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第5話

「おーい、大丈夫かー。おーい、ローラ」


 ベン兄はフローラの様子を見かねたのだろう。


 左手でフローラの腰を支えて白手袋をした右手で頬をペチペチした。


「いたっ、レディに何してくれるん!?ベン兄」


 賢明にもベン兄は“レディ”には突っ込まなかった。


 というよりは、それどころではないほどにフローラを心配していた。


「いや、ローラが目開けたまま、寝たんかなって思って」


 フローラの心中をおもんぱかってベン兄は事態を曖昧あいまいに表現した。


「ごめんっ。ベン兄は頭の上にイチゴ乗せたら可愛い事に気づいたー」


 フローラの目に力が入っていない。


 ベン兄はツッコミどころに迷っただろう。


「分かった。一回落ち着こっか。曲ももうすぐ終わるし、そしたら休憩な」


「えへへ」


 ベン兄はフローラがついに壊れてしまったことを悟った。


(セキガンって赤眼で隻眼ってことなん!?)


 ベン兄の肩越しにチラリと赤眼で隻眼である男性の様子をチラリと伺うと目がバチッとあった。


(え~と、さっきも見られてたようなー。こわっ)


 本当はダンスが開始した時には既にその男性はフローラのことを注視していたのだが、フローラはそれを知らない。


 それでも、このままだと緋色の眼の男性に捕縛されるだろうという予感はした。


 その時、音楽が止まった。


 幸運にも、一曲の後にはお互いに感謝を伝え合う、つまり、お世辞の時間がある。


「ベン兄、ほんま、ありがと!うち、用事思い出したから、ほな」


「ローラ、フローラ嬢っ」


 フローラはベン兄の声を無視して小走りに人混みの間を縫ってバルコニーまで来た。


 実にダンスの切り上げの速さは人類史上最速に違いない。


 肩で息をしながら、振り返ると振り返ると黒の眼帯の男性がこちらに近づいてくるのが見えた。


(なんでーー)


 頭の中におばあの声が響く。


「セキガンはダメ。セキガンは絶対ダメ」


 よく分からない恐怖で背中に電撃が走った。


 無意識に体が動いてフローラは後退った。


 すぐにバルコニーの柵に腰が当たり、気が動転していたので、そのまま背中からひっくり返った。


 色変する髪に月光が反射して何色とも断言できないような幻想的な色となり、弧を描く。


 パーティー会場の明るい光にぼんやりと照らされたその場所で、濃い赤色から淡いピンクまでを重ねたドレスがふわりと舞う。


 二匹の小さな鮮やかな赤色の蝶がフローラの周りにまとう。


 どうやら咄嗟とっさにバック宙をして素晴らしい着地をしたようだ。


 一つ言うことがあるとすれば、地上より少し高い所にあるとはいえ、ここは一階だからバック宙をする必要はなかったかもしれない。


 この夢見心地な光景を見たものがいるとすれば、その人の世界から音は消えて思考は停止するだろう。


 実際には、ただ一人を除いて、誰も見ていなかったのだが。


 今のフローラはしゃくに障っただろうが、それは緋色の目をした男性だった。


 ただ、足止めという意味では、実際にその男性の足は止まったのだから成功していたのかもしれない。


 フローラは庭園を走った。


 隻眼の男性も我に返ってフローラを追いかけた。


(悪霊退散、悪霊退散ー)


 心の中で呟きながら、千切れるのではないかと思うほど手足を動かした。


 すぐ近くに気配を感じて悲鳴を上げようとした時、後ろから黒手袋をした左手でガッチリと掴まれて、無理やり口を同じく黒手袋をした右手で塞がれた。


走っていた時間は一瞬にも無限にも思われたが、悲しいかな、実際は十秒足らずだろう。


というのも、会場の建物の端へすらまだ辿り着いていなかったからだ。


男性は180センチ程度、フローラは160センチ程度であることを考慮すれば、歩幅が違うのだから至極当然のことだ。


(終わったやん、これ…)



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