ふたり
拓也が深雪と出会ったのは、二学年のクラス替えの日であった。
偶然席が隣り合い、偶然に同じ委員会になり、気づいた時には意識的に同じ係を引き受けるようになっていた。
お互いクラスで目立つ存在、とは決して言えなかったが、拓也は彼女の持つ素朴な優しさにひかれていた。
「植田さん、大丈夫?」
傍らでうつむく彼女に声をかける。
こうして並んで歩くことをずっと夢見ていたのに、今は素直に喜べない。
「あ、うん。大丈夫・・」
顔を上げた深雪は、もう泣いていなかった。
涙を人目にさらすのも忍びなかったので、拓也はバス停には寄らず徒歩で駅に向かうルートを選んだ。
駅へは歩いたとしても一五分程度、大した距離ではない。
それに幸い時間は十分にあった。
「あの、ごめんね、なんか・・」
「あやまらないで! だって・・僕、植田さんの気持ちわかるから・・っ」
「え?」
深雪は拓也を見上げて、とまどう。
最近慣れてきていた角度と違ったからだ。
「わかるって・・? 藤原君」
そういえば一体いつから見られていたんだろうと、素朴な疑問が不意に思い浮かぶ。
「あっ、いや、それは僕・・」
一番突かれては困ることを追求されて拓也は動揺した。
君と浜崎を駅からずっと尾けていました。なんて言えるわけがない。
「・・僕、ずっと君が好きだったんだ! だからどうしても見てられなくて・・!」
真実は100パーセント。
しかし問いの答えではない。しかしこの窮地を逃れる言葉が他には思いつかなかった。
そして今この時にこんな発言ほど身勝手なものはないということにも・・彼は気づいていた。
女性の傷心に付け込んで告白するなんて、卑怯の極みだ。
けれど一度口にしてしまった言葉を取り消すことはもうできない。
彼は心の片隅に後ろめたさを感じながらもさらに続けた。
「だから、僕と付き合ってください! 僕ならもっと君を大切にできるから・・」
告白のきっかけはともかく、気持ちは本物だ。
好きだと気付いた時からいつ打ち明けようかと考えていた。
タイミングを逸して告白の機会を失い、先ほど和貴との仲のよさを見せつけられた時にはあきらめることをも覚悟した。
けれどそれはあくまで深雪が幸せそうだったからだ。
自分の欲求のまま女性を傷つけるような男に彼女は渡せない。深雪は彼のせいで泣いたのだ。