それ、ありがた迷惑
── @news.narou_jp
【速報】
女子大生が知人女性を刃物で刺傷 SNSトラブルが発端か
15日、市内の大学に通う女子大学生が、登校中の知人女性に暴行を加え、けがを負わせた傷害の疑いで逮捕されました。SNS上で二人に何らかのトラブルがあったとして詳しい事情を聞いています。
23:27
大学ゼミグループチャット:タイトル「ゼミおつかれ〜」
ナツキ:
今日のゼミ地獄だったー
てか、アイリちゃん途中から消えてなかった?
サキ:
うん、スマホ見ながら出てった
また病んでんじゃないの?笑
男子A:
なんかあの子ずっと下向いてたよね
サキ:
てか毎回思うけど、あの子ゼミ向いてなくない?
誰とも絡まんし
ナツキ:
うーん、たしかにね
でもまあ、そういう子なんじゃない?
ミカ:
………ちょっと言いすぎじゃない?
サキ:
は?
ミカ:
アイリちゃん、無理して来てるんだと思う
前に話したときも、「人とうまく話せないのがしんどい」って言ってたし
サキ:
へえ、そ
ミカ:
だから、あんまり悪く言わないであげて
ナツキ:
……うん、まあ、そうだね
ごめん
男子B:
てかミカ、けっこう仲いいの?
ミカ:
ううん、そんなに
でも、見てて辛そうなの気づいてたから
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グループチャットにそう文章を打ち込むとすぐに
ミカは個人チャットで、アイリにメッセージを送った。
個人チャット:タイトル「アイリ、大丈夫?」
ミカ:
さっきグループチャットで言い合いっぽくなっちゃって……
でも、気にしないでね、わたしは味方だから
アイリにそう送った後、
ミカは、すぐにグループチャットに戻って、
さらに発言を広げていった。
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大学ゼミグループチャット:タイトル「ゼミおつかれ〜」
ミカ:
てかアイリちゃん、前にも男子に陰で変なあだ名つけられてたよね
あれ見たとき、本気で引いた
サキ:
は?
なにそれ聞いてないけど
ミカ:
名前は伏せるけど何人かが言ってたの、
「音無女」とかって
サキ:
それ、なんて読むの?
ミカ:
おとなしめ……
聞いてるだけだと、わかんなかったけど、
あるとき、文字で打ってるの見えたんだ。
ひどくない? まじで最低だと思う
ナツキ:
喋らない女ってことか、それ悪口だわ
完全にいじめじゃん
ミカ:
そういうの、ちゃんと本人にも言った方がいいんじゃない?
知らないと、ずっと放置されたままじゃん
男子A:
それ、おれたちは関係ないからさ
つか、本人いないんだし、終わりで良くない?
男子B:
だなぁ、そろそろ眠いし
おれ、落ちるわ
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その後、ミカを残して次々とチャットから出ていった。
ミカはさっき送った個人チャットの画面を開いたが、
アイリからの返信はなく、既読すらついてなかった。
翌日 7:42
ミカはSNSを開いてアイリのアカウントを探し出して、
そこにコメントを送った。
ミカ:
昨日のこと、ほんとにごめんね
守りたかっただけなのに、なんか空回りしちゃったかも……
同日 8:55
ミカ:
みんなに誤解されてるかもしれないけど、
私はちゃんと、アイリちゃんの味方だから
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同日 10:23
グループチャット:タイトル「ゼミおつかれ〜」
サキ:
てか、アイリちゃん今日来てた?
男子A:
来てないよ
ナツキ:
既読もつかないって言ってたし
なんかあったとか?
サキ:
あのさ、ミカも来てないよね
やっぱ、なんかあったっぽくない?
ナツキ:
つか、仲良くないのに、なんであんな関わるんだろ
男子B:
正義漢が強いんじゃね、ボランティア活動もしてるみたいだしさ
サキ:
いい子ちゃんかー、わたしにはムリだわ笑
ナツキ:
だねー笑
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同日23:17
SNS投稿
アイリの裏垢:
「守るって言いながら、誰より晒してくる人がいる」
「味方って言いながら、自分の声で全部かき消す人がいる」
「この人が一番怖かった、って気づいたときにはわたしの人生もう終わってた」
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翌日0:12
ミカのスマホにメッセージの返信が届く。
個人チャット:RE「ミカ、だいじょうぶ?」
アイリ:
あれ、守ってたつもりだったんだね
おせっかいありがとう
もう誰にも何も話せない、あなたのせい
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だが、そこに既読がつくことはなかった。
ミカは朝から一日中、アイリの居場所を探していた。
心当たりを尋ねては、そこでアイリの異変を伝えた。
家に戻ったときには、疲れ切っていてスマホを開く
気力もないほどだった。
「どうせ返信はないよね……」
そう思いながら、ミカは眠りについていた。
事件が起こったのは、その翌朝、
ミカが登校している途中のことだった。
久しぶりにアイリの顔を見ることができて、
笑顔で近づいてくるミカの姿を凝視しながら、
「こうしないと、わからないか……」
アイリは小さくつぶやいたあと、
ポケットに忍ばせていたナイフを取り出して、
身体ごとミカに突っこんでいった。
ミカは、一瞬、何が起こったのかわからなかった。
ただ、意識が薄れていくなかで、目にしたアイリの表情、
彼女の満面の笑みを、そのとき初めて見た気がした。




