君と 6
「コノーーー」
何も考えられないまま拓也は突進した。
力任せに体当たりして、そのまま相手を突き倒す。
「ふじわら・・っ?」
予測外の不意打ちと勢いに、和貴は浴室入り口ののれんを突き破り床に転がった。
拓也は勢いのまま馬乗りになり、こぶしを振り上げる。
「お前は、お前っ!!」
突き上げてくる感情を理解できぬまま、拓也はこぶしを振るった。
やれた?やれただって?
そんな風に他人に言うことなのか?
言えてしまえることなのか?
こんなこと、彼女が知ったらどう思うか。
「最低だ!クソ、お前なんか」
振り下ろした2発目は首のひねりでかわされ、続けて3・4発目は右、左とあっという間に手首を取られる。
「離せよ! やっぱりお前は」
「バカ、よせよ冗談だって!」
「冗談じゃない! お前は何もわかってない!」
腕を振りほどこうと力いっぱい振り回したが、髪の毛一本ほども緩まない。
やはり力では勝てないか。
なんとしてでも一矢報いたいのに。こんな男に己を捧げた深雪のためにも。
何が冗談であるものか。冗談じゃ―――
「えっ、冗談?」
そこでやっと我にかえった。
冗談て・・どこから冗談だ。
「どこからも何も、全部。お前があんまり神妙になるから・・」
冗談でも言って場を和ませようと考えたのだが、こんなに怒るとは思わなかった。
「お前・・・。言っていい冗談と悪い冗談があるだろ・・」
「そうか、悪いな。あんま慣れてなくて・・」
まじめ顔で冗談だと抜かす和貴を、不思議な生き物を見るように拓也はまじまじと見つめた。
こいつはこんなきれいな顔して、冗談の一つもまともに言えないのか・・
顔立ちと冗談のセンスに関連性はないが、その朴とつさに親しみさえ感じるのは何故だろう。
「お前って・・・。」
なんと形容していいのか迷ってしまう。
おもしろい奴、変な奴、バカな奴・・いくつか思い浮かんだが、どれもしっくりこない。
ともかく悪人ではなさそうなんだが・・・
「うわーーーーっ、藤原!!?」
「ん?」
「お前何やってんだ! 気でも違ったか!?」
叫んだのは源一郎。B組のクラスメイトだ。
口をあんぐりと開け、驚愕のまなざしでこちらを指差している。