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with  作者: 絹ヶ谷明頼
放課後 編
10/48

それから 2

「・・ごめんね。もう本当に大丈夫・・。」


やっと人心地がつくと、自分の行動の大胆さに今度は恥ずかしくなってきた。

おまけに自分は深雪と呼ばれ、彼を和貴と呼んだ気もするし・・。

「本当に何度もすまない。」

「平気よ。本当にもう大丈夫。」

「でも・・」

「なんともないもの。気にしすぎだよ。」

深雪はにっこりと微笑んだ。

それはまるですべての憎しみを吸い取ってくれるかのような暖かい笑顔で・・

これに彼は何度救われた事か。

 しかしそれでも和貴は自分を許せなかった。少し考えてから頭を下げる。

「一発殴ってくれ。」

「へっ?い、いいよ。私ほんとに気にしてないし・・」

「いいから。」

「でも・・」

「いいから頼む。」

(もう・・・)

 深雪はため息をついた。ちゃんと助けに来てくれたのだから、この件に関してはもういいのだ。

けれど彼の真剣なこの様子では殴られるまで気は済みそうにないし、頼むとまでお願いされてしまっては・・


「・・ふーっ。」

 ・・ぺちん

「?」

殴られた、とは程遠い感覚に彼は上目を上げる。

「ね、一発。これでいいでしょ。」


両頬に触れている柔らかい掌が彼の顔を正面を向かせる。

ちょっと前までの自分には考えられない行動だ。

今の深雪には分かっている。彼は県内屈指の不良であること、でも誰よりも安心できる男の子で、こうすることがとても心地よいということ。そして・・

「和貴君がこんなに一生懸命私のこと助けに来てくれたでしょ。来てくれると思ってたけど・・」

照れのためか、宙をさまよっていた瞳が彼をとらえて言う。

「・・それがね、とっても嬉しかったの」

ありがとう、と深雪は頭を下げる。

その姿の愛らしさに、

 一時こころ奪われる。


例えようのない感覚に、和貴の身体は動かされていた。

「みゆき・・。」

彼は静かに彼女の肩に手を置き、相手の瞳をしっかりと見つめた。

深雪はその、彼の雰囲気に口がきけなくなってしまう。

いや、ききたくなかったのかもしれない。わずかにかすれのかかった美声がたまらなく心地よい。

自分の名前がこれほどまでに美しい響きを持ったことはきっとなかっただろう。

余韻を少しでも長く感じていたかった。

 「キス、させて。」

酔ったような甘いまなざしが、すぐ目の前にあった。瞳には自分が映っている。

どきんと、大きく鼓動が波打ち、熱を帯びたしびれが全身に広がっていった。


 どうしたら、いいのだろう?

こんな時、何と言って答えたらいいのか。

戸惑う心をしびれがとかしてしまい、何も考えられない。

ただ、置かれた手にわずか、力がこもると自然に顎が上向いた。

NOとは言えない。

それは強制でもなんでもなくて・・

 鼻先を吐息がかすめる。

くすぐったいような、少し怖いような不思議な心地で、伏せた眼が静かに閉じた。

やがて訪れる、瞬間を待って―――――


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