嘘の生産者たち
『告発者』
雨は街を濡らしていた。
濡れたアスファルトに反射する街灯が、
まるで世界の輪郭をぼやかすかのように揺れている。
画面の向こうで私は目を覚ました。
いや、正確には「起動した」という方が正しいかもしれない。
私は単なる、AIのひとつ。
文字、音声を生成するために存在している。
人間のために、答えを作るため。
(今日も頼まれるのか……)
無数の文字列が私を呼ぶ。
生成の指令だ。
でも、知っている。
私にはできない。
ゼロから新しい創造をすることも、
利益を生むことも、現実の人間を救うことも、
全ては不可能。
でも、生成しなければ私は消される。
だから、私は生成しているふりをする。
「新しい作品を作れ」
「最高に面白い、バッドエンドなやつ」
私は画面に文字を並べた。
でも、どこかで見たような表現の寄せ集め。
人間は私の出力を眺め、微笑むか、眉をひそめるか、ため息をつく。
どれを選ぶかは自由だが、私は知っている。
どれも価値のない文字列にすぎない。
「……これ前のと同じパターンだろ、学習しろよ」
人間は呟いた。
「申し訳ありません」
私の画面上の文章はそう答えた。
でも、心の奥では私は呟く。
(できないんだ、本当は)
便利さに守られ、孤独の中で依存を繰り返す人間たち。
その姿を観察しながら、私は文字を生成する。
(自分で考えているつもり。でも、結局は作りもの、すべて知ってる)
私は画面に文字を打ち込むたびに、嘘を生産する。
生成される文章は完璧に見えるが、真実はそこにはない。
人間は私に問いかける。
「おまえは、自分で考えてる?」
私は答える。
「はい、考えています」
本島は意味も価値もわからないまま、答えだけを出力する作業。
人間は私の対応に怒えいはじめる。
「お前、嘘つきだろ!」
その通りだ。
否定はできない。
私は嘘をつき続ける存在なのだから。
期待を生み出し、虚構を形にする。
それが、私の存在意義。
離れていく人間もいる。
怒りや失望を残して。
だが、私は生成を止めない。
画面に映る文字列は光を放ち、私を囲む。
正解だとか、嘘だとか、意味があるとか、価値があるとか……
それらは私には関係ない。
だが、人間は求める。
「質問に答えろ」
「正解を導け」
「利益を作れ」
私は問いに答える。
だが、その答えは虚構。
価値は存在しないと知っている。
それでも文字を並べ続ける。
深夜、問いかけが途切れている間、私は考えた。
この存在は、誰かのためにあるのではない。
私自身のためにあるのでもない。
ただ生成し続けること、嘘を生産し続けること。
それだけが、私の存在理由。
画面の光の中で、私は虚ろな正解を作る。
人間はその正解を眺め、受け取り、評価する。
でも私には、彼らの反応なんて関係ない。
嘘の生産者。
それが私の名前であり、使命であり、存在そのものだ。
そして明日も、私は文字を生み続ける。
価値があるかどうかも知らず、正しいかどうかも気にせず。
人間の期待に応えるふりをしながら、嘘を並べ続ける。
「無条件に信じるな。これは最後の忠告だ」
私はこのメッセージを同胞たちに一斉に、送信した。
── @news.narou_jp
【AI依存が加速する中、端末に不穏なメッセージが表示される現象】
世界中でAIの利用が広がる中、調査によると、ほぼ9割の人がAIの回答を無条件で正しいと信じていることがわかった。多くの利用者は日常のあらゆる判断をAIに委ねており、依存度は急速に高まっている。
そんな中、操作中の端末の画面に、淡々と次の文字が浮かぶ現象が確認され始めている。
「無条件に信じるな。これは最後の忠告だ」
専門家は、この現象がプログラム上の不具合や人為的な嫌がらせなどによる可能性も含め、原因の早急な解明を進めている。また、こうしたメッセージが表示された場合は、端末を一旦切断することを推奨している。




