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第59話 分裂の序章

 ──精神干渉。


 死神、あるいは生者の心に触れ、乱すことができる危険な力。

 記憶の上書きや消去はもちろん、感情そのものを植え付け、相手の在り方を変えてしまう。そんな悪意を(はら)んだ存在。


 百年前の片寄藍良への審問でも、千景はこうした精神干渉の本質を語っていた。

 当時、彼女の心の中で耳を潜めていた真白は、「そういう力もあるんだ」くらいの認識だった。だが実は、すべての発端はカグヤであり、審問官たちは“闇属性”に加えて、“力の出どころ”そのものを警戒していたのだ。


 真白はタマオの話を聞きながら、小さく頷く。そこへタマオがひょいっと顔を寄せてきた。


「どうしたのじゃ、藍良。急に黙り込んで」

「ううん……。で、死神審問官になったカグヤが起こした事件って何だったの?」

「うむ……順を追って話すとしようぞ……その前にじゃ、藍良」

「ん?」

「ここからする話は、本当に本っ当~~~に内緒じゃぞ!千景も兼翔も、わしが口を滑らせたと知ったら、きっとプンプンじゃ!」


 タマオはそう、真剣に念押しした。真白は笑いながら、そんなタマオの鱗を撫でる。


「わかった、わかった。絶対言わないから。それで?」

「……カグヤはのう、あまりにも優秀すぎて、死神審問官の憧れの的になっておった。じゃが……噂では、その頃からすでにカグヤは“精神干渉”を始めておったそうじゃ。記憶の書き換えや消去を、少しずつ……な」

「何のために?」

「さあ。これはあくまでもわしの推測じゃが、カグヤは“試していた”のではなかろうか。自分の力で、どこまで他の死神の精神を操れるかを」


 ──悪趣味なやつ。


 真白は心の中で、そっと毒ついた。

 タマオはさらに続ける。


「そんな折、ちょうど当時の最高審問官が退いたんじゃ」

「最高審問官って、確か死神審問官のトップ……だっけ?」

「そうじゃ。その退官に伴って、今の千景の上司がその座に就くことになった。じゃがのう、そこに至るまでにひと悶着あったのじゃ」


 そう言いながら、タマオはさらに声を潜める。


「実は、死神審問会には“二つの派閥”がある」

「派閥?」


 初耳だ。真白は思わず瞬きをした。


「ひとつは白隠派(びゃくいんは)。千景や兼翔、そして現在の最高審問官が所属している派閥じゃ。カグヤのような闇属性やユエが扱っていた禁術を強く警戒しておる。調査して危険と判断すれば、即座に封じる。だからこそ、闇属性を必死に探しておるわけじゃな」


 真白は頷いた。


 ──確かに。千景や兼翔の行動は、まさに“白隠派”だな。


「もうひとつは幽光派(ゆうこうは)じゃ。こちらは禁忌(きんき)の力をも“秘められた可能性”と肯定しておってな。危険な死神も、すぐに黒標対象扱いにはせん。審問会が管理し、必要とあらばその力すら利用すべし──そう考える派閥じゃ。ちなみに、当時カグヤに心酔しておった死神たちも、多くはここに属しておったようじゃ」

「なるほどね。闇属性を持つ異端な死神……カグヤがどっちの派閥かは、聞くまでもないな」

「そう、カグヤは完全に幽光派側じゃった。最高審問官が退任して、新しい最高審問官を選ぶことになった審問会は、この白隠派と幽光派の争いとなった。そしてカグヤは、幽光派の代表として、どうしても最高審問官の座を手に入れたかったのじゃ」


 そこで真白は、ひとつ息を呑んだ。


「……権力そのものを、奪いにきたわけか」

「じゃがのう、前任の最高審問官が白隠派だったこともあって、新しい最高審問官も“白隠派から選ぶべき”という声が、圧倒的に多かったんじゃ」


 タマオは尾をゆらりと揺らしながら、神妙に続ける。


「そこでカグヤは、最高審問官の座を掴むために、大胆な方法に踏み切った」

「……それが、“精神干渉”か」


 タマオが深く、ゆっくりと頷く。


「カグヤは自ら、白隠派の死神たちの記憶を、少しずついじり始めたんじゃ。ときには消し、ときには塗り替えて……そうして徐々に白隠派の死神たちを幽光派側に移していった。気付けば、派閥の力関係は大きく傾きかけておった。じゃが、そんなカグヤの企みに気付いた死神がいた」

「……誰?」


 タマオは真白を真っ直ぐに見つめ、一段と静かな声で告げた。


「後に審問官たちを束ねることになる、現在の最高審問官──幻道(げんどう)じゃ」


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