表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─  作者: あさとゆう
最終章 運命の死神審問会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/111

第103話 真白の切り札

 カグヤが放った氷は、(つた)のようにしなやかに藍良の両足首に絡みつき、そのまま容赦なく地を引きずっていった。


「千景!!」


 藍良が叫ぶ。千景は即座に光の月詠を唱え、氷の蔦を断ち切るべく光の矢を放った。だが、一直線に走る矢を、蔦は蛇のようにするりとかいくぐる。矢は虚しく(くう)を切り、藍良の身体はなおも引きずられていく。


「くそ!」


 千景の悪態と重なるように、今度は兼翔の炎の月詠が響いた。放たれた炎は数匹の蛇のように姿を変え、地面を()いながら藍良を絡め取る氷へと迫る。だが、次の瞬間、カグヤはそれを嘲笑(あざわら)うように、藍良の身体を地上から数メートル上空へと吊り上げた。


「水無瀬!」

「ひ、ひやああぁぁぁ……」


 思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声が飛ぶ。絶叫マシーンさながらの急上昇に、藍良の心臓はひやりと凍り付いた。だが、その直後。胸の奥にじんわりとした熱が灯った。この感じは……。


「ま、真白!?」


≪任せろ≫


 次の瞬間、藍良の視界が沈んだ。まぶたを閉じる寸前、最後に見えたのは虹色の光——真白の神気だった。


 真白ははっと目を見開き、すぐさま体勢を整えた。そして、空中で氷の蔦に翻弄されながらも、足首に絡みつくそれに、光の属性を放つ。じゅうっと小さな音を立て、氷が少しずつ溶けていく。だが、溶けきるよりも早く、別の氷の蔦が伸び、今度は足首から腰へと絡みついた。


 真白は鋭く視線を落とす。地上では、カグヤが口元を歪ませていた。


「お前から片付けてやる」


 冷徹な声が響く。その言葉を受け、真白の身体を再び強い虹色の光が(おお)った。


「真白!月詠はよせ!」


 兼翔の声が飛ぶ。だが、真白は応えず自らの懐へ手を差し入れた。取り出したのは……。


 ——虚映ノ鏡。


「千景!わたしに光の月詠を放て!」


 真白の言葉に、千景は口をあんぐりと開ける。


「え……えええぇぇ!!??な、何を言い出すんですか!藍良の身体に月詠を放つなんて……」

「いいから早くしろ!」


 真白の怒号に、千景の肩が頼りなく揺れる。一瞬考え込んだあと、千景は首を振り、顔を伏せた。


「で……できない。藍良に月詠なんて」


 僅か数秒で追い詰められた千景を見かねて、兼翔が真白へ声を上げる。


「おい!俺の炎の月詠じゃダメなのか!?」


 真白は舌打ちし、苛立ちを隠そうともせず叫び返す。


「炎じゃない!必要なのは光だ!さっさとしろ、このタコ!」


 兼翔は目を凝らし、真白の手元を見た。その手に虚映ノ鏡が握られているのを確認すると、千景の背をバンッと強く叩く。


「おい!あいつ、例の鏡を持ってる。何か策があるのかもしれん」

「そんなこと言われても……」


 千景の声は震えていた。

 そのとき、不意に頭上からか細い声が降ってくる。


「千景やぁ~~真白を信じるんじゃああぁぁぁ……!」


 タマオだ。藍良——いや、真白の首に巻きつきながら、今にも消え入りそうな声で叫んでいる。


 千景は息を呑み、唇を噛んだ。

 そして、意を決したように拳を握りしめると、一歩前へ進み、光の月詠を紡いだ。


 ──


 我が身の影よ 刃となれ

 力を纏い 空を舞え

 月の光よ 我が手に集い

 虚ろの者に 裁きを与えよ


 ──


 千景の前に、幾本もの光の矢が輝きを(まと)いながら集束していく。その切っ先が狙いを定めた先は、真白。千景は大きく息を吸うと、迷いを断ち切るように矢を放った。

 真白は鏡を逆手に持ち替えると、矢を迎え撃つように顔の前へ掲げる。そして、力強く叫んだ。


 ──


 顕現(けんげん)せよ 虚映ノ鏡

 我が魂を礎に

 真なる術を 虚へと転じよ


 ──


 一瞬、鏡面がきらりと光った。


 次の瞬間、千景の放った光の矢は、鏡の中へすさまじい勢いで吸い込まれていく。まるで飢えた獣が獲物に喰らいつくように。あまりの衝撃に、鏡を握る真白の腕が大きく震える。それでも真白は、力を逃すものかとでもいうように、さらに強く、柄を握りしめた。


「これは……なんということじゃ……」


 鏡を見たタマオが、呆然と呟く。

 やがて光を呑みきった鏡面は、徐々に闇を帯びはじめた。


 どろりと揺れるその黒は禍々(まがまが)しく、小さな——無数の(むし)がうごめいているように見える。真白はそれを見届けたあと、再び鋭くカグヤを見下ろす。真白の全身から溢れる神気は、先ほどとは比べ物にならないほど強く、美しく輝いていた。


「これで終わりだ」


 次の瞬間、鏡から金属を引き裂くような共鳴音が響いた。直後に放たれたのは、光を喰らい、闇へと姿を変えた一筋の線。


 それは目にも止まらぬ速さで、真っ直ぐカグヤへと伸びていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ