ほんとう 4
すると段々、気持ちが落ち着いてきて、
「私こそ、ごめんなさい。泣いたりして・・。でも和貴君が嫌で泣いたんじゃないの。」
ようやく謝ることができて、ひとまずほっと息をつく。
更に勢いで全部言ってしまおうと、言葉を続けた。
「藤原君が、和貴くんには当たり前のことだって言ったのを聞いて・・、ああ和貴くんは初めてじゃないんだって思ったの。多分それで・・」
改めて口に出すとそのときの感情が蘇る。
過去に恋人がいたかどうか、和貴に直接尋ねたこともなかったがそんなことは考えなくても無意識に想像はついていた。
心のどこかで考えないようにしていたのだ。
そんなこと考えたっていいことがないのは知っている。
けれどその事実を――意識せずとも耳にしたら、どうにもならなくなってしまっていた。
気持ちは伴わないのに涙だけ出て・・
泣いたからってどうなるものでもないのに。
「恥ずかしいよね、そんなことで。本当にごめんなさい。」
「深雪・・・」
胸が熱くなる。
それほどまでに自分を想ってくれていたのかと思うと、今までの経験が悔やまれた。
今までのことをなかったことにできるなら、喜んで投げ出すのに。
「迎えに来てくれてありがとう。」
今度は顔を上げて、きちんと言うことができた。
「和貴君が許してくれるならこれからも一緒にいたい、私」
後一言だ。
今まではすべて和貴に任せきりできてしまったが、今こそ伝えなければ。
「私、和貴君が好きなの。」
意を決して最後の一音まで声を振り絞った。
和貴に気持ちをもらうばかりではいけない、私だって一緒に・・。
「・・うん。俺こそ」
急に、声のトーンが低くなった。
言葉に詰まったかのように見える。
ふと身体を包んでいたぬくもりが遠のいて、手のひらが頬に触れた。
指先がそのまま顎へとすべり、顔を上へと持ち上げる。
「ありがとう。」
かすかな囁きを聞きながら――深雪は瞳を閉じた。
少し遠くに人の声と足音が。
辺りには木の葉のざわめきだけが響いていた。