これ、まだ勘違いってことでいいの?②
【終焉】
10月18日。深夜。
西川のスマホの電源はずっと切られていた。
電源を入れると、また何かが起こってしまう、
そう思い込んでいた。
ただ、西川にはそろそろ限界が来ていた。
頭に溜まっているものを何とか吐き捨てたかった。
スマホの代わりに紙を取り出して、彼はそこに文章を書きはじめた。
おい、だれか聞いてくれ。
この国には、階級がある。
俺たちは、見えない柵の中で飼われているんだ。
それに気づいて怒りを漏らせば「事件」にされ、
気づいてそのまま引きこもっていると「病気」にされる。
このことを誰かに話しても、まともに聞く人間はいない。
ただの陰謀論者として処理されて終わるだけ。
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中略
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ほんとうに狂ってるのは俺なのか?
それとも、見えないやつらなのか?
文章を書き終えると西川は笑った。
かすれた声で、独り言のように呟いた。
「俺、気づいちゃったんだ……もう、逃げられないんだろ?」
同時に部屋の電気が、ふっと落ちた。
【ニュース】
数ヶ月後。
── @news.narou_jp
足立区の団地で男性が孤独死 遺されたノートに不穏な言葉
【東京・足立区】
東京都足立区内のアパートで、ひとり暮らしをしていた男性が遺体で発見された。近隣住民の通報により警察が室内に立ち入ったところ、男性はすでに死亡しており、死後しばらく時間が経過していたと見られている。
部屋の中には遺書のようなノートが残されていたが、その内容は一貫性のない文字列で埋め尽くされており、文脈の把握は困難だった。しかし、一部には次のような意味深な文章も確認された。
「この国はすでに選ばれている者に支配されている……」
「俺たちは消費されるだけの存在……」
「みんな目を覚ませ……」
「ほんとうに狂ってるのは俺なのか……」
警察は事件性の有無を含めて調査を進めているが、現時点では第三者の関与を示す明確な証拠は見つかっていない。
そして、記事の末尾はこう締めくくられていた。
『SNSやネット情報に過度に触れることで、現実との境界が曖昧になるケースが増えています。心の健康には十分に注意しましょう』
【上級国民】
その頃、都内の高層タワーマンション最上階では、
煌びやかな夜景を見下ろしながら、上級と呼ばれる男たちが集まってグラスを傾けていた。
「また一人、処理されたようだな」
「ふふ、ネットに毒を撒くだけで勝手に崩れていく。実に合理的だよ」
「この国はまだまだ安泰だね。国民は結局、目の前の情報を信じてくれる」
「警察関係者も、指示通りに動いているようだしな」
ガラス越しに広がる鮮やかな景色。
その下をさまよう無数の豆粒ほどのヒトの塊。
操られているとも知らずに、日々を「平和」と信じる彼らの魂。
他人事のように、世の中に起こる事件や事故を流し見するだけ。
本当の恐怖は、気づかれないまま支配されていること。
それは、上級と呼ばれる者たちも例外でなかった……
【更なる上級者】
巨大なモニターの前に座って、彼らは楽しそうに話をしていた。
交わされているその言葉は、日本語ではなかった。
自動翻訳機能を使って、彼らの会話を傍聴すると……
「これが今の日本、ね」
「上級とか、下級とか言っても所詮、同じ」
「上級国民って呼ばれてる層も、こっちの資金で動いてるだけ」
「でも、駒としては優秀。SNSで叩かれても笑ってるね」
「叩かれてもらえば、本当の上があるに目が向かない。これで十分」
「やぁ、そのまま内部で争わせていくと、国ごと弱っていく」
「……これからも定期的なガス抜き、必要です」
「上級の誰かが逮捕されるか、炎上するか。目立つネタを投下すれば、みんなそこ、目が行ってくれる」
「待て。そこのモニター、注視……」
「……あれ、気づいてるかも。あの若いやつ、こっち見てます」
「気にしない、ね。たとえ見えたとしても、こいう話は陰謀論で片付くね」
誰の目も届かない場所で、そんな会話が延々と続いていた。




