クラブXにて 3
「無理だって。諦めろよ? 俺はどっちでもいいけど、その気になってくれた方がお互い気持ちいい・・」
「い・や!!!!」
ありったけの力を込めて叫んだ!絶対嫌だ。死んでも嫌だ。
力を使いすぎたのか、身体のバランスが崩れた。
後ろのめりに倒れそうになって――――
「深雪!!」
力強い腕に支えられる。
その声に、折れそうだった心の芯に力が戻った。
扉が開いたため、身体が傾いたのだ。
暖かい、暖かい胸。安心して体を預けられるうで。
これは紛れもなく
「かずきくん・・?」
和貴のものだ。
涙が・・やっと流れ落ちた。
ぐったりと、力ない体を彼はしっかり抱きとめてくれる。
「浜崎、どうやって・・!!」
悪役よろしく、杉原が和貴を睨みつけた。
どうやってかは、すぐに判明した。
ドア付近には不動校のブレザーを身につけた青少年達が無残な姿で転がっていた。
念のために数人見張りにおいていたのだが、防音性能の高さがかえって仇となり状況の把握ができなかったようだ。
「和貴く・・」
「ごめん深雪。・・ちょっと待って。」
ブリーチのかかったサラサラの髪を揺らし、たった今まで格闘シーンがあったことをまったく思わせない美しい姿のままで、彼女をそっとソファーに座らせた。
うつむいていて表情は見えないが、後姿には言葉の優しさと裏腹に怒りのオーラがにじみ出ている。
「折角来てもらって悪いが、結局女は俺のものになるんだぜ! 女は強い男に惚れるって相場が決まってんだよ!」
当初の目的をすっかり失念している阿呆の言葉に深雪はとんでもない! と首を振りたかったが、すっかり力が抜けてしまいほとんどかしげただけで終わってしまう。
ああ、困った弱虫だわ、と自分に克をいれ目を離した一瞬で。
ごきっ
本当に文字通りの鈍い音がして、杉原はフロアーの中央まで飛ばされていた。
足と足が絡まって、頭の上でクロスしているというとんでもない姿をダンスフロアーに飾り、そのまま微動だにしない。
わかってはいたが先ほどの彼の大口は本当に一体なんだったのだろう。
瞬く間の出来事に唖然としていると、何事もなかったかのように和貴は彼女を抱きあげ
「いこう。」
二人は空間を後にした。
和貴にとってあの一撃は、何事でもなかったのだ。