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GoldenRing  作者: たろう
2/5

幼なじみ

「終わった・・・」

教室の隅で一人つぶやいた。

遥と康貴は少し離れたところで心配そうな目でこっちを見ながら何か話している。

全校集会が終わった後の教室。

後は終礼を残すのみ、という気楽さからか、教室はいつもにも増してにぎやかだった。

「さっきの安達の怒られ方面白かったな」

なんて話す声も聞こえてくる。

でももはや怒る気力もない。

彼女と接点を持ちたいとは思ったけど、いくらなんでもこんな形でなんて・・・。

これなら接点なんかない方がよかったかもしれない。

終礼が終わり、人波に流されるように外に出る。

心地よいはずの春の風なのに、夏の蒸し暑い風よりも不快に感じる。

僕は帰り道を急いだ。

実は20メートルほど後ろに遥と康貴が僕に話しかけるタイミングを図りながら、金魚のフンみたいにくっついてきてるのだ。

今のところは一人にしてほしいのに。

僕は黙々と歩き続けた。

しばらく歩くと大きな県道に差し掛かる。

ここで、康貴は僕たちとは逆方向に行かなくてはいけなくなる。康貴は

「頼んだよ」

と遥に言って別れていった。

ところが遥は僕に話しかけもせず、また金魚のフンになった。

僕の家の隣が遥の家なんだからそうなるのは当然だったが。

結局最後まで話しかけることはなく、家にたどりついた。

しかし、玄関を開けても人の気配がしなかった。

テーブルの上を見ると、『五十嵐さんと買い物に行ってきます』という書き置きがあった。

どうせ買い物とかいいつつ映画なんかに行ってんだろうなと思ったが、怒りの感情は湧いてこなかった。

むしろ一人になったことで、また虚しさが襲ってきた。

雨の音で目が覚めた。

いつのまにか寝てしまっていたらしい。

けっこう強く降っている。

時計を見るとさっきから10分しか経っていないことが分かった。

どうせならもっと深い眠りにつきたかった。

向かいの家が洗濯物を取り込む音がした。

そういえば、母さんはちゃんと洗濯物は取り込んだのかな。

いや、母さんはいないんだった。

ってことは出しっぱなしじゃないか!僕は急いでベランダに出たが、もはや洗濯物は手遅れだった。

こうなったら、取り込んでもしょうがないし、放っておくか、と思って部屋に入ろうとした時だった。

視界の端に、小さくなって震えてる遥が映った。

まさかそんなはずはない、ただの見間違いだ……とは思えず、確認してみると、やっぱり遥が雨の中、膝をかかえて家の壁にもたれかかって震えているのが見えた。

「おい、遥!何やってんだよ、そんなとこで」

僕はさっきまでのことは忘れて叫んだ。

遥は顔を上げて何かをしゃべったが、声が小さすぎるのと雨が激しいすぎるので聞き取れない。

しかたなく、傘をさして遥の家を訪ね、わけを聞いた。

「どうしたんだよ、こんなとこで」


「家に誰もいないみたいなの」

遥にいつもの元気はなかった。

「ああ、それなら、うちの親と出かけたみたいだぜ。鍵ないならうちに来ればよかったのに」

遥を立ち上がらせながら言った。

「そんなことできないよ。悪いことしちゃったし」


「まあ、ひとまずうちに来るのが先だな」

そういってうちに帰ると今度は電話が鳴りだした。

取ると母さんからだった。

『もし・・・柊?今・・・・場なんだけ・・・天気悪・・・・電車・・・・・・・泊ま・・・・・・』

「何?聞こえないよ。おーい!」

『・・・・嵐・・電車・・ないから泊ま・・・・』切れた。

「どうしたの?」

遥が不安そうに聞いてきた。

「全然聞こえなかったんだけど、推測するに、嵐で電車が動かないからホテルかなんかに泊まってくって感じかな」


「じゃ、今日はうちには入れないってことじゃん!」


「そうなるな。どうする?泊まってくか?」


「………そうする」

少し迷ってから答えた。

「でも柊、変なことしたらただじゃすまないからな!……何よ?」

「いや、やっといつもの遥らしくなったなと思ってさ。ところで、夕飯どうするか。コンビニでいいか」


「料理なら私に任せなさいって。宿代の代わりってことで」

遥の料理は意外とうまかった。

そういえば遥の手料理なんて食べたことなかったな、と気付いた。

「何よその意外と美味しくてびっくりしたような顔は」


「だって実際そうなんだから仕方ないだろ」


「失礼な。これでも乙女だぞ」

僕はあやうく飲みかけのコーヒーを吹き出すところだった。

まったく、何が乙女だ。

昔から男顔負けの気の強さと口の悪さで、同級生の女子からはジャイ子なんて呼ばれてたのはどこのどいつだ。

と喉まで出かかったセリフをコーヒーで流し込んだ。

そういえばこいつのことを女として考えたのは久しぶりだった。

いつ以来だろう。

小5の時に誕生日プレゼントをあげて以来だろうか。

その年のお年玉をはたいて指輪を買ってやったら、すごい喜んで2ヶ月ぐらいずっとはめてたっけ。

確か、の女子にからかわれて着けてこなくなるまではものすごい大切にしてたと思う。

遥も覚えてるかな。

・・・そんなわけないか。

そもそもそういうのを覚えてるやつじゃないし、小学生の頃の安物の指輪なんてもう入らないだろうし。

「どうしたの?なんか遠くの方に行っちゃって」

遥の声で現実に引き戻された。遥の顔を見つめる。こうしてよく見てみると・・・

「何?顔になんかついてる?あ、もしかしてかわいいとか思った?」


「バカ。……痛っ!」

間髪をいれずに鉄拳が飛んできた。

やっぱり色気なんてあったもんじゃないな。どこの世界にグーで殴る乙女がいるんだ。

「柊、頭おかしくなった?」

知らないうちににやにやしてたらしい。

時間が過ぎるのが早かった。

夕飯の後、2人でトランプをして負けた僕が皿洗いをし、風呂を覗いただの覗いてないだので大騒ぎをし、明日のテストの勉強を一緒にし、僕の部屋のベッドを奪われてしぶしぶ親の布団に入ったときには2時を回っていた。

宮本さんのことを忘れてしまうくらい楽しかった。

やっぱり遥は幼なじみで親友という枠組がいちばんしっくりする。

幼なじみとか親友とかには性別はないんじゃないかと思う。

それは、男か女かという以前に、心のもっと根元からつながっているような気がする。

僕は眠りに落ちながらそんなことを思った。

翌朝、遥の作ってくれた朝飯を食べ、2人で学校に向かうと途中で康貴に会った。

康貴は一晩で僕が立ち直ったことに疑問をかくせないといったようすで、僕と遥が話しかけてもあいまいな答えしかかえってこなかった。

その日は一日中テストだけの日で、午前中で学校は終わった。

帰り道、僕はファミレスである考えを2人に打ち明けた。

「俺さ、明日宮本さんにコクってみようかと思うんだ」

2人の反応は面白いものだった。康貴は

「冗談だろ?」

の連発で人の話をろくに聞こうとしないし、遥は僕が言った意味をつかめず、頭の上に?マークを並べたような顔をしていた。

「だから、昨日の全校集会で顔はいやでも覚えられたはずだし、話してみればマイナスイメージも消えるんじゃないかな。コクるっていうよりは話をして俺のことを知ってもらうって感じ」


「そ、そんな、なんで急に?」


「そうよ、昨日はあんなに落ち込んでたのに」


「まあなんていうか、気分だな。やってみなきゃ分かんないっていうか。失敗したって俺には、」

遥と康貴がいるからすぐに立ち直れるだろうしね。と言うのは恥ずかくてできなかった。

「とにかく、明日屋上に呼び出してやってみるよ」


「そこまで言うなら協力するしかないな」


「うん!」

今日のテストの出来をわいわい言いながら帰る生徒を、屋上のフェンス越しに見下ろしている。

自分がこれからやろうとすることの緊迫感と今見ている景色ののどかさとのギャップがもう一人の自分を作りだし、今からでもやめられるぞ、とか、ぜったいいい結果になりゃしないって、とか頭の中でささやいている。

でもそれが返って僕の決心を固いものへとしてゆく。

宮本さんはまだ来ていない。

遥がうまくやってくれるはずなのに、約束の1時はとっくに過ぎてしまっている。

まったく、いつもここぞという時にヘマするんだから嫌になっちゃうよ。

遠足の時は弁当忘れるわ、修学旅行では京都行きの切符はなくすわ、小さい頃から数えたらきりがない。

そのたびにこっちは弁当半分分けてやったり、駅員の前でわけを説明しなくちゃいけないのに、あいつはその苦労を分かってるんだろうか。

宮本さんが現れたのは予定から30分遅れだった。

おかげで遥の失敗談を思い出しすぎて、練りに練ったセリフをすっかり忘れてしまっていた。

しかも、なんと相手の方から話を始めたもんだから、僕は完全に相手のペースに巻き込まれてしまっていた。

「君、安達くんでしょ?」




「え、あ、はい」




「どうして知ってるのって思ったでしょ?実はね、あなたの国語の先生、宮本っていうでしょ。あれ、私の父なの」



確かに宮本先生はいる。


でもその可能性を考えたことはなかった。


いくら苗字が同じでも、彼女の美しさと、宮本先生の伸び放題の無精ヒゲとお世辞にもスマートとはいえない突き出た腹をつなげて考えることはできなかった。


「父が安達くんはすごい文章を書くって誉めてたの。粗削りの鉄鉱石みたいだって」

なんだそれ。磨かれてもしょせん鉄ってことか。

「それで何の用?」


「えーっと、だから、その、キレイな人だなーって思って・・・、ちょっと話ができたらいいなっていうか、なんていうか」


「要は付き合いたいってことかな?」


「ん、まあそういうことです」


「いいよ」


「へっ?」

あまりに簡単にいきすぎてひょうしぬけした。

「ただしもっとお互いを知ってからね。じゃないと後々後悔するから」

そういって彼女は携帯の番号とアドレスを僕に教えると、

「じゃ私は練習で忙しいから」

といって帰ってしまった。

僕がしばらく立ち尽くしていると、遥と康貴がかけよってきた。

「やったじゃん柊。」


「なんだ、お前ら見てたのか」


「じゃ、今日は告白成功祝いだね。」

遥が提案すると、

「もちろん柊のオゴリだよな」

と康貴まで言い出した。

僕もなんだか嬉しくて気が動転していたので、ついついその提案を受け入れてしまうのだった。

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