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虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─  作者: あさとゆう
最終章 運命の死神審問会

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第96話 月詠の審問官、牙を剥く

「ところで花倉さん」


 千景は静かに切り出した。


「あなたの言葉の節々から、真白さんや水無瀬さんへの恨みのようなものを感じます。彼女たちをどう思っているのか、改めてお聞かせいただけますか?」


 千景の問いに、兼翔は顔を強張らせた。


 どうやら千景は、精神干渉を受けている花倉の審問を本気でするつもりらしい。


 兼翔はそっと花倉を見やる。彼女は無表情で(うつむ)いたまま、口を閉ざした。代わりに審護を務める蘭丸が、声を上げる。


「お忘れですか。花倉さんご自身は、かつて化身を宿していました。その化身から、『化身は危険な存在だと見なされている』と聞いていたのでしょう」

「君じゃなくて、彼女に聞いてるんだよ」


 千景はぴしゃりと言い切った。その声色の冷たさに、蘭丸は押し黙る。千景は花倉を見据えたまま、問いを突きつけた。


「どうなのですか?」


 花倉はわずかに肩を震わせる。だが、言葉を発することはなかった。だが、千景は容赦なく、審問を続ける。


「あなたは先ほども、水無瀬藍良の化身である真白を封じろと、発言されましたね。なぜですか?」

「それは……」

「恨んでいたのでしょう?彼女のことを」


 花倉は唇を噛みしめる。


「あなたは、黒標対象ユエを追い詰めたのが真白さんだと、気付いていたのではありませんか?」


 千景の問いは、断定に近いものだった。


「だからこそ、真白さんを恨んだ。あなたはユエを前々から知っていたのでは?」

「ユエの話は……聞いていました。かつて私に宿っていた化身から。彼に一目会いたいからと、あの学園に行くように言われたんです」

「化身とユエの関係は?」

「わ、わかりません」


 花倉の発言に、ざわめきが広がる。


「化身がユエを知っていた?」

「一体それはどういうことだ?」


 死神たちの声が重なり、空気が膨れ上がる。すかさず幻道が場を制する。


「静粛に!まったくもう!」


 幻道の一喝で、ざわめきは無理矢理押さえ込まれた。

 だが、千景は花倉を鋭く睨みつけたままだ。


「それで?学園に来てどうしたのですか?」

「スクールカウンセラーとしての仕事を……」

「そんなことはわかっています。ユエを探すための行動をしたか、『はい』か『いいえ』でお答えください」

「……いいえ」


 いつになく鋭い口調を飛ばす千景に、兼翔は眉をひそめた。


 精神干渉を受けている今の花倉は操り人形も同然。いくら審問を重ねようと、カグヤを守ろうとするはず。操られている側から、核心に繋がる証言など、得られるはずがないのだ。


 それでも、千景の問いは止まらない。


「探すための行動はしていない……ということですか。おかしいですね。あなたは一度、水無瀬藍良さんに、掴みかかっていたでしょう。七月上旬、放課後の体育館裏での出来事です。そのとき、僕とも顔を合わせましたよね。どうですか?」

「……覚えて、います」

「そのとき、彼女とどんな会話をしたか、具体的にお答えください」


 花倉は唇を小さく震わせる。だが、声として言葉にはならない。千景は間髪入れず続けた。


「そこで決定的な何かに気付いたのではありませんか?だから、水無瀬さんに詰め寄った。違いますか?」

「あの時、わたし……わたし……そんなことを?お……覚えてない。そんなの……覚えてません!」

「たった今、当時の出来事を覚えていると仰ったばかりですよ。それを今更覚えていないとは、どういうことですか?なぜ突然『覚えていない』のですか?」

「それは……急に……思い出せなくなって……本当です。自分でもどうしてかわからないの」


 花倉の目に涙が滲む。


 ──ここまでだ。


 兼翔はそう判断した。


 花倉の発言には、一貫性がない。

 記憶の混濁(こんだく)。言葉の矛盾。

 これ以上、精神干渉を受けた者への審問など、無意味だ。


 兼翔は、そっと千景に身を寄せて小声で告げた。


「おい、いつまで続けるつもりだ。花倉は十中八九、カグヤから精神干渉を受けている。普通の審問ではカグヤの手がかりは掴めない。精神干渉者の審問に慣れている幻道様に任せろ」


 兼翔の言葉が放たれた直後、机を叩く音が響いた。


「いい加減にしてください!」


 蘭丸が立ち上がり、声を荒げる。


「こんな一方的な審問……続けるというのなら、審護を担当するこの僕を通していただきたい!」


 一瞬、場が張り詰める。

 その沈黙の中で、千景はにっこりと笑った。彼の細目は真っ直ぐと曇りなく、それでいて冷徹に花倉を見据えていた。


「花倉さん。あなたの目的は真白さんを追い詰めること──それだけではないのでしょう?」


 この言葉に、兼翔と蘭丸は目を見開いた。千景は微笑みを崩さないまま、続けた。


「いい加減、猿芝居はやめにしませんか。あなたは一貫して、大きな目的のために動いていた。そうですよね?」

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