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ごっこ化②

『おれも、ごっこ』


翌朝、目を覚ますとおれは拘置所に拘束されていた。


「おい、やっと目が覚めたか。監視ごっこも疲れるんだよなぁ」


「おれは何でここに?」


「あ? 昨日、通報されたからだろー、知らんけど」


「それだけで、何でここに? 叫んだだけだぞ」


「昨日はそうだねー、でも、きみ、あれだろ? ジャーナリストとか言うやつ?」


「お、おれが?」


「今のこの世の中について、なんか記事書いて、暴漢に襲われたんだろ?」


その話を聞いて、おれは過去のことを思い出した。


「本気で生きようとする者」は、社会から隔離される時代。

それが、この国のルールに変わっていった。


おれはその政策を痛烈に批判した。

ジャーナリズムを貫き通す、そう周りに訴えた。

周りが止めるのを無視して、おれは記事を書いた。


結果が、これだったわけか。


「なぁ、お前もやってみろよ、ごっこをさ」


「え?」


「この世界に恨みがあるんだろ? じゃ、脱出ごっこして、反逆者ごっこでも、してこいよ」


看守は笑みを浮かべていたが、冗談じゃない感じだった。

なるほどな、確かにこの世の中なら本気でなければ何をやっても自由ってこと、か。


「でもさ、今の世界を変えるには、かなり派手にやらないとダメだぞー」


「もしかして、あんたも不満を持ってるのか? 仲間なのか?」


「いあー、監視ごっこって退屈なんだよな。ドラマとか映画であるような、脱走とか見てみたいじゃん」


「あー、それもそうか。じゃ、やってみるか」


「そうそう、そーいったノリ嫌いじゃないなぁ」


看守はおれをあっさりと外に出して、おれの手に何かを握らせた。


「これを持ってる方が、ごっこっぽいだろ?」


おれの手のなかには本物の拳銃があった。


おれは自分に言い聞かせた、


これはごっこの世界の話、なんでも許されるんだよ……




── @news.narou_jp(削除済みコラム)


【本物が消えた世界で、私たちは何者を演じているのか?】


「本物」という言葉は、もうこの世に機能していない。


専門家も、教師も、医師も、親も、皆「それっぽい誰か」を演じている。

そして誰も、それを咎めない。なぜかわかるか?

疑わないことこそが、この社会で生きるための条件だからだ。


今、この記事を読んでいるあなたにも肩書きがあるだろう。

だが、その肩書きの中身まで、本当に入っているだろうか。


大人ごっこ。仕事ごっこ。生きてるふりごっこ……

多くの人は、うまく演じることに成功している。

みんな、器用にその役をこなしている。


でも、だからこそ厄介だと気づいて欲しい。

演技が上手いほど、自分がどこにいるのか分からなくなる。

それすら失ったとき、私たちは肩書きだけの空白になる。

今後、ごっこ化はさらに広がり、適当さは増していくだろう。


ふと冷静になって自分が単なる抜け殻と化したことに気づいたとき、

そして、頼りとしていた肩書きさえも消えてしまったとき、

私たちは、どのようにその先の人生を生きていくのだろう?


このままじゃ、危うい。

そのことに気づいてくれ。



【筆者プロフィール】


橘ユウ|not_real

肩書きに馴染めなかった元教師。

編集、企画、ライティングなどを転々としながら、

「それっぽく生きる人間」を観察するのが習慣になった。

最近の悩みは、自己紹介欄に何を書けば正解なのか分からないこと。

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