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虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─  作者: あさとゆう
第3章 運命の死神審問会

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第46話 蘇る、炎の記憶

 千景の問いに、藍良は数秒、息を止めた。真白との会話で、死神審問官である千景や兼翔がいずれ自分に探りを入れてくるとは予想していたが、まさかこんなに早く来るとは。疑われるかもしれないと聞かされたのは、ついさっきのこと。どう誤魔化(ごまか)すか、まだ考えをまとめていなかったのだ。


 焦りが込み上げ、鼓動が一気に速くなる。藍良は自分を落ち着かせようと、ゆっくりと息を吸い込んだ。


 落ち着け。ここで動揺したら、千景に悟られる。真白を……彼女を守らなきゃ。そのためには、いくら相手が千景でも、この事実を隠さなければならない。とはいえ、下手な嘘を()けばすぐに見抜かれてしまうだろう。ここは、ある程度素直に答えるのが吉──そう思った藍良は顔を上げ、言葉を続けた。できるだけ自然に、そして明るく。


「わたしね、あのあと『虚映の世界』っていうところに飛ばされたの」

「虚映の……世界?」


 千景は眉をひそめた。どうやら、この術は流石の千景も初耳のようだ。


「うん。神気を宿す者は入れないっていう世界。ユエがそう言ってたよ。千景と兼翔、タマオが追って来られないように、わたしと藤堂先生をその世界に飛ばしたって」

「……そうなんだ。それで?」

「それで……ホラ。わたし、人間だけど、ちょっぴり神気あるらしいじゃん?」

「……うん」

「それで、神気が出たのかなんなのかわかんないけど、戻ってこれたの。空間がこう……ぐにゃあって歪んで、気付いたら先生と体育準備室にいた。そこで先生をグルグル巻きにして、そのあと音羽に化けてたユエに出くわして……って、あ!!」


 藍良は思わず声を上げた。千景も驚いたのか、僅かに目を見開く。


「そういえば、藤堂先生は!?あのあと、どうなったの!?」


 すると、腕に巻きついていたタマオがチロチロと得意げに舌を出した。


「藤堂の奴なら、今ごろ警察じゃ!」

「警察!?」


 藍良は千景とタマオを交互に見る。警察ということは、逮捕されたのだろうか。そんな藍良の心境を察したのか、千景は穏やかに微笑み、頷いた。


「あのあと、気を失った藍良を背負って、藤堂先生の邪気を辿ったんだ。体育準備室で気を失ってた。傍らには写真があったよ。猫を……痛めつけた写真。あれを、藍良は見てしまったんだよね?それで藤堂先生から命を狙われた」


 藍良は黙って頷いた。すると、腕に巻きついていたタマオがするりと動き、藍良の顔を覗き込む。


「ユエだけではなく、藤堂からも狙われておったとは……怖かったじゃろう、藍良よォ~~遅くなってすまなんだ~~」


 涙声でそう言いながら、タマオは藍良を慰めるようにペロペロと頬を舐め回す。藍良は困り顔で小さく笑いながら、その鱗を優しく撫でた。


「大丈夫、大丈夫。ねえ、藤堂先生さ、わたしのことなんか言ってた?」

「気絶したまま警察に引き渡したから直接話したわけじゃないけど、実は念のため記憶は消してあるんだ。ユエに繋がるような、現実離れした記憶は」

「え?」

「ユエの存在は、公にできないから。本当なら藍良への殺人未遂としても扱われるはずなんだけど、ごめん。こっちの都合で……。その代わり、藤堂先生が藍良にしたことは、こっちの審問帳に記載しておくことになる。冥界での審問に備えて」

「審問帳?」

「人間の罪を記す帳簿だよ。藤堂先生が人生を終えて冥界に辿り着いたとき、その帳簿を基に、裁かれることになる」


 そういえば、真白が言っていた。人間は死んだら冥界に行く。そこで審問官たちに生前の徳や罪をジャッジされ、転生するか、冥界で罪を償うか、決められるのだと。


「そっか……」

「それでね、実は藤堂先生、気を失いながらうわごとを繰り返していたんだ」

「うわごと?」


 千景は頷き、低くその言葉を呟いた。それは──。


 ──焼かれる、焼かれる。誰か、助けてくれ。


 空気が一瞬にして、ひやりと揺らぐ。


「これ……どういう意味か、わかる?」

「え……?」

「たとえば、藤堂先生と一緒にいたとき……炎を見たとか」


 藍良の脳裏(のうり)に、一瞬にしてあのときの光景が蘇る。


 藤堂が口にした「焼かれる」──おそらく、「虚映の世界」から出るとき、真白が月詠みで放った、あの炎だ。あのとき、藤堂はまだ意識があった。真白は藍良を守るために、炎を放ったのだ。炎の月詠の力が虚映の世界に満ちたおかげで、結果的に藍良たちは現実世界に戻ってこられたのだが、藤堂からしてみたら、「焼かれる」と思い、呻いたとしても不思議ではない。


「藍良?」


 名前を呼ばれてハッと顔を上げた。千景は瞬きひとつせずに藍良を見据えている。その眼差しは、心の奥底まで覗き込むように深く感じられた。胸の奥で、どくんと音が鳴った。冷静さを装い小さく笑って見せるが、額にはじわりと冷や汗が滲む。


 どうする?どうする!?


 誤魔化(ごまか)す言葉を選ぶ余裕はない。

 けれど、黙っていればもっと怪しまれる。


 藍良は意を決して千景に向き直ると、ゆっくりと口を開いた。


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