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── @news.narou_jp


【速報】


渋谷駅前に「謎の行列」出現。

今朝6時頃から、渋谷ハチ公前に黒いテントを先頭にした行列が出現。

SNSでは「#渋谷謎の行列」がトレンド入りするなど話題に。

主催者や目的は明かされておらず、現地は騒然としている模様。



1、謎の行列


2026年8月、渋谷。

ある日の朝、駅前の広場に突如として出現した謎の行列が、ネット上で話題をさらった。


「何これ? 渋谷駅前に行列できてる。全然動かないし、何かやってるの?」


写真には、100人以上の人々が黙って並んでいる姿が写っていた。

看板も、店の案内もない。ただ、列だけが存在していた。


その投稿は一気に拡散して、


「無料配布?」

「芸能人来る?」

「隠しイベント?」


といった憶測が飛び交って、更なる注目を集めた。


ただ、不思議なことに、肝心の列に並んでいる人たちは

誰もがその先に何があるのか知らなかった。


ある大学生はこう語る。

「前にいた人が『何か配るっぽいよ』って言ってたから、つい。みんな並んでるし、何かあるんだろうなって。気づいたら、3時間経ってました」


別の女性は、

「ちょっとだけ見るつもりだったのに、なんとなく離れづらくなって。みんな期待してる空気だったし、離れたら損かなって」


その列は徐々に伸び、最長で約450人に。


並んだ人たちは最大で5時間以上待ち続けたが、

気温が猛暑日を超えた昼を過ぎたころになると、

少しずつ隊列は乱れはじめて、謎の行列は消滅した。


結局、何も起こらなかった。



2、仕掛けられた行列


翌日、この奇妙な騒動の正体が明らかになった。


仕掛けたのは、国内の広告代理店「Brightly Inc.」と、

アメリカのテック企業「LOOVRルーヴァ社」。


目的は、「日本人の行列文化」と「群衆心理」を調査するマーケティング実験だったという。


彼らは事前に40人のエキストラを雇い、

「何かを待っている」ような雰囲気で列を作らせた。


看板も説明もなにも用意しない。

周囲の人々が自然に加わっていくのを観察し、

SNSの反応を分析する、それが彼らの狙いだった。


LOOVR社は、こうコメントしている。


「日本人が行列にどれほど影響されるのかを知りたかった。並ぶ理由がなくても、人は群れに惹かれるのか? その実験でした」


結果は、想像以上だった。


行列はSNSで拡散され、メディアでも取り上げられ、関連投稿は2万件を超えた。

そのほとんどは批判的な内容で、代償は大きかったように思えた。



3、炎上、そして勝利


ネット上では批判の声があっという間に拡散された。


「騙された」


「悪質な釣り」


「人の心理を玩具にするな」


「企業のモラルが問われる」


Brightly Inc.の公式アカウントには抗議が殺到した。

LOOVR社にも「倫理観が欠如している」として世界中から非難が寄せられた。


ところが——


数日後には、LOOVR社の日本語版サイトのアクセス数が過去最高を更新。

同社のSNSのフォロワー数は、一週間で15倍に達した。

Brightly Inc.にも新規案件の問い合わせが殺到したという。


取材に応じた広告関係者の一人は、こう語った。


「善悪の話はさておき、知名度を上げた企業が勝つのが今の時代です。たとえ炎上しても、それで多くの人々の記憶に残れば、結果としてマーケティング的には成功となりますからね。そういった意味では成功だったんじゃないですか」


次に、行列に並んでいたひとりの大学生が、質問に答えてくれた。


「きみはどうして、あの行列に並びたいと思ったのかな?」


「えっと、気づいたら並んでました」


「自分の判断だよね?」


「つか、あの場の雰囲気っていうんですかね、みんな期待してて、それに自分も流されていく感じでした」


「あー、先が見えない列でも、それに混ざってみんなと一緒だと安心してしまうよね」


「ええ、でもそれって、今思い出すと怖いなって思います」


「でも、そのときは怖くなかった、集団催眠みたいなものかな?」


「……かもしれません」



5、取材を終えて


今回の出来事は、単なる悪ノリや迷惑行為では片づけられない。


ただ、誰もが抱える「不安」や「置いていかれたくない気持ち」を、

行列という形で可視化したとも言えるだろう。


何もない場所に、列が生まれて、何もないまま、列は伸びていく。


日本人の行列文化は確かに存在すると思うが、

本当にそれを調べたかったのだろうか?


きっと本当のことは、誰も話してくれない。

あの会社も、広告関係者も、あの大学生でさえも。


結局、なにも明らかにすることはできず、

むしろ、闇は深まっていくばかりだった。


もしかしたら、


その闇の奥で静かに笑っている人間がいるのかもしれない。



高橋レソ(Takahashi Reso)

SNS:@reso_writes

プロフィール:


都内在住の30代フリーライター。SNSやネット文化、そこから派生する社会現象に強い関心を持ち、日々情報を追いながら執筆活動を続けている。XやTikTokで拡散される「小さな声」から、現代社会の構造を読み解くのがライフワーク。



——数日後、上記の情報はすべて、ネット上から消されていた。


彼自身の消息も、現在、途絶えている。




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