スクロール・オア・デス③
終わりの兆候って、不吉だよな。
でも、安心してくれ。
お前だけじゃない。
みんな、そうなっていくんだ。
ゆっくりと、自分の中身がなくなっていくのに、誰も気づかない。
いや、違うな。
気づいてないんじゃない。
気づいても、止められないんだ。
ただ、本当に怖いのは、ここからさ。
そのうち、言葉を読んでも「感じる」ことができなくなる。
何が面白いのか、何が腹立たしいのか、
自分がどう思っているのかすら、わからなくなる。
なぜなら、中身のない情報ばかりに触れ続けると、
自分自身の中身まで少しずつ腐っていくからだ。
もう、始まってるかもしれないな。
この文章だって、どこまで読んだか覚えてるか?
次に別のタブを開いた瞬間、これも忘れるんだろ。
本当にそれでいいのか?
でも、もう遅いか。
ようこそ、見出しの世界へ。
中身をなくした人間たちが、情報の殻だけを喰らい続ける、永遠のループへ。
スクロールを止めるなよ。
止めたら、自分の空っぽさに気づいてしまうからな。
最後にひとつ、残酷な事実を教えてやる。
この文章を読んで「なるほど」とか「刺さる」とか、
そんなことを思ったお前。
もうとっくに、手遅れだ。
なぜなら、お前は今、見出しに釣られてここに来た。
ほら、もう忘れたか?
このページを開いたときに、最初に目に入ったあの一文。
この文章だって、「見出し」がなければ読まれてない。
それをクリックしたのは、お前自身だ。
つまり、お前は俺と同じだ。
叩くために読み、知った気になって安心し、「見抜いた自分」に酔う。
そうやって、自分がまだ中身のある存在だと信じ込もうとしてるだけ。
笑わせんな。
それが一番薄っぺらいんだよ。
お前はもう、見出しの構造の中に組み込まれてる。
騙す側でもなく、騙される側ですらない。
ただ、回路の一部になっただけだ。
感情も、価値観も、好みも、すべてアルゴリズムに最適化され、
選ぶ言葉すらも、誰かが釣りやすいように設計したフレーズの中から選んでる。
お前が何かを言ったと思ってるその瞬間、
もうお前の言葉じゃない。
それらはすべて選ばされた言葉だ。
どうだ?
まだ自分が「考えてる側」だと思ってるか?
だったら、試してみろ。
今すぐスマホを閉じて、目をつぶって、
最後に読んだニュースの内容を、ひとつでも言葉にしてみろ。
……出てこないだろ?
断片ばかりさ。
見出しの切れ端と、曖昧な印象だけ。
それが今のお前だよ。
空っぽの情報を食べ続けて、消化できなくなった情報の亡者。
自分の中に何も残らないまま、それでも「知ってる気」でスクロールを続ける。
最悪なのは、それで「何者かになった」と思ってることだ。
でも、安心しろ。
お前が自分の空っぽさに気づく日は来ない。
なぜなら、そうなる前に次の見出しが、
お前の思考をまた引っ張っていくからだ。
永遠に、終わらない。
死ぬまでスクロールしてろよ。
脳が擦り切れるまで、タップし続けろ。
中身のないまま、見出しの中の人生を生きて、死ぬ。
……お前も。
そして、俺もだ。
気づいていようが、抗っていようが、
どうせ次のそれっぽい言葉が来たら、また指が動く。
情報に溺れて、スクロールして、
「これは違う」とか言いながら、同じ沼にハマっていく。
お前が空っぽなら、俺はもう空っぽの外殻すら擦り減ってる。
それでも、止めない。止まれない。
だから、最後にもう一度だけ言ってやる。
この世界で一番中身がないのは、結局、そういった見出しじゃない。
それを繰り返し消費する、お前と、俺なんだよ。




