事件 4
腕時計に目をやると現在19:39分。
夕食後各自自由出発だったので、大急ぎで食事を済ませたことと、行きにタイミングよくバス便に乗れたことが功を奏したようだ。
友香たちと祇園四条駅で待ち合わせるのは20:40分だから、あと一時間程はゆっくりできる。
「深雪は?」
「私は・・特に。四人一緒だと思ってたし。」
友香と一緒にガイドブックを眺めはしたが、実際どれくらい時間がとれるかわからなかったこともあって特段希望の場所というのも考えていなかった。
四人で意見が分かれたら合わせようくらいの気持ちでいたのだ。
「じゃあ・・」
わずかに思案した後和貴が口を開く。
「いいかな。俺行きたい場所あるんだけど・・」
「うん。じゃあそこ・・行こう・・」
内心どきりとした。
木々の隙間から落とされた月明かりが照らす彼の横顔が、怖いくらいに色っぽく見える。
(やっぱり・・キレイ。)
まるで魔法にかけられたように、深雪は一歩足を踏み出した。
・・ん?
お寺を出て、5分ほど歩いたころ。
彼女は最初の違和感を感じていた。
和貴の歩調がいつもより早い。
いつもなら深雪の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるのに。
半身ほど先を行く彼の後姿は、珍しくなにやら焦っているようだ。
(行きたい所って、遠いのかな?)
できる限り協力しようと深雪も黙ってペースを上げる。
そうこうしているうちに先ほど降車したバス停を通り過ぎ、彼はきょろきょろと周囲を見回し始めた。
こんな姿、今まで見たことがなかった。
(どこに行くんだろ?)
何かを探しているようではあるが、迷っているという感じでもない。
大通りから一本奥の道にはいると、急に幅員が狭くなる。
雑居ビルやアパートが立ち並び、周囲の圧迫感がぐんと増した。
更に道を進む和貴の後を黙ってついていくと・・
「ああ、ここだ。」
足が止まる。
「深雪。」
立ち止まると、振り返った彼は甘やかな声とともに手を差し出した。
(わ・・)
お付き合いが始まって約ひと月。
「かずきくん・・」
先日の事件のどさくさで抱きついたことはあったが、こうやって手をつなぐのは初めてだ。
期待と恥じらいを抱きつつ、彼を見上げて・・
ついでにその背景までも目に入る。
背景なんて流し見しても良さそうなものだったが、彼女の中の何かが予感をもたらしたのかもしれない。
見逃してはならないと。
煌々と光る電光掲示板に『ご休憩・ご宿泊金額』の文字が。
あれ?
ご宿泊はともかくご休憩とは??
それになんだか入口が小さく妙に暗い。
(えっと、ここは?これは・・)
どういうことだろうと深雪は目をしばたいた。
見慣れない光景。だが何となくは察しが付くことに彼女はうっすらと気づいていた。
でもそんな事実を、彼女は瞬時に受け入れきれない。
ここは、そんな、まさか・・