好き 3
どうしてこんな時に。
・・今日を厄日になんかしたくないのに。
「じゃあさ、送って行くよ! こんな夜道を女の子一人じゃ危ないよ?」
「家どのへん? 地元の子?」
「いえ、地元じゃないので」
「ひょっとして!」
強引に脇から抜けようと試みたが、二歩進んだところで肩に手をかけられ阻まれる。
「修学旅行とか?」
「奇遇だね、俺たちもなんだー」
初対面の人間に対して何と失礼な振るまいか!
杉原といい、これだから最近の若者は常識がないとか言われてしまうのだ。
「放して! ほっといてよ!」
今まで溜まっていたうっぷんが顔をのぞかせ、深雪はいらだちに任せて声を荒げた。
色々あって少し気が強くなったのかもしれない。
手を振り払いまた一歩足を踏み出すと、今度は腕を掴まれる。
「待ってよ!」
こっちはそれどころじゃないのに。こんなのにかかわずらってる暇はないのだ!大
体もう嫌がっているのは十分伝わっただろうに。私みたいなの、これ以上ひきとめてどうするのだ。
「もう、あんまりしつこいと大声出しますよ!」
律儀に警告してやりながら、掴まれた手をぐいぐいと引き剥がす。非常識な相手なら、これくらいしてもおあいこだ。
・・と思ったのに。
「わぁ、なにこの手。ちっちゃいなー」
「ホントだ。俺にも見せてよ」
こちらの気持ちなんか全く気にしてない。ますます二人で近寄ってきて、深雪は更に動揺した。
(うわ、なんで!)
深雪はこういう状況に慣れていないので、ふさわしい対応ができていなかった。そもそもこの手の相手は反応してはいけないのだ。シカトして、立ち去るのが正解だったのに。
「ち、ちょっ・・」
「ほんとちっちゃくて可愛いね。女の子らしくて・・」
「背も小さいし、肩はばも・・」
「それ以上触ったら殺す」
男二人が目を丸くしたのを見て、深雪は自分の口を手で覆った。
つい本音が出てしまったか?
にしても殺すだなんて。
人間いざとならないと本性がわからないというが、自分はそんなに怒っていたのか。
「いや、・・悪かったよ」
「ちょっと悪乗りしちゃってさ」
二人の手が体から離れ、同時に一・二歩後ずさる。
そのおびえた表情に、深雪は内心ほくそ笑んだ。自分の言葉にこんな威力があったなんて。
「そう、・・わかってくれればいいのよ。」
悪い言葉も使ってみるものだと、満足してゆっくりと振り返る。
ともかくここからは移動した方がよかろ・・
「ぶっ」
得意顔もつかの間、顔から何かにぶち当たる。