるのを手伝った。
「ほら、タマ外見て雪だ」
「ん…綺麗。」
二人で窓から見えた今年の初雪を眺めていた。―――この時間が、永遠に続けばいいのに。そう思っていても、時間は止まることを知らず、刻々と時は進んでいく。
「…ねぇ、タマ。僕はそろそろ眠ろうと思うんだ。」
「……最期に、」
「ん?」
「…最期に、ちゃんと名前呼んで。」
驚いた。まさか最期に名前を呼んでと言われるなんて思わなかった。あれほど呼ばないでと言っていたのに。一瞬驚きを見せた千歳は、すぐに、ふっと笑みを浮かべた。
「"珠"」
―――――でもねタマ。最後に一言だけ言わせて。
"幸せになれよ。"
誤字・脱字等があったらお願いします。