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with  作者: 絹ヶ谷明頼
放課後 編
1/48

深雪と和貴

 浜崎和貴は恐ろしいほど美しい顔立ちをしている。


しかし、それよりももっと恐ろしいのは・・

「俺・・、お前のこと好きなんだ。」

いまや屍の山と化した不良軍団の中心で、こちらに向かい彼は言った。

「・・・付き合って。」

腰がヌケてしゃがみこんだ足がわずかに震える。何が恐ろしいかといえば一つしかない。彼はたった5分で10人を血の海に沈められるほどのスゴ腕のヤンキーだった。

“付き合って”この状況でこの一言はほぼ強制と言って間違いではない。

おおよそ自分には疎遠だと思っていたこの言葉をまさか彼からかけられるとは思ってもみなかった。

 ブリーチのかかったサラサラの髪を揺らし、ご丁寧に彼は彼女をひっぱり起こしてくれる。

切れ長の瞳が鋭く彼女―――植田深雪を見つめていた。



-1-



「ねえ、深雪!何で今浜崎と一緒だったの!?」

当然と言えば当然の疑問が朝一で親友、友香の口から発せられた。

ホームルーム前の教室内に人はまだまばらである。現在AM8:20。いつも彼女が教室内に入るのはこの時間だが、浜崎と一緒だったイコール彼も現在教室にいることになる。最も彼は深雪達とは二つ隣のクラスにいて、同じクラスではないのだが、いつも遅刻ギリギリか、もしくは遅刻をしてくるおっかない同級生が通常と違う行動をとるということは学年全体にとっても十分な関心事であった。友香も例外ではないらしい。

「えーとね・・」

深雪はとりあえず昨日の出来事を一から話す事にした。

 まず昨日の塾帰り、いわゆる不良にからまれたこと、いつの間にか人数の増えたその不良どもを和貴がのして深雪を救ってくれたこと。付き合えと言われてNOと言えなかったこと・・。

「ふーん。まぁあんたが路上でたむろしてるあんちゃんにガン付けしたのはわかるけど・・。」

「違うよっ!塾いく前と帰りでおんなじカッコで座ってるように見えたから、一時間半ずっと同じだとしたら凄いなぁって気になっちゃって・・つい見ちゃったの!昨日眼鏡忘れちゃったし・・」

 何よりNOと言うのが怖かったのである。なにしろ彼に関する噂は彼の瞳がわずかに細まるだけで対人が数メートル吹っ飛ぶ、とか言われているのだから。

 自称草食動物の彼女は今まで和貴と直接話した事もないし、なるべくなら学校でも関わらないようにしていたのに・・、なのになぜ好きだ、などと告白されたりしたのだろうか。

「ね、ゆってい、言って良い?」

彼女は懇願するように友香に訴えた。返事がないのを承諾と受け取ると

 「こわかったよーーー」

崩れるように抱きついた。

免疫が全くないのだ、そもそも男というものに。それに加えて和貴は危険な噂の絶えない危ない男。つまり全く未知の恐怖生物になるわけだ。

「・・からかわれてるだけかもよ?」

友情の優しさからか、気休めにでもそんな言葉をかけてくれる。

「だといいんだけど・・・」

しかし和貴のような人物が今朝家まで迎えに来てくれたのだ。

からかいだけでそこまでするものだろうか。確かに彼は背が高くて、雰囲気になじめなかったが危害を加えるようなそぶりは全くなかったし・・・。

全く不思議な話であるが、やはり謎の人物だった。

 放課後、彼女を待っていたのである。





 「・・何か飲む?」

夕暮れの公園で、二人はベンチに腰かけていた。

「え・・いえ、いい・・・デス・・。」

彼の思考回路が読めぬまま、学校の最寄りの公園まで来てしまっていた。

こうして二人で座っていると一見普通のカップルにしか見えない。

が、内心彼女はビビりまくりである。

もうかれこれ30分以上、何を話すでもなくここに座ったままだった。

(・・どうしよう・・。)

どうしようもないし、何をできるでもなかったが、とにかく言いようもなく怖いので帰りたい。

理由などなく、彼女にはケンカなどをする人種が純粋に怖かった。

 それに9月とはいえ初秋の空気はいささか肌寒い。

秋風に目を細めると、不意に和貴が立ち上がった。

 「・・寒い?」

黒い詰襟に手をかけて問いかけてくる。そのセリフのあまりの思いがけなさに一瞬言葉を失ってしまう。

彼は自分を気遣って上着を貸そうとしてくれているのだ。

夕焼けの西日にさらされた横顔がこちらを見つめている。


(キレー・・)

誰に言うでもなく胸中でひとり呟いた。見れば見るほど美しい。

触れたら壊れてしまいそうな繊細なガラス細工のようだった。

だが決してか弱い印象を見る者に与えない。むしろ他人を拒むような険しい雰囲気が全身を包んでいる。

 本当に・・、からかわれているだけではないのだろうか。

 自慢ではないが、深雪は生まれてこの方17年間、男性と付き合うことは勿論告白すらした事がない。バレンタインデーと言えばチョコをあげるのは父親と二つ年上の兄にだけ。容姿は十人並みだし目立つタイプでもないはずなのに、どうして彼のような男性の目に留まったのだろう。

和貴はルックスだけならトップモデルにもひけをとらないのに・・・

 「あっ」

肩に手が触れてはっとした。

ばさりと両肩に重みがかかる。彼が上着をかけてくれたのだ。

「だ・・大丈夫、いいよ・・!寒くないから。浜崎君も、その・・風邪ひくと困るから・・」

触れた手にはじかれたように思わず立ち上がってしまい、肩から上着がずり落ちた。

「ごっ、ごめんなさい・・!ごめんね、よごれちゃっ・・」

「いいよ、俺・・」

「ひゃっ」

上着を拾おうとして和貴の手に触れてしまう。

(しまった・・!)

悲鳴まであげてしまって、ひっこめた手をあわてて戻した。

これではあからさまに拒絶反応だ!

 「・・植田・・」

彼が静かに名前を呼ぶ。次の言葉を待ちつつ体をちぢこませた。

けれど台詞は予想していたものと違い、どなりもしなければ、怒ってもいないようだった。

「・・俺が、怖い?」

 どこか、表情は切なげである。

「え・・?」

声音の柔らかさに深雪は言いよどんだ。

「う、ううん。・・いや、でも・・うん。」

偽りでもいいえ、と言ってしまえばよかったものを、結局肯定してしまってやはり深雪は後悔した。

優柔不断なあげく馬鹿正直に答えて、何をやているのだろう。

 しかしそれも仕方ないのだ。理屈は分かっていても身体が理解してくれない。これはどうしようもできないのだ。

「っじゃなくって・・その、何ていうか・・」

深雪が少し無理のある言い訳を始めた時だった。

「あっれー。浜崎くんじゃありませんか。」

「めっずらしー。こんなとこで女連れとは隅におけないね!」

「あのメガネっ娘!?はは、さえないの連れてるじゃん。」

さして広くないこの公園にガラの悪い学生がゾロゾロと入ってきたのは。


 公園内にはブランコと砂場にベンチが一つしかない。そのベンチを囲むように近づいてくる男どもが6,7人。

(マズイか・・。)

彼らの顔に和貴は見覚えがあった。いずれもいつだか殴り飛ばした事のある顔だ。

まず殴られた相手と友好関係を結ぼうなどという目的を持つ連中ではないことは明らかだし、この時間にこの人数。人気のない公園で何をたくらむかくらい簡単に察しが付く。

「・・逃げて。」

眉間にしわを寄せ、目の前の“敵”と対峙しつつ和貴がつぶやいた。

「え?あ、ハイ!」

いつもならこれくらいの人数何てことはない。まとまって来たら当たって散らして、一人ずつ的にしていけばいい。だが今日は、やつらは深雪を狙うだろう。

「まっ、待っててね、浜崎くん。」

無論身の危険が彼女にわからぬはずがない。

「今ケーサツ呼んでくるから・・!」

身を翻し、男どもが入って来たのと反対側の入り口へと駆け寄って、お手上げなことに気がついた。

「!」

「ざーんねーん。逃げらんねーな。」

「痛っ!」

そちらからも約10人。

加勢に来た男たちは軽々と深雪の腕をひねりあげた。













お読みくださってありがとうございます。


未熟ながらも一生懸命書いてゆきたいと思いますので、良いところ悪いところなどありましたら何でもお気軽にご意見をお聞かせいただければと思います。


これからもよろしくお願いします!

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