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with  作者: 絹ヶ谷明頼
修学旅行 編
26/48

事件 5

「おいで」

艶を含んだ声に、誘われるがまま右手が動いた。

 けれど頭の片隅が、疑問を投げかける。

“この手をとっていいの?”

(でも、和貴君はおいでって言ったし・・)


和貴は好きだし、手もつなぎたい。

手を差し出すことは自然じゃないのか。なにか問題があるというのか。

脳内で、彼女の人格は二分化していた。自問自答が繰り返される。

わけがわからず、というよりわかりたくないのだ。

だから余計に混乱していく。


“じゃあ手をつないでどうするの?この手を取ってついていく先は知れているでしょう?この建物に入るんでしょ?”

(入ったからって何よ。えっ、入るって、ここに?)

だってここは――


予想だにしなかった展開に、とても考えがまとまらない。

心臓がバクバク脈打ち、頭に血が上る。脳内分裂は早くも限界だ。

掌からは汗が吹き出し、めまいがしてくる。

この問題は完全に彼女のキャパシティを超えていた。


“入ってどうするつもりだと思う?だってここは”


 ここは、ラブホテルなんじゃないの??


実際にこんな間近で“ラブホテル”を見たことは無かったが、繁華街やテレビドラマで看板くらいは目にしたことがある。

ここでおいでっていうことは、それはつまり、つまり、つまり――――

「深雪?」


負荷がかかりすぎて、深雪の脳はついに思考を停止してしまった。

それから先は考えられない。考えたこともなかった。

 彼女の様子がおかしいことには気づいたが、そのことに疑問を感じる余裕が和貴にはなかった。

伸ばしかけになっている手を取り、先へ進もうとする。

その時だった。


 「バカ野郎、浜崎!!」

飛び出してきた人影が、強引に深雪を奪い取った。

「植田さんに触るな!」

 影の正体はすぐにわかった。明日の自由行動で一緒になると紹介されたうちの一人だ。

「藤原・・?」

和貴はわずかに眉根を寄せる。

自分を知るものが少ない土地だからと油断していた。

あろうことか深雪に触れ、自分を敵視しているこの男。

彼女のクラスメイトでなければ今すぐ殴り倒してやりたい。

「お前一体何のつもり・・」

「何のつもりはこっちのセリフだ!」

臨戦態勢の和貴を前に彼は気丈にも立ち向かった。

オーラの凄まじさに気押されながらも深雪を背後にかばい、なんとか前に出る。



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