好き 2
左に曲がり境内に入ると、まだ人がたくさんいる。
どうせ誰も自分なんて気にとめないと知っていたが、隅の暗い木の陰まで行って腰を下ろした。
やはり、何度か反芻してみてわかったのは、『和貴には当たり前のこと』という言葉が一番心に刺さるという事。それを思い知らされるのが一番辛い。
今度はハンカチを取り出して瞳にあてた。
けれど泣いてみても解決法は一つしかない。和貴と話してみる以外に有効な手立てはないだろう。
それなのに藤原と逃げてきてしまったのでは・・。それだけでももう合わせる顔がない。
「どうしよう・・」
「どーしたの?」
ふいに背後から声がかかる。暗闇から抜け出してきた影が二つ。
こんなところで、とつけたしながら影は正面に回り込んでくる。深雪は反射的に立ち上がった。
「なんでも・・、ないです。別に」
最近この手の出来事が多いので、いやな予感は瞬時的にもたらされた。
こんなところで泣くべきではなかったか。泣きっ面に蜂とはまさにこのことだ。
ただ自分は静かに考えたいだけなのに。
「なんでもなくないでしょー。こんなとこでそんな風に泣いてちゃ。俺らでよかったら話聞くよ」
おそるおそる視線をあげると、いかにも軽そうな雰囲気の茶髪に学ランの男が二人。
木が背後にあるため、容易に二人の間を抜けられない。
「いえ、結構ですから・・」
目立たぬようにと選んだ場所ながら、どうしてこんなところへ来てしまったのかと猛烈に後悔する。
観光者たちが帰り道に通るルートからはわずかながら離れていて、そう簡単に人目につきにくい。
生まれてこのかたこんな経験したことなかったが、恐らくこれはナンパされているに違いない。