事件
高台寺行きは元々友香が提案したものだった。
さすがにカップル歴が長いだけあり、イベント情報などの収集も意欲的だった。
男性陣にも深雪にも反対する理由はなく、特に深雪は恋人と初めて見る夜景をとても楽しみにしていた。
「うわぁ・・」
庭園に入ると、得も言われぬ美しさだった。
色づいた紅葉が光を受け輝いている。紅色の彼方には竹林の濃い緑が透けていた。
かと思えば足元の池が立体のすべてを映し出していて、地上にいる心地がしない。
空気は冷たいのに頭上が燃えている。
「これは本当に・・」
綺麗だねと声をかけようとして、和貴は声を失った。
もっともっと綺麗なものをすぐそばに見つけたからだ。
高揚した頬に、夢見るようにうるんだ瞳。
そこに自分の姿はなかったが、その清らかな輝きに心が満たされる。
――と同時に。
体の奥で想いが、鈍くうずいた。
彼女に触れたい。
青年男子にとって、至極当然の欲求だ。
こんなに近くにいてこんなに愛らしいのだ。
しかし触れたいと思えば思うほどどうしたら触れられるのかわからなくなってくる。
今までに何度か女性に触れる機会はあったがこんな経験は初めてだ。
これまでにないほど強く、触れたいと感じるのに。