押力曲線(落)
押すことは現状を変えること。
その押す力は曲線で表され、強ければ強いほど
曲がり具合がキツくなる。
力を加えられた透明な物質は
圧力のかかったところが虹色に歪む。
押力曲線。
「なんで、なんで、なんでだ……」
僕はあの時、普通に答えただけだった。
授業中に先生から当てられる。
それを答える。普通のことだ。
それなのにあいつら、笑いやがって。
くそ、くそ、くそー……
昼食後の掃除の時間、
僕は五階の窓を力一杯拭いていた。
黙々と拭いているようでも嫌な記憶が湧いてくる。
あっ、と思った瞬間、
落下していく窓のガラスを見た。
下には同じクラスの僕を笑った奴らが
グラウンドで掃除をしていた。
弾けるガラス、一部の破片がその中の誰かに当たったようだ。
その中に、いつも人の話に乗っかってくるお調子者がいた。
そいつは急いで教室に向かって走っていった。
外れた窓枠を僕はしばらく眺めていた。
一緒に掃除をしていた隣の同級生は口を開けたまま
しばらく一緒に窓枠を見ていた。
しかしそのままではいけないと思ったのか、
教室急いで出て行く。
「先生ー!ガラスが落ちましたー!」
数十年前の校舎の窓は、鉄の枠に周りを
ゴムのような樹脂で固めてガラスを固定していた気がする。
古い校舎では窓枠の鉄も錆び、
ガラスを張っているゴムらしき樹脂もかなりヒビが入っていた。
ガラスが落ちることーーー
意識していたわけではないけど怒りに任せて押したのは事実だ。
下に同級生がいたことはあまり分かってなかった気がする。
掃除の時間が終わりかけ、自分の教室に戻る。
さっきのお調子者が上からガラスが降ってきたことを
大袈裟にみんなに言いふらしている。
ただ僕が落としたことは何も言ってないようだ。
でもかなり興奮していて、聞いている周りの同級生は
そのうるささに呆れてまともに話を聞かずに冷めた目で見ていた。
その後、グランドにいた同級生が戻ってきたが
一人は腕にガラス片が当たったようで
保健室で治療を受けた後だった。
それからしばらく授業中に笑われることは
なぜか無くなった。
少し周りとの距離を感じるようになった。
それは良いことなのか、良くないことなのか、
分からなかったが、結果としては良いこと、になった。
それが、俺の記憶の原点だ。
怒り、そして押す。押す。押す。
しかし今は世間?会社?社会?の
どこを押していいかも分からない。
ガラスを落とすことはできない。




