事件 6
「修学旅行だろうが!?お前みたいな不良には当たり前の事かもしれないけど、あり得ないだろ!?この流れでラブホテルなんて!!」
自分のスト―キング行為は棚に上げ、拓也は思いのたけをぶちまけた。
信じられない!
同じ男としての気持ちはまあわからんでもないが、だからって何ですぐホテルなのだ!?
それに僕たちは高校生だし、今は修学旅行中、しかも二人が付き合いだしたのはつい最近なんだろう?
「こんなとこに植田さん連れ込もうなんて何考えてんだヘンタイ!!」
拓也は腹にありったけの力を込めて絶叫してやった。
言葉を吐き切って見上げると、先ほどまでの鋭い眼光は跡形もなく消え去り、黙ってうつむく和貴の姿がある。
こんなに暗くても彼が赤面しているのがわかった。
ここに入ったら?それなら、まずはシャワーに・・
なんて『こんなトコに連れ込んで何考えて』を真剣に考えてしまったのだ。
深雪の湯上がりや、その先の姿まで想像しているに違いない。
口元を押さえ細かく震えている和貴を見て、拓也の中であきれと同時に怒りがこみ上げた。
(こいつはホントに何なんだ!こんな時に!)
自分勝手な反応にますます頭に血が上る。
こっちは真剣なんだ。こんなに怒っているのに、わからないのか?
「バカヤロウ!こんなことするなんて!植田さんがかわいそうじゃ・・」
うしろを振り返り、拓也は声を詰まらせた。
深雪が泣いている。
「え?」
気づいたら頬をあたたかいものがすべり落ちていて、自分ですら泣いていることに気づいていなかった。
だってどうして泣くのかわからない。
「あれ?なんだ、コレ?あはは、やだ雨じゃないよね・・」
「深雪?」
途端、和貴は顔色を失う。
「・・植田さん!」
拓也は強引に深雪の手を取った。
こんな彼女をこれ以上ここにおいておきたくない。
「行こう!!」
文字通り、拓也は和貴の前から深雪を連れ去った。
それを止めることもできず、小さくなっていく二人の背中を、和貴はただ茫然と見つめていた。