事件 3
ちっとも不快そうな素振りを見せない深雪に、拓也は焦りを感じ始めていた。
もしかしたら、植田さんは本当に・・
好きなんだろうか?あんな奴が。
規律を守らず、己の要求のために暴力をふるうような人種のそんな男が。
自分なら、そりゃあ容姿は劣るかもしれないが、学力だって素行だって浜崎よりはいい。
趣味や性格も植田さんとは合っている。僕の方がきっと。
なのに?
二人は庭園をゆっくりと一周した。
いつまでもこうして二人で眺めていたかったが、時間には限りがある。
予定では少し市街地も見物するつもりでいたので、どちらが口にするでもなく山門へ向かった。
二人とも多くを語らなかったがそれでも不思議と思いを共有出来ているという感覚があった。
「高岡に感謝だな」
「そうだね。私たちだけじゃきっとここに来ようってならなかったよね」
くすりと、深雪は自分の恋愛ごとに関する無頓着さを笑った。
けれどここ数週間の和貴もそういったことにそれほど熱心ではなく、デートと言えばもっぱら放課後の帰り道だった。
和貴にはアルバイトがあったようだし、自分にも予定が入っていたので休みの日にどこかへ出かけるという事はまだしたことがない。
もちろんお出かけデートをしたり、朝から晩まで一緒にいておしゃべりしたり、すれば楽しいだろうとは思うのだが、そう思うくらいで今はちょうどいい。
これくらいの距離感がとても心地よかった。
おそらく和貴も同じ気持ちでいてくれるのに違いない。
見上げると視線が重なる。
見つめあうだけで気持ちが通じ合うような、そんな気がしていた。
「まだ時間余裕あるけど・・、和貴くんどこか寄りたいところある?」