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第8話

 すっかり夜が更けて、満月から少し欠けた月が西の方に隠れようとしていた。


 ポツポツとついた民家の灯りがぼんやりと夜道を照らす。


 一組の男女が砂利道を進んでいた。


 特に少女は頭に赤い花を咲かせて絶好調な様子だ。


 下町の中を進むにつれて生活感のする匂いが濃くなる。


 フローラにとっては体に馴染んだ匂いだ。


 自分が吐いた息が白い塊となって踊りながら去っていく。


 かつて同じようにこの道を歩いた日のことを思い出した。


 《《《


 おばあが近所のおばちゃんを占いに行くのに付き添った帰り道。


 フローラは自分の口から出てくる白い塊と格闘している。


 ふと疑問に思ったことを口にした。


「おばあ、おばあが出かけるときっていつも誰かの占いしてんの?」


 おばあは急に家から消えることが度々あった。


 少し考えてから、おばあは答えた。


「半分くらいは占いしに行ってるねぇ」


「もーはんぶんはー?」


 おばあは少し言葉を選んで答えた。


「親友を助けに行ってるの」


 おばあは西の方に振り向いて言った。


 フローラもおばあに合わせて西を見る。


 月が西の端に隠れようとしている。


「しんゆう?」


 小さなフローラにはまだ難しいようだ。


「心から慕っている人のことよ」


「したうぅ?」


「大好きということ」


「せやったら、うちとおばあも、しんゆうだぁー」


 フローラはワーイというように両手を高く上げて叫んだ。


 おばあは優しい顔ではあったが、はっきりと首を横に振った。


「あたしにとってあんたは愛おしい宝物だよ」


 フローラはハテナを飛ばしながらも、恥ずかしさで朱色のマフラーに顔をうずめた。


 《《《


 フローラは未だに親友の意味が分かっていない。


「ベン兄、親友って何やと思う?」


 フローラは隣を歩くベン兄に唐突に聞いてみた。


「俺たちみたいな関係やないん?」


 ベン兄は、何を聞くという感じだ。


(えっ、ごめん)


 フローラはベン兄に対して本日二度目の失敗をしてしまったようだ。


「うちは、ベン兄は宝物やと思ってた」


 ベン兄はまたフローラ独特の言い回しが来たぞと思った。


 恋人にいうような言葉を幼馴染に言うんじゃないと心の中で突っ込んどいた。


「えーと、ありがとぅ」 


 ベン兄は白手袋した右手で頬をかきながら言った。


「おっほん、学園内に親友おるん?」


 フローラは攻め方を変えることにした。


「いるよー」


 ベン兄は軽く答える。


(そーやんな、羨ましいなぁ) 


 フローラはもちろんいない。


『弱冠の鬼才』は絶賛ぼっち中なのだ。


 もっとも、今学期からはベン兄と同じ学年だから一人いると言えるかもしれない。


「どうやって作ったん?」


 フローラはできる限りさりげなくきいた。


「もしかして、友達おらんこと気にしてるん?」


(そら、気にするやろ) 


 フローラは肯定を言葉にするのは現実を認めるみたいで出来なかった。


「フローラ、友達には作り方は無いと思うで。特に、親友にはな」


 ベン兄は立ち止まってフローラの肩にポンっと手を置き、続けて言う。


「まあ、肩の力を抜けって。何も考えるなとは言わん。いや、むしろ考えろ。考えて考え抜いた結果ならきっと納得できる」 


 ベン兄は真面目な光をその黒目に宿してフローラに語る。


 フローラはベン兄が真剣に答えてくれたのは嬉しかったが、全然納得していないといった感じだ。


 フローラの悩みが解決するのには、残念ながら、時間がかかりそうだ。


「ほら、着いたぞ」


 どうやら、立ち止まったのはフローラの家に到着したかららしい。


 玄関が開く音がして、そちらを見ると、勢ぞろいで家からぞろぞろ出てくる。


「「「「「「お誕生日おめでとう!!フローラ」」」」」」


 あったかい声が満天の星空の下に広がる。


(忘れてたー。今日、うちの誕生日やん。ついに15歳かー)


1月13日。フローラの誕生日である。

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