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虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─  作者: あさとゆう
第3章 運命の死神審問会

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第55話 タマオのチョロかわな掌返し

 翌日。藍良は寝室で麻婆豆腐をハフハフと飲むように平らげるタマオと向き合っていた。今日の晩御飯は藍良の担当。昨日スーパーで買った食材で作った麻婆豆腐は、千景はもちろん兼翔にとっても、人生──いや、死神生初の中華だったらしい。


 兼翔は食べるなり、材料の比率や香辛料のバランスを分析し始め、「これなら俺にも作れる」と豪語していた。激辛好きの千景には、香辛料マシマシで提供。それが気に入った様子で、彼は何度もおかわりしてくれた。


 そんな和やかな食卓は終わり、いよいよ真白との“作戦”の時間がやってくる。


 その“作戦”とは、ただひとつ。


『タマオからカグヤ神について聞き出す』


 ──それだけの、しかし藍良と真白にとっては大事な過程だ。


 藍良は心の中で「もう出てきていいよ」と呟いた。次の瞬間、ふわりと身体が軽くなる。視界が揺れたのと同時に、意識がゆっくりと心の奥底へ沈んでゆく。そして藍良の代わりに、真白が静かに目を開けた。


 すると、麻婆豆腐に夢中だったタマオが、ピクリと動きを止めた。真白は思わず息を呑む。タマオは一瞬、周囲の“気配の揺らぎ”に気付いたようだが、すぐに首を小さく振ると、再び麻婆豆腐に一直線。どうやら、真白が出てきた気配を察知したものの「気のせい」だと思ったらしい。真白は胸を撫で下ろし、小さく息を吐いた。


 ほどなくして、皿を空にしたタマオは、満足げにごろんと床へ寝転がる。


「ふおおお~~♡旨かった……旨かったぞ、藍良!!」


 真白はにっこり笑って、タマオの鱗をそっと撫でる。


「良かった。綺麗に食べてくれてありがとう」


 そう言いながら、視線を部屋の時計へと移す。時刻は夜の八時半。自分が外に出られるのは三十分が限度。つまり、タイムリミットは九時までだ。


 藍良は「もし聞けなかったら明日また聞こう」と軽く言っていたが、真白としては藍良の身体に負担をかけるわけにいかない。できれば、今ここで情報を聞き出したい。

 そう心に決め、真白はタマオを鋭く見つめた。


「ねえ、タマオ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 真白はなるべく、いつもの“藍良っぽさ”を真似て声をかけ、そのまま本題へ踏み込んだ。


「カグヤ神のこと。タマオ、詳しい話知ってる?」

「カグヤ神?千景が封じた、例のあやつか」

「そう。ホラ、わたし何も知らないし、千景も教えてくれない。でも、ずっと気になってたの」


 タマオは(わず)かに頭を伏せ、上目遣いで真白を見つめた。そして、ため息をひとつ。


「千景はまっこと口が堅い男じゃな」

「そうそう。ほんとにね」


 ──よし、良い流れ。このまま押せば、何か聞き出せるかも。


 そう思ったのも束の間。タマオの口から予想外の言葉が飛び出した。


「じゃが、気持ちはわかる。ユエの件があってから、千景は藍良をこれ以上危険な目に()わせとうないのじゃろう。はぐらかされて、傷付いたのか?藍良」


 真白は目を瞬かせた。いや、今はそんな話はしていない……とツッコミたい気持ちをグッと(こら)え、ぎこちなく笑う。


「ううん。千景は何も言ってないよ。ただ、わたしが個人的に知りたいだけ」

「そう……じゃったのか……」


 すると、タマオはしばらく俯いたまま黙り込み、やがてゆっくりと顔を上げた。


「すまん。千景が話しておらんなら、わしも話せん。わしも藍良をもう危険な目に遭わせたくない。あのとき、ユエと大蛇に襲われていた藍良を思い出しただけで、わしは……わしはぁ……」


 タマオは身体を小刻みに震わせ、瞳をウルウルさせた。どうやらユエの一件が、千景もそうだがタマオにも相当な心のダメージを与えていたらしい。それだけ藍良は大事に思われている……ということにもなるのだが。


 ──そういえば、千景も泣きべそかいてたな。情けない死神と神蛇め。こっちにはこっちの事情がある。とっとと話せ、この阿呆(あほう)……。


 と、ここでも真白はツッコミたい気持ちをグッと飲み込み、どうにか笑う。

 だが、タマオの様子を見る限り、どうやら話す気はなさそうだ。


 ──作戦失敗か。


 真白が心で呟いた、そのときだった。


 ──真白!諦めないで!もうひと押し!食べ物で釣って!


 心の奥底から響いてきた藍良の声に、真白は思わず苦笑した。コホンと咳払いをしたあと、まだ身体を震わせているタマオへと向き直る。


「ううう……ぐすん、ぐすん」

「……ねえ、タマオはだし巻き卵、好き?」

「ぐす……ん?だし巻き卵?うむ!大好きじゃ!好物じゃ!」


 先ほどまでの涙が嘘のように、一瞬にして引く。その変わり身の速さに、真白は危うく吹き出しそうになった。


「もし話してくれたら、だし巻き卵食べ放題。わたしも作るし、兼翔にも頼んで、たーっくさん作ってもらう。どう?考えただけで、心躍らない?」


 すると、タマオはその場で前半身をちょんちょんと上下させたあと、クネクネと真白の腕に巻きついた。鼻先をそっとすり寄せ、嬉しさを全身で表す。


「ふおおおお~~!躍る~~♡わし、踊りながらだし巻き卵食べちゃう~~♡」


 あまりの変わりように、真白は目を丸くした。だし巻き卵ひとつで、こんなにあっさり陥落するとは。なんだ、このチョロ可愛い蛇は……。そんな顔をされたら、頬を緩まずにはいられない。タマオの無邪気さに、真白の心もじんわり温かくなる。


 すると、タマオは真白から離れ、ピンっと身体を伸ばした。さっきまでの浮かれた表情は消え、真っ直ぐ真白を見つめる。その瞳には、僅かな影が宿っていた。


「……わしも全部を知っているわけではないのだが……」


 タマオは小さく、しかし重みのある声で続けた。


「カグヤ神──カグヤはな、もともと死神審問官だったんじゃ」


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