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with  作者: 絹ヶ谷明頼
放課後 編
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放課後に 3


二人は教室内でもたもたしていたため、昨日と同じく校内からは人の気配が消え閑散としていた。

その為友香の張りのある声が無機質なコンクリの壁に余計に響いてしまう気がした。

「誰も聞いちゃいないわよ。ていうか、つなぎたいなぁ、とか思わなかったの?」

とんでもない!とばかりに深雪はものすごい勢いで首を左右に振る。

「別にいいんだけどさ。・・それよりもほとんど話せなかったんでしょ?変わってるわねえ。」

「ねえ・・。」

思い出してもまだ気恥かしくなってくる。本当になんでだろう。

今まで街見かけたカップル達は必ずしも手をつないでいたわけではないが、あんな風にふたりうつむいて歩いたりしていなかった。喧嘩をしてむっつりしていたとかいうのとも事情が違う。

どうしてみんな、そんなに自然にしていられるのだろう?

「う~ん・・、あ、慣れじゃない?二人とも初対面に近いし。」

「そうかなあ。だといいんだけど・・」

「あっ深雪お迎えよ。」

友香が入口を指さしたのでそちらへ目をやる。

「ちょっとぉ!友香ちゃんふざけないでよ!」

口ぶりから察するにてっきり和貴だと思ったら、立っていたのは似ても似つかない体型に、顔立ちに、雰囲気に・・。ともかく一目で違う人物なのがわかる。

おどけてみせる友香にわざとらしくふくれてみせると、彼女の表情に驚きが走ったのがわかる。

「やだ、冗談だって・・」

「おい。」

「きゃ・・!」

(なに・・っ!?)

聞き覚えのない太い声と同時に、身体が宙に浮く。

「深雪!」

「植田深雪だな?」

フルネームで呼ばれる瞬間にやっと、自分が誰かの肩に担ぎ上げられたことが理解できた。

「やだ、降ろして・・!!」

手足をばたつかせ、なんとか脱出を試みようとするが、男の腕はますます強く身体を締め付けるばかりで拘束は少しも緩まない。

ちらと眼に入った制服はここの高校のものではないが、よその学校でこんな真似をしていったい何のつもりだろう。

「待ちなさいよ!何のつもり!?」

友香は勇敢にも得体のしれない大男に手をかけ深雪をひっぱり降ろそうとするが、片腕でたやすく弾き飛ばされてしまう。

「いたっ」

「友香ちゃん!?」

「浜崎に伝えろよ。女返して欲しかったら不動校そばのエックスってクラブに来いってな。」

「待って!誰か――― 」

床に打ちつけた腰の痛みをこらえながらすがりつこうとするが間に合わない。


「放してよー!」

深雪を抱えたまま男は駆け出した。深雪の叫声が小さくなっているのが二人の移動距離を示していた。







 男は人一人抱えているにも関わらず、まるで一人でいるのと変わらない驚異的なスピードで走った。

始めのうちは体をよじったりありったけの力で男の体を叩いたりしていたが、びくともしないし徐々にそれどころではなくなってくる。

男が彼女の身体を肩に担いだものだから、丁度腹が肩の関節に当たり、揺れるたびみぞおちが圧迫され思うように呼吸が出来ない。


「やだっ・・放して!嫌・・」

やっと言葉を絞り出したが、それ以上は声にならない。

どこへ連れて行くのかも、なんの目的なのかもわからない。

先ほどなんとかと店の名前らしきものを口にしていたのだが、その時深雪は冷静ではなかったし、第一それらしき名前の店は記憶にない。

ただわかっているのは、和貴を誘い出すため自分がさらわれているのだということ。

 

 肉体の苦しみもピークに近づくと神経が自らを鈍らせていくのだろうか。

徐々に振動も、痛みも、身体のどちらが上下なのかもわからなくなってくる。

また私は「人質」になってしまうんだと、深雪は朦朧としてくる意識の中でぼんやりと考えていた。








 夢を見ているようだった。

寝ていたわけではないような気もするが、視界全体が靄がかっていてモノクロだったから、きっと夢に違いない。

 自分は檻の中にいた。

何をしているのかといえば、ただ格子にしがみついて人を待っているのである。

誰を待っている?

決まってる。浜崎君だ。

自分は彼の敵に閉じ込められている。和貴は何をしても助けに来てくれるだろう。

理由はむろん、深雪を危険から救いたいからだ。

けれど深雪が危険にさらされるのも和貴の為。

 

和貴が来た。

自分は檻の中にいて、周りはいつの間にかガラの悪い連中に囲まれ乱闘が始まる。

ものの数分で片がついたが、和貴は額に傷を負い、衣服はボタンがいくつかとんでいる。

 ―――どうしてこんなことになってしまうのだろう。いつまでこんな事が続くのか。

彼とは平和に過ごせないのだろうか?

暴力の連鎖は――終わらせることが出来ないのか。始まりはどこだったのだろう。


和貴が檻の鍵を開ける。深雪がゆっくり立ち上がったその時―――

和貴の背後に、いつの間にか接近していた男が体当たりをする。

和貴の口から鈍い悲鳴が漏れ前のめりに倒れる。


背後にいた男の手には紅く染まった白銀が光って・・・




 「ぅんっ!」

目を開くと、そこが檻の中でないことがわかった。

天井は遠く、背中が冷たい。体が上手く動かせないが、どうやらさっきの映像は夢で、和貴も刺されていないようだ。

(ああ、よかった・・)


ほっとしたのも束の間、次に今の状況を把握しようと周囲を見渡そうとして、身体の自由が奪われていることに気づいた。

「なにこれ・・」

腕を後ろに取られて、胴と一緒にぐるぐる巻きに縛られ転がされていた。

転がされていた、というのは勿論自分でこんなことをするわけがないので誰かにされたのに違いないからそう推測されるのだが・・


どうやらどこかしらの建物の中のようで、薄暗く窓も見当たらない。

「やっと気づいたか?ヤワなお姫様だな。本当に浜崎の女か?」

 頭上から声が落ちてくる。



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