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with  作者: 絹ヶ谷明頼
放課後 編
11/48

それから 3

 「良かったぁ! こっちにいた―――――」

ばたーーん!

『!!!?』


はっと、目が覚める。深雪は反射的に顔を声のしたそちらへ向けた。

耳になじみ深いその声の主は・・

「の・・て、お邪魔、だった、よね・・・?」


ドアノブを握ったままの友香がこちらを向いて硬直していた。

何を見て固まっているのかと、彼女の視線をたどると・・。

数センチ前に現実から目をそらそうと努力する和貴の顔が。そして、肩を抱く二つの手のひら。

「わあっ! こ、これは・・」

これではまんま、『キスしようとしてました』のポーズではないか!

やっと動き始めた頭がどうにかごまかせないかという方向に働いたが、弁解しようのないシチュエーションに、言葉が続かない。

別に悪いことをしてたわけではないのだが、どうにもなかなか、ばつが悪い。

「あ・う・・」

「あのホラ・・さ、浜崎足早くって見失っちゃって・・、でも店の名前はわかったからそれ探しててさ・・・、エートぉ・・」


彼女はなぜこんな縁もゆかりもない場所でこんなに気まずい思いをしなければならなかったのだろう。たかがタイミングが悪かったというだけで。

「・・ごめん! こんなことになってるなんて、ちょっと考えればわかったのに・・! ごめんね! つい!」

友香に何一つ過失はない。

深雪の危険を和貴に知らせ、放っておいても良いくらいなのに探しに来てくれた。

感謝こそしても、謝られる筋合いはない!

筋合いではないが、友香にも謝らずにはいられない理由があった。

友人のラブシーンより衝撃的で、見てはいけないものを見てしまったから。

 

「ね・・、ごめん浜崎・・!」

それは和貴のテレ顔である。

「・・・・・。」

見ている方が忍びなくなるほどの赤面に、深雪さえも声を失った。

「あの・・。」

「いや、悪い・・。高岡、助かった」

そむけられた顔の表情をみることはできなかったが、可哀相なくらい耳が赤かったので、彼がどれほどがんばって礼をのべているのかは推し量ることができた。

礼を言う相手の顔を見ないとは大変失礼な行為なのに、感謝の気持ちは十分すぎるほど伝わってくる。

「ゆ、友香ちゃんありがとう。」

 兄弟どちらかが頼りないともう片方がしっかりしてくるという法則に似て、力ない和貴に対し深雪はやや正気を取り戻した。

「いやっ、ほんと・・どういたしまして・・」

 深雪のいう「和貴とのにっちもさっちも」を実際に体験させられて、ああこういうことかと、友香は貴重な経験を胸に刻んだのだった。

 とりあえず和貴の顔は誰からも見えないようにと配慮し、友香、深雪、和貴の順番でクラブエックスを後にした。


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