独り占めクラブ①
── @news.narou_jp
【SNS時代に「独占欲・所有欲」が増加。希薄なつながりが逆作用か】
近年、他者への独占欲や所有欲が強まる人が増加していることが、社会心理学の研究報告から明らかになった。専門家によると、SNSやスマートフォンの普及によって「常に誰かとつながっている状態」が広がる一方、人間関係の実質的な深まりは薄れ、これが心理的な逆作用を生んでいる可能性があるという。
専門家は「つながりが便利になった一方で、安心できる関係が減少している。その不安が、独占欲や所有欲の増大につながっている可能性がある」として、今後さらなる調査の必要性を強調した。
『第一印象』
凪は、人を助けすぎる。
それが最初の印象だった。
僕が雨の日に傘を忘れたとき、そっと自分の傘を差し出してきたのも凪だった。
「返さなくていいよ。光希くん、風邪引いたら困るでしょ?」
と、当たり前みたいに言った。
そんな親切、誰でもできる。
そう思ったけど、その日から“たまたま助けられる回数”が妙に多くなった。
財布を落としたときも、プリントをなくした日も、熱っぽくて保健室に向かってたときも。
必ず凪が先に気づいて、先に拾って、先に差し出してくる。
「すごい偶然だな」
と笑うと、凪は首をかしげた。
「偶然じゃないよ。光希くんのこと、よく見てるから」
その言葉で少し胸が熱くなった。
誰かに気にかけられるのは悪くない。
──この時点で気付くべきだったのかもしれない。
凪と話す時間が少しずつ増えた。
彼女は落ち着いた声で、いつも僕の名前を呼ぶ。
「光希くんって、人が困ってても言い出せないタイプだよね」
「どうして分かるんだよ」
「表情で分かるよ。目が困ってる顔になるの」
僕自身が気づいてない癖まで言い当ててくる。
心を見透かされている気がしたけど、不思議と嫌じゃなかった。
そのうち、凪が助けるタイミングはさらに完璧になっていった。
数学で問題が解けなくて固まってると、隣から小声で、
「ここ、符号違ってるよ」
と答えをくれる。
電車で酔いそうになったときは、カバンから薬まで取り出して、
「酔うかなと思って持ってきた」
と笑う。
僕が欲しいものを、凪はいつも事前に持っている。
正直、便利だった。
すごく助かった。
……本当に。
『日常化』
秋頃には、凪といることが日常になっていた。
僕のほうから相談することも増えた。
「最近、ちょっとクラスに馴染みにくくてさ」
「大丈夫だよ。光希くんは無理しないでいいの」
「でも──」
「わたしがいるよ」
「でも、それって凪を独り占めしてるみたいじゃん?」
「全然違うよ、光希くんはそんなんじゃないよ」
迷った瞬間、必ず凪が言葉を置いてくる。
それが正解みたいに聞こえてしまう。
僕は徐々に凪の意見を基準に判断するようになっていた。
その時点ではまだ気付いてなかった。
凪は問題を助けてるんじゃなくて問題が起こる前から見ていた、ということに。
『違和感』
違和感を覚えたのは、十月のある放課後のこと。
教室に戻ると、僕の机の上に忘れたはずのノートが置いてあった。
「あれ……これ、家に忘れてきたはずだよな」
思わず呟くと、背後から凪の声がした。
「うん。取りに行ったよ」
「……家に?」
「うん。鍵、光希くんのお母さんが開けてくれたから」
その瞬間、彼女に対して初めて不信感を覚えた。
「なんで……そんな、勝手に……」
「ごめんね。でも、光希くんが提出できなくて困るかなって思って」
「いや、でも……」
「わたし、光希くんが困るの嫌なの。だから、先に動いたほうがいいかなって」
真券にこっちを見ながら彼女は言った。
それが間違っていると言い切れなかった。
実際、僕はおかげで助かっていたし、
むしろ彼女と出会う前より毎日が充実していた。
だから、彼女を否定できなかった。




